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奮起

 暗闇の中、草原エリアの拠点へ。


「はっ……はっ」

 体を引きずるように、歩いている。長時間なまけていたせいもあるが、やはり簡単には立ち直れないらしい。

 なのに僕は、小さく笑っていた。

「へ、へ……おせぇんだよ。歩きだすのが」

 草を踏み締め、僕は確かに草原を歩いている。そうすることが出来た事実が、嬉しいんだ。あっ、ぎざぎざ草いてぇ。靴、ほしいな。

(わりィ……ジン太)

 随分と、時間を消費してしまった。失った時、使うことが出来なかった努力は、戻ってこないが、目標を諦めたわけじゃないんだ。

 拠点近くの光る大木を目印に、前向きに進む。

 

 ――まだ、可能性は残ってる。だったら、行くしかないだろっ。


(開会式は、終わった……とにかく決勝までには……フィルさんの力量次第じゃ……そこまで甘くないか……とにかく、もっと力を磨かないと……ゴンザレスどころか、とても奴は倒せない……!!) 

 スカイフィールド北に位置する、高山エリア。

 紅色の山々が連なる最大の難所にして、この魔境から脱出する為の大きく強固な門。その奥で待ち構える怪物は、間違いなく魔境最強の存在だろう……。

 ドストーン以上、の。

「……やって、やる。……やらなきゃよっ」

 うわ、情けねぇ声っ!こんなんじゃ、負けちまうよ……砕けた自信は、未だ修復途中か。

(それでも、こうして挑戦する気概は残ってる……!)

 

 なら、頼れる相棒と共に怪物殺しを成し遂げる。その結果を、出すのみだ。


(ジン太と一緒じゃなきゃ、とっくに折れてたかもしれねぇ。……とても一人じゃ、踏破できると思えねェよ) 

 自信過剰過ぎたんだ、僕は。それが良い方向に働く時もあるが、今回に関しては失敗だ。一人で突っ走って、無駄死にするところだったぜ。

「……となると。問題は……」

 どう、謝罪するか。だな。

 言い過ぎた。何度も、助けられてるくせにな。ジン太の野郎にも、非があるが。

「……いや、普通に真髄に謝れば良いだろ。なに、弱気になってんだ」

 とりあえず、謝罪後の一発ギャグでも考えておくか……。

 いや、そんな事考える暇あったら……。


「うーん……こう……あっ」


 あれこれ考えてる内に、薄暗闇の中で小屋が見えてきた。

 その前に立つ人影も見える。ジン太だ。こちらに向かって、走ってきた。

「……よう、久しぶりだな」

「ああ……」

 僕とジン太は、向かい合って立つ。

 ぼさぼさの黒髪に、不格好なひげ面に、薄汚れて破けた黒い上着。見るからに貧相なナリで、優雅さの欠片もないが。

 

 目に宿るそれだけは、変わらずに。

 

 なんとも気まずい雰囲気だ。嫌すぎる。ジン太の表情を見るに、同様のようだ。

 内に渦巻く感情を、全て吐き出すよう。僕は思い切って、頭を下げて言葉を発する。


「すまなかったッッ!!ジン太ッッ!!」

「悪かったッッ!!ロインッッ!!」


 大きな声が、重なった。

 真髄な謝罪の気持ち。自信を持ちすぎて暴走した馬鹿に付き合わせたあげく、お節介野郎とまで言ってしまった事に対する後悔の念。逃避した事による大幅な時間の消費に対する、不甲斐なさ。

様々な思いが込められた言葉は、同じように真髄な気持ちが込められた言葉とぶつかり合った。

「……」

「……」

 ちゃんと聞こえたか、不安になった。僕は、聞こえたけどよ。

 ……もう一回言うのは、ちょっと。勘弁して欲しい感情が。

「……ちゃんと聞こえたよなっ?」

「お前こそっ。俺は、届いたぞっ」

「……僕もだ」

 再びの、気まずい雰囲気。なんか、停滞気味だ。これは、不味い。

「……あの、よ。あの時は、言い過ぎたよ。手助けしてもらってる分際でさ」

「付いてきたことについては、俺の都合だと言っただろ。気にするなよ。……俺も、あんな態度を見せて悪い。そういう所は、ちゃんと自覚してた筈なんだが……」

 それぞれの申し訳ない気持ちを、口にする。そうすることで、溜まっていた嫌なものが、少しなくなった気がするんだ。

 安堵の気分が、湧いてきた。

(……言いたいことは、まだある)

 とにかく今は、時間が惜しい。一刻も早く、力を磨かねば。

「ジン太、僕は」

「分かってるよ。行こうぜ」

 友はそう言って、背後の小屋を親指で指した。

「歩む為の靴も、戦う為の剣も、あそこにある。……どう使うかは、俺の想像通りで良いんだよな、ロイン」

 真っ直ぐに僕を見て、ジン太は言う。瞳に映るのは、強き信頼の光。あの時の僕が、鬱陶しく思っていたものだ。

 このポンコツ野郎を信じる、原動力となる輝きだ。

 

「――当然だろうがッ!!僕を、誰だと思ってやがるッ!!遥か頂ッ!!天の玉座ッ!!憎き宿敵を打ち倒してッ!!そこに座る男ッ!!ロイン・シュバルツだぞッッ!!」


 目指す場所は、未だ遠くに・されど必ず、届いて見せよう。


 ●■▲


 【実況者】の声は、自然とよく通るものだ。

 それが、人外の者だとしても。


「それではっこれよりっ、スカイラウンド第二試合ッ!チーム、ラスト・ソル対チーム、ビッグ・ハンマーの、第一戦を始めるぜッ!!」

 

 闘技場に響き渡る声は喧しく広がり、会場内の人間の鼓膜を叩く。さりとて、声を放つ人物は何処にも見当たらない。

「赤の陣に立つのはっ!外部枠で参加の、謎の黒髪美女ッ!フィルちゃんだーっ!!短パンに、袖なし上着と、ラフな格好の戦闘服っ!果たしてどんな戦いを見せてくれるのかー!……正直、ちょっと好みです」


「フフ……ありがとうございます。嬉しくないです」


 観客席が周りを囲む、円形の試合場。の上方。

 巨大な人の右腕と左足が、浮かんでいる。

 両方の間には、大きな鮫の頭部が。


 なんともアベコベ、珍妙な存在の【実況者】。

 楽し気、もしくは、事務的に試合を見守る。


「そして青の陣っ。普段は、巨大な茶鎚が調子に乗りまくりの巨漢っ。シリウス・バルトっ!上半身裸に、ぶかぶかの短いズボンっ。こちらも、動きやすい戦闘衣装っ。というか、上着てないっ。すね毛、やばいっ。誰が、得をするんだっ。泣けてきたっ」


「喧嘩売ってるぅっ!?」


 実況された両者は、試合場中央の白いリング上に描かれた、赤い陣と青い陣の内に立っていた。

「――両者、己の死力を尽くし、戦い抜くことを誓え」

 きっちりとした身なりに相応しい、整った声色。

 少し離れて向かい合った二人の中間に立つ男【審判者】は、有無を言わせぬ迫力で二人に言う。

「誓いますとも。ええ」

「誓うっ」

 二人の言葉、それを引き金にして陣が光を放つ。

 赤と青の輝きが、二人を包む。これは、選手の命を守る保護の盾。才物のシステム【内部構築】と【防御機構】を合わせて展開される、見えない鎧。


「よろしい。それでは、存分に――」

 

 審判者が了承し、光が消える。同時、審判者の姿が空気に溶けるように消え、シリウスの前に青一色の大きな鎚が、宙に浮きながら出現する。

「さぁ、遂に始まるぞっ!外部枠の実力は如何にっ」

 沸き立つ会場。注目は、何に対してのものか。

 リング上に残ったのは、十五メートル程の距離を空けて立つ、フィルとシリウス。二人の戦士のみ。

「シリウスっ!手加減してやれよーっ!相手は、か弱いお嬢ちゃんだぞっ」

「ぎゃははっ。むしろ、負けてやった方が良いかもなっ」

 リング傍から、シリウスチームの選手がフィルを侮った言葉を発する。

「……」

 フィルは無表情で、それを聞き。

「ふぅ、すまんな。品のない奴等で。悪く思わないでやってくれ」

 シリウスは、少し呆れた様子で聞いていた。

「……いえ、気にしてませんよ。まったく。まったく」

「そうかい。それは良かった」

 彼は、安心したように笑顔を見せ。


「じゃっ、降参してくれないか?いや、君がそこそこ強いのは分かるんだが、それでも弱い者いじめになりそうだし、さっ!」

 

 なんでもないことのように、善意の笑みで言った。本人的には、善意百割。

「…………フフ」

 もし、この場にジン太がいたら、こう言っただろう。

「――亡んだわ、この国」

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