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憤怒

 ――喜劇場が、崩壊していく。 

 

「うおーい!!オレの切り札ー!?」

 泣き叫ぶガルドスの視界で、暗く染まった空がガラスのように割れた。

 一気に落ちてくるその破片は、途中で消滅し、ジン太達に降り注ぐことはなく。

「なんだ……?」

 割れ目から覗く夕陽を見上げるジン太は、珍獣たちの動きが止まった理由を考える。

「……」

 頬から血を流したフィルは、警戒しながらも冷静に状況を把握しようとした。

 足元近くには、行動停止した珍獣たちが。

「あの男」

 少し離れた場所に立つ、血に染まった長剣を持った男。

 このふざけた空間を壊したのは、彼。


(なら――)


「ちょっとー、空気読めよー男子ー」

 目前のペル(の姿をした男)に文句を言いながら、ガルドスは抱えられていた。

「オレの喜劇場……高かったんだぞ!!弁償しろよな!!」

 【自分自身】の右腕に抱えられていた。

「おまけにこれ……死ぬかと思っただろうがー!!」

 首だけになりながら、しゃべり続けているガルドスの異様な光景。

 辺りにまき散らされた血と首の切り口から垂れる血が、生々しさを伝えてくるが、当の本人は緊張感皆無。

「……」

 それを静かに見ているワンシェル【と名乗っていた】は、表情をぴくりとも動かさない。

 ただひたすらに、増悪のみを持って相対する。

「こわいなー、肩の力抜いたら?」

 自身の両腕によって元の場所に戻された生首は、ギャグのようにくっ付いた。

「お前、オレに何か恨みでもあるのかよッ」

 何事もなかったように言うガルドスは、煽る。

「――あるさ」

 きっぱりと告げるワンシェル。

「四年前の【パーティー】を覚えているか?」

 その調子のまま、問いを投げた。

「パーティー……?はて」

 顎に手を添え、わざとらしく反応するガルドスの行為は。


【増悪を煽る】


「毎日パーティーみたいな人生だからなー、覚えてませんね!」

「十人の王の一人、【クラウス】が主催したものだ」

 白々しい反応などお構いなしに、ワンシェルは問い詰めていく。

 彼にとって、それは大事なことなのだろう。

「あ。ああ~あれか。思い出したよ!――楽しかった!な!」

「楽しかったのか」

「めっちゃノリノリで芸を披露したからなー。徹夜でさー、考えてさー」

 笑顔で語るガルドスの想いに、顔を歪め始めるワンシェル。

「……そういう奴かお前は」

 増悪に従って握りしめた彼の右拳から、おどろおどろしい赤色が流れ出す。

「最後の問いだ――何故、あの【虐殺】に加担した?」

 返答次第では容赦なく・そう告げるような赤。

「それは……」

 告げられたガルドスは、少し声のトーンを落として。


「ジンカイ王が新しいハリセンをプレゼントしてくれるって言うから……オレは悪くないよね!!」


 間髪入れず斬撃が飛んだ。


「おっとと!!」

 慌てて後ろに避けたガルドスは、背後のノードスに助けを求めた。

「助力を――って無理か!!ちくしょう!!」

 彼の言う通り、ノードスは現在うかつに動くことが出来ない。


「……はあぁ」

「……」


 再び向かい合う怪物二人。

「フィル……ッ」

 情けなく転がるジン太は、その戦いの始まりを見ていることしかできない。

(相手は同じ天上だ……いくらお前でもッ)

 分が悪いとまでは言わないが、危険ではある。

(俺はそれでもッ)

 ジン太は彼女に戦ってほしいと思っていた。

 そうすることで、自らの生存確率は上がるから。

(相棒すらも・犠牲にするのか)

 既に失った仲間たちのように。

 最も時を共にした者さえ、例外なく?

「それで良いのよ。船長」

「……」

「貴方は、無様にみじめに抗いなさい」

「……」

 ジン太の心が分かっているかのように、相棒は構わないと告げた。


(ありがとう。フィル)

 

「頼む、まかせ、た……お前が……」

「……」

 フィルの耳と繋がるジン太の声は、確かな信頼を宿していた。

 お前が最強だと、言外に語っている。

「了解したわ」

 何処か嬉しそうにフィルは応えた。

 応えると同時に、着ているローブを両手で掴み。


「――身化(ストロング)超過(イグナイト)

 乱暴にそれを破り捨てると、その下の装備が露になった。


■それは、王域才物(ジェニクス)と呼称される規格外の才物■

■禍々しい罅割れが全体に広がった絶対的な防御■


(戦闘用装備、なのか?)

 体にフィットした黒い服装。

 肩が出たタンクトップに、短いズボンの組み合わせ。

「なつかしいな、本気かフィル」

 その姿を見たノードスは、そっと短剣を横に滑らせて。


「場所を変えるか」

「そうね。――準備は出来たようだし」


 一瞬にして空気が弾け、怪物たちの姿が見えなくなった。

「……」


(手紙で伝えてあるけど) 

 その【領域】の中で、速度上昇により超高速化された思考を行うノードス。

(ま、少し本気でやったら周囲もただじゃ済まないし)

 ぐんぐんと遠ざかっていく先程までの地点を置き去りにしながら、人気のない荒れ地まで空気を貫いて進んでいく。

(さーて、才奧の影響で弱った状態でどこまで持つかな?)


 荒れ地に到着し。

「――」

「――」

 

 巨大な閃光と・理解不能の力が世界を軋ませた――。


●■▲


「ああう、ああああう」

 

 子供のような喘ぎ声は、地を這う少女から発せられた。

 両腕に力を入れて、一生懸命に進む。

「ううう」

 何かから逃げるように【その様を見て楽しんでいる】、ずりずりと這い進んでいくメリッサ。

「うう」

 歪んだ顔は、赤く腫れた部分もあり。

 涙で土を濡らしながら、少しでも遠くへと逃げたい彼女の行動は、【壊された】両足の所為である。

「お~♪どこまでいくのか芋虫ちゃん~♪」

 それを楽し気に鑑賞する男は、棒立ちであった。

「ううぅ」

 少しの希望にすがって進む・進む。

「ああぁ」

 それが無駄だと心の何処かで思っていながらも、ちょっとでも死から逃れようとする彼女。

「あ」

 しかし。


「あき~た♪腕へし折って連れて行こ~♪」

 芋虫を潰そうと、残酷な子供が動き出してしまった。


「ふん♪ふん♪ふーん♪」

 大きな歩幅によって一気に縮んでいく距離。

「続きは拷問~♪拷問室で~♪」

 ずんずんとステップするように歩くロウ。

「~♪」

 その右腕が・メリッサへと伸ばされる。

「ううう――あああああッ」

 それを感じたメリッサは・最後に言葉を発した。


「ああああああアああッ!?」 

 誰にも届かない・絶望にしか繋がらない・言葉を発した。

 断末魔は・平原に散る。



「あああああああああッ!!俺のッ!!腕がッ!?」

 ロウの断末魔は、肘から先が切断された右腕を起点に、激しく響く。


「――」

 事を行った本人は、メリッサを背に庇うように立ち、目から血を流すロウの憤怒を正面から受け止める。

「あああああッこのッこのッ!!」

 憤怒によって作られる顔は凄まじい悪性を加えて歪み、見ただけで大抵の人間の心をへし折る悍ましさがあった。

「……」

 しかし、立ちはだかる少年は無言で、微塵も気圧されてはいなかった。

「アッあッアアガッ!!」

 涎をまき散らしながら残った左腕で襲い掛かる、憤怒の大男。

 目前の少年を・原型がなくなるまでぐちゃぐちゃに――。


「――消え失せろ」

 剣から一閃。

 憤怒すらも生温い怒りを乗せた閃光が、ロウの肉体を砕き・吹き飛ばした。


「……あっ」

 メリッサは、気付いたら誰かに抱き上げられていた。

 とても力強く・優しさを感じる両腕。

「……ろい、ん」

 朧げな視界の中に映る彼【肩は少し抉れている】を見たメリッサ。


【そこまでだ!!このロインが相手をしようッ!!】

 何故か、子供の頃の出会いを思い出した。

 あの時と今では、その意味合いが違うことを感じながら。


「すまん」

 【左耳】を失くした少年は、傷つきボロボロになった親友を抱えながら、希望への道を照らす為、動き出す。

 必ず踏破してみせると・いつもの如く身の程を知らずに。

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