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無意味では

「才獣とは、自然的なものですが」

 一階、第三研究室。

 かなりの広さがある室内には、様々な器具や、四角い檻などが置かれている。

 車輪が付いた檻の中には、レッドの才獣である、赤い瞳の獣。

 ライオンのような見た目の獣は、黒い鬣や長い爪を、不気味に光らせる。

「それを、人工的に生みだそうとした者達が」

 檻の傍で説明を行う、スーツ姿の女性教師。自身の近くに、大きな才獣がいるというのに、まるで恐れた様子がない。腰にはレイピアを携えている。


【危険な才獣を扱う授業の為に選ばれた・突出した武力を持つ教師】


 周りには、檻を囲む様に立つ生徒達の姿。

「……遅い」

 その生徒達に紛れる金髪の女、メイから、不満ありありと言った感じの呟きが漏れた。

(あれだけ、言ったのに。今日の授業リンダ先生よ)

 幼馴染みの男が、未だ授業に現れない。不満の理由はそれだ。

 なんだかんだ言っても、授業にはちゃんと出るのがロイン。それなのに影も形も、あの鬱陶しいテンションも存在しないのは……。


(どういうことなの?)


 ●■▲


「こういうこった」


 三階の廊下。

 そこに響くゴンザレスのいけ好かない声は、床に倒れた僕の、腫れ上がりまくった顔面目掛けて降ってきた。

 紺色の制服の所々が赤く濡れ、体のあちこちが痛い、ずきずきする。

 倒れた僕を見下ろす奴の顔も、僅かに赤くなってる。ざまぁ。

「落ちこぼれがどんだけ努力しようが、ってやつだ。少しは、身の程が分かったかよ?」

 唇から流れる血を右手で拭いながら、奴は言い捨てる。

 それから僕に背を向け、最後にぽつりと言った。


「……あばよ」

 

 ゴンザレスが去った後の廊下で、仰向けの体を、上体だけ起こした。

「くそ……!いてぇ……!!」

 随分、こっぴどくやられてしまった。これが、奴と僕の力の差か。……まさか、ここまで差があるとは。

「ショックだぜ……。僕って、強くなってる筈なのに」

 ため息を、一つ。その後、周りを見渡してみる。

(あちゃー、ガラス割れてるな……まずった)

 やり過ぎてしまった。

 廊下右側の窓ガラスが三枚、割れてしまっている。一応、周りの物を壊さないように、なるべく加減したつもりだったが。

 それは、ゴンザレスも同様だろう。奴はああ見えて、変なところで筋が通っている。

「ふー、しっかし……」

 僕は、近くに無造作に転がってる、教科書に顔を向ける。奴に殴られた際に、咄嗟に放り投げた。

(メイに、怒られてしまう。……それだけじゃ、済まねぇか)

 敗北のショックと、これから起こる面倒事の予感で、気分は憂鬱だ。

「……悔しいぜ!ちくしょう!」

 僕は悔しさのあまり、床を殴りつける。じんじんと痛む拳すら、今は気にならない。

 敗北の痛み、届かない高み、それらを感じたことは、今までに何度でもある。落ちこぼれじゃ、努力したって無駄じゃないかと思った時だって。


(――だが、得るものはあった)


 奴の戦闘も何回か目にしたことがあるが、実際にやり合わないと分からない部分はある。手加減した戦いとはいえ、無意味ではない。

(奴との距離、その遠さを確かめたことで、決意は完全に固まった)

 前々から進めていた計画を、実行に移す。ゴンザレスとの距離、それを縮める為に。


 【練兵場】。スカイ・フィールドを、利用する。


 アスカール北の平野にひっそりと建つ、練兵場グランドの才物。それを使えば、可能性はある。

(メイ達からは、止められているが……それしかないんなら、やるしかない)

 天上学院の、武闘大会。なんとか、それまでに僕は。

(――望む自分に、なる為に)

 強くなる。今よりも、ずっと。

 強くなって。


「リベンジしてやらぁぁぁァァァッッ!!待ってろやっ!ゴンザレスッッ!!」


 校舎全体に響き渡る勢いで、咆えた。この言葉は、決意を更に固める為のものでもある。

 なので、思いっきり盛大に、ウザいやつ殿堂入りするぐらいの大声で、咆哮した。

 どうかこの言葉が、現実になりますように――。

 

「うるさいわよっ!!あたしの鼓膜破れるじゃないっ!?」


「うおうッ!?」

 大声を、返された!背後から、女性の声。メイではない。この声は……!

「メリッサっ!今日も、可愛いなっ!素敵だっ!だが僕には、メイがいるっ!」

 僕は体を捻り、背後に立っている、肩より少し下まで伸びた、淡く光るような橙色の髪を持つ女性・風紀委員・メリッサを見る。

(相変わらずの、美人っ!ハニーには、及ばないがっ!うはっ、テンションあがってきたぁ!!)

 うきうきしながら、僕は観察眼をフル稼働させるっ!漲れ、僕の眼球っ!!奴の魅力の全てを、網羅するんだッ!

 くりくりとした、花色の瞳。大変、可愛い!

「……」

 残念!胸は、普通。だが、紺のブレザー越しでも、形の良い起伏が分かるぜ!やっほい!

「……」

 両足は黒いストッキングに包まれ、漆黒の美しさを演出している……!カーニバルやっ!ブラック・カーニバルやっ!

「……ロイン、」

 これまた、僕の幼馴染みっ!僕って、やっぱり――。


「――気色ッ悪いのよッッ!!この、変態ッ!!」


 観察の代償は、鋭い拳骨によって支払われた。

 こんなに細かく見てたら、普通そうなるよね。普段はちゃんと段階を踏むんだが、仲良いからって、調子に乗り過ぎたぜッ!

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