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嵐・吹き荒れる

(さっきから鳴っている、この妙な音は)


 両腕にメリッサを抱きながら、右側に岩壁が立っている道を疾走するロイン。道は大きなカーブを描いていて、その先にロード号はある。

 残った右耳に聞こえる音の正体を考えながら、薄暗い中をひたすらに前へ。

「追っ手はいないッ!!とにかく早く!!」

「分かっているッ!!」

「くそッ!!なんでこんなッ!!」

 一緒に逃走するのは、アスカールから護衛として付いてきた戦士達四人。

「……」

 ジン太は青い髪の男、ヴァンに背負われていた。

 意識はあるが、もう戦闘できる状態ではなく。

「ああッあああ」

 涙を流しながら疾走するアンに抱えられたそれは、完全に死に体だ。

 無駄だと分かっていても、彼女は完全に諦めきれていない。

「……」

 その嗚咽を聞きながら、ジン太は罪悪感を感じると同時に、安堵する。

(生き残れた・俺の運も捨てたもんじゃない)

 ノードス達の乱入というイレギュラーもあったものの、ジン太達は確実に希望への道を進んでいる。

(フィルは) 

 ノードスとの戦闘中であることが分かる。

 彼女ならきっと負けないとは思っていても、脱出に間に合うかは微妙なところと見ているジン太。

(その時は、置いていくしかない)

 心の苦痛を抑えながら、彼は相棒を切り捨てる決断を準備する。

 それほどにこの状況は、予断を許さない展開になっていた。


(……俺はしがみつく・たとえ何を犠牲にしても)

 ジン太の決意は固く、強靭な盾となって己の身を守る。


「――捉えた」

 その盾を砕く一矢が放たれた。


「――ッ!?」

 鳴り響く迎撃音は、その場にいる全員に聞こえた。

「ッ!狙撃かッ!」

 敵の一撃をかろうじて防いだ戦士の一人、細身のゼノは自らの武器【中型の剣式】を見て、驚愕した。

(罅が入っている――馬鹿な。防御上昇に集中した俺の剣が一撃でッ。最新式の防御重視タイプの補助具だぞッ!?)

 その様子を見た他の戦士も、即座に脅威を理解した。


 思考時間の間に、続々と放たれる矢の猛威。


「ッ!?どこから撃ってやがるッ!!」

 雷光の一矢は次々とロイン達に襲い掛かる。

 それを後方から放つ射手の姿は、何処にも見えず。

(エルマリィとかいう、天上の一人かッ)

 空を裂いて迫る脅威を、彼等は必死に対処する。

「くそッ!!重いッ!!」

「洒落にならないなッ」

 薄暗くなってきた周囲の状況も加わり、迎撃するので精一杯の戦士達。

(逆に言えば、この暗さで正確な射撃を行っているってことかッ)

 しかも、姿が見えないほどの遠くから。

「グオッ!?」

 脚部に当たりそうになった矢をぎりぎりのところでかわすロイン。

(僕がやられたらメリッサまでッ)

 親友の危機に馬鹿力を発揮するロインは、既に消耗している器を更に更に・酷使していく。

(器がぶっ壊れようが、構うもんかよッ)

 踏み出す足の速度は加速し、危ないところで矢を回避する姿は、凄まじい気迫が伝わってくる。

 しかし、矢の乱舞の中を逃走するのは生半可なことではなく。一刻も早く逃げなければならない状況なのに、どんどんと時間が過ぎていく。


「ふんッ!!」


 その状況を打ち砕くべく、一人の男が殿を務めた。

「イギー!!」

「私が対処する!!先に行くのだ!!」

 肩幅の広い、中背の緑髪男性イギーが矢と向かい合う。

 彼は構えた大型の盾から防壁(ディフェル)を発生させ、矢の雨から全員を守っていた。

(弓矢(アロー)武強(ブレード)に対する防御に特化した防御用補助具ッ!更に私の十八番である防壁(ディフェル)も加わるッ!たとえ怪物相手でも容易くは崩せんぞッ!!)

 殺された同胞の想いを背負ったかの様な気合いの叫びを上げながら、男はただ一言。

「行くのだッ!!未来を背負った若人たちを頼んだぞッ!!」

 まだ若い戦士達を送り出すように、言った。

「おまえッ!!不細工のくせに格好つけるなよッ!!」

 そう言いながら歯を食いしばり、彼を置き去りに走っていく者たち。

(余計なお世話だ。生き残ったら喧嘩だな)

 イギーは一人遅れて走りながら、大きな霧の防壁を展開する。

(イギーの弱点は、防壁(ディフェル)の際に動きが鈍くなる反動があることッ)

 どうしても彼だけは逃走が遅れてしまう。

 それを承知した上で、ヴァンは置き去りにする決断を下した。


(せめて、あいつが言った通り、若い戦士達だけでも――)

 ヴァン・アン・ゼノの三人は、自らの命を犠牲にする決意を固める。


「……」

 背負われながらイギーを振り返るジン太は、少し考え。

(――俺は【こっち側】だな)

 世界における自分の立ち位置を、しっかりと心に刻むのであった。


●■▲


【波動音】と呼ばれる現象が存在する。


「なんだぁっ、この音は!?」

「耳が壊れそうだっ!!」

 広い荒野を歩き、ホワイ島の名スポットである大きな滝を見に来た男性二人に聞こえる音がそれであった。

 ある状況下で起きる音で、聞こえてくる音波は速かったり遅かったり、一定性が存在しない。

 非常に遠くまで響くこともある、その音の正体は。

「あ、あれかッ!?」

 非常に大きな動力による・超越者の証である。


(攻撃上昇:集中・防御上昇:低下・再生・加速・速度上昇:急上昇・破砕・失敗・修正・攻撃上昇・一時低下――)


(防御上昇:集中・攻撃集中:武強(ブレード)発動:停止:器:負担軽減:迎撃成功:一時上昇――)


 打ち鳴らす超絶・強撃の乱舞は、周囲の地形を破壊していく。

 二人の怪物は、防壁(ディフェル)による足場を利用して、激しい空中戦を行っていた。

(弾かれた――)

 剣によって弾かれ、空中を落ちていくフィルは。

(防壁展開)

 宙に固定化した防壁(ディフェル)を展開し、それを足場に再び飛び上がる。

 それはノードスも同様で、目に見えない程の速さでその工程が行われていた。

「ひいいいいいッ!?」

 目撃者はただただ震えて、飛んでくる石礫から必死に逃げ、吹き付ける強風に転がされる。

(なんなんだッ!?これッ!?)

 彼が見ているのはまさしく災害。

 自然の猛威。

 大地を揺らし・あらゆるものを吹き飛ばし・世界に波紋を広げる領域戦闘。

 連続する衝突音は勢いを増して、怪物同士の戦闘は既に、一流の才力者ですら余波だけで死にかねないレベルに達していた。

 飛び散る波動はなおも勢いを増していて。


(――この女)


 暴風の中心で剣を振るうノードスは、そこに響く重さを考慮しながら。

(だんだん、速く・重く・鋭く――)

 戦う相手の脅威が上がっていく。

 手負いの獣と思っていた相手の牙が、直ぐそばまで迫ってきている。

(くそがッ)

 どうなっている?と、彼は顔を歪め。

(ああ・ああ)

 対する彼女も、【別の意味】で顔を歪めていた。

(なに・これは)

 胸の鼓動が速く加速するから・不安と恐怖で堪らないから。

(嬉しい)

 フィルは喜びで満たされていった。

 空っぽだった器が熱を帯びる感覚。

(すごく・すごく・すごい)

 

(気持ちが悪い――わね)


 熱を帯びれば・帯びるほど、反作用となって心を蝕む嫌悪感。

 彼女の中にある悪の性が、誰かを想う気持ちに反発しているのだ。

(けれど・嬉しいの)

 そんな嫌悪感の中で、確かに燃え上がっていく炎があった。

(こっちの苦しみは悪くない)

 胸を掻き毟られるほどの不安感は、全てあの男から発生しているもの。

(失いたくないと思っている)

 あんな無様な玩具を?

 発生する疑問は永久に続くかのように、謎めいていて。

 それでも。

(確かなことは一つ)


 そう思えば思うほど、彼女の動きは鋭くなっていく。

「――」

 上から突っ込んでくるノードス。

「フ・フ」

 防壁を足場に・フィルはしっかりと狙いを定めて。

「――暴風狂歌(ヴェルト・エンデ)

 

 突き出した右腕から出現する・千の兵を吹き飛ばす咆哮。

 狂い鳴く暴風が敵を飲み込んだ。

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