的中
メリッサは、昔からこういう奴だったな。
「子犬をいじめちゃ、駄目ー!!」
色んな面倒事に首を突っ込んでは、解決出来たり、出来なかったり。
僕も何回か、手助けしたことがあったっけ。
彼女は、子供の頃から可愛かったからな!
「ありがとう、ロイン」
どういたしましてと、僕。
その笑顔を見られるなら、喜んで。
だが今回は、それだけじゃなかった。
「……でも、駄目だよね。このままじゃ」
彼女はそう言って、表情を変えた。
うまくは言えないが、とても強い顔だと思う。きゃわいいぜ。
「あたし、もっと強くなるっ!!」
「……強くなりすぎだと、思うんですよ」
地に落ちた、五人のチンピラ。体格が良いのが、二人。
完膚なきまでに叩きのめされた奴等を見て、僕は思わず言ってしまった。
それほどまでに、圧倒的だったからな……。僕が介入する余地、なし。
勝てる気がしない。戦いたくもないけど。
「まだまだね、あたしも」
平然と男達を殺戮しておきながら、彼女はやれやれと首を振り、不満気だ。
更なる強さを求めるか……。やばいな、このままでは……!
(……気軽に絡めなくなるぜ!ちょっとアウトローな発言しただけでも、殺されかねない。デンジャラス!)
まあ、それでも突っ込んじゃうのが僕なんですけど。
彼女が魅力的なのが、悪いんだよなぁ。うんうん。
「……さてっと」
メリッサは、絡まれていた黒髪美女様に近づき、話しかけた。
「怪我はありませんか?うちの学院の生徒が、失礼をしました。ごめんなさい!」
美しき光の、並ぶ光景……!目が焼かれかねない……!だが、スケッチしたい!!猛烈に、描きたい!!
「……怪我はないです。助かりました。ありがとうございます」
平坦な声で言い、謎の美女は少し頭を下げた。
そんな他愛ない動作ですら、何故か特別なものを感じてしまう。
(彼女、一体なにもの)
この学院の生徒では、ないだろう。
これほどの美女を、僕が見逃す筈がないんだぜ。美女ランキングのトップ達ともやり合える、ハイスペック。
「……この学院の生徒、じゃないわね。入学希望者ですか?」
問いは何気なく。
メリッサも見覚えはないか。
「いいえ、違います。用事の帰りに、気まぐれで立ち寄っただけですよ」
用事の帰り?
……よく見ると、左手に小さい袋を持っているな。買い物帰り……食い物かね。
「そうですか……」
少しがっかりした風の、メリッサ。安堵しているように見えるのも、気のせいではないんだろう。
入学希望の娘にあんな体験させるとは、最悪すぎんぜ。
「……それでは、私はこれで」
「あっ、はい!帰り道、お気をつけてっ!」
「ええ」
黒髪不思議系美女様は、僕達に華麗に背を向け、歩き去っていく。
(黒いキャミソール……見える背中。素晴らしい)
美女は、やはり後ろ姿も美しく、僕の心は縦横無尽に飛び回っていた。
(スケッチ……頼めば良かったかな……)
僕の趣味の一つ、美女ランキング(メイ以外、全員、一位)の作成……。その為に絵を描かせてもらうのだが、遠慮せず見ることができるので、僕としては至福の一時だ。
(いや、流石に時間がないな。それに……)
なんか彼女は、危険な感じがした。
そんな事を頼んだら、次の瞬間には首をへし折られていそうな……心臓を抜き取られていそうな……危険な気配。
……それは考えすぎだろ、僕。どこの悪の親玉だよって。
僕が見るに彼女は、大人しくて内気で読書が好きで、茶髪の頼れる男が好きな、そんな天使だ。間違いないね。
「……助け、いらなかったかも」
「はっ?」
事が終わり校舎に戻ろうとしたメリッサが、すれ違う時にそんな事を言った。
「どういう意味だよ」
「……ただの勘よ。忘れてちょうだい」
微妙に気になることを口にした後、彼女は直進して右に曲がり、校門の向こうに消えていった。
意味は分からんが、気にしてる場合じゃない。
「今度こそ。ノンストップだ!」
勢いよく腕を振り、走り出す。
騒がしかった一日も、本当にこれで最後だ。
今日は、ある決意をした日でもある。
(ゴンザレスへの、リベンジ)
きっと、スカイラウンドで奴と戦うことになるだろう。
歓声を受けながら、対峙する僕と奴。
戦い、火花を散らし、奴を越える。そうなる時は、決勝が望ましい。
それこそが王道。一対一で、純粋に戦う。
(わくわくしてきた。やっぱな。こういうのはな。思い描いちゃうよな!奴じゃないけどさ!)
奴を倒し、優勝して、その後は……。
「スカイラウンドで、優勝したら良いよ」
約束。
子供の頃のもんだが、彼女は覚えてくれていた。
ちゃんと確認も済んだし。
(やってやるっ!!絶対にっ!!)
決意を新たに、僕は険しい道を走り出した。
その先に待っているものは、まだ分からない。
それでも、走るしかないんだ。落ちこぼれの僕には。
●■▲
「……余計ね」
左手には、図書館で借りた本。
私は、森の中を歩きながら呟く。呟きの意味は、先程のやり取り。
(せっかく、遊ぶ理由ができたのに……。残念。丁度良い弱者だった、彼等は)
いつもの玩具遊び。
それが、もう少しの所で、玩具を没収されてしまった。
お節介な、誰かさんの所為で。
(あの人……)
橙色の髪に、花色の目。強気な顔つき。
凛とした佇まいは、なんとも力強い。頼れる女傑というのだろうか、ああいうのが。
しかし、玩具としては失敗作ね。彼女は、少し強すぎる。
(後ろの人は)
ぎりぎり、駄目か、行けるか。
なんとも微妙なライン、無能の匂いはするのだけれど。
……それ以上に、どこかのアホに似ている気がするのが、興味を惹かれる。
【玩具遊び!?ただの、弱い者いじめじゃないか!!流石の俺でも引くわ!!】
(ちょっと、イライラしてきた。アホのアホ発言を思い出したら)
そういえばあのアホは、この国に友達がいるとか言っていた。
【入国審査はともかく……住には当てがある】
確か茶髪で……。
(茶髪、あの男も茶。そして同じ特徴のない外見・無能感。ここから導き出される結論は)
「まさかね」
●■▲
「はっ!ほっ!はっ!」
学校裏の広い森の中を、息を乱しながら走る僕。
なんだかんだで面倒事に関わっていたら、大分遅くなってしまった。
(少し、暗いな。気を付けるか。ちょっと)
森の中は薄暗く、少々視界が悪い。
この森に多数生える光星樹の輝きが、点々と見える。
(まあ、ゴリラに出くわすことはねぇだろうが)
あんな体験は、二度はないだろう。あってたまるかよ。
美少女ではなく、ゴリラに出くわしたなんてよ!
(いきなり現れた、才獣か)
あれは一体、なんだったんだ?
ゴンザレスは疑っていたが、まさか本当に夢かなにかなのか。
(才獣……といえば)
最近、才獣の乱獲を行う犯罪組織が目立っている気がする。
リーダーの顔が、とうとう判明したとかなんとか。
捕縛、もしくは仕留めれば、国から賞金が出るとか聞いたような気もする。
(関係……あんのかね)
あるんだろうな。
改めて、あの時の話を聞かれたし。戦士団の人達に。
(正直、それよりも、大会の方が重要だ)
そうだ。
僕は現在、ゴンザレス打破に燃えているわけで、構う余裕はない。よく分からない組織なんかに。
(ダチ公二人も、大会に向けて調整に入ってるしな。僕も頑張らないと)
少なくとも、今の状況では。
「ふっ!!はっ!!」
ちょっとした不安感を感じながら、目指す場所は変わらず。
崖の上に建つ、僕のホームへ走り抜く。
「……不安」
しかし妙だ、この気持ち。
なんかホームに帰ったら、恐ろしいことが待ち受けているような。
更なる、イベントが発生するような。
「……なんでや」
ありえへんやろ。そんな色々な事が起きるなんて。
イベント盛りだくさん、なんて。
「……」
否定できないのは、あのゴリラのせいや。