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邂逅

「ジン太君!」


 俺が最初に合流したのは、マリンとマルスさんの二人だった。

「マリンッ」

「……」

 マルスさんは傷を負っているようだったが、それ以上に。

「なにがッ」

 マリンの様子に、大きなショックを受ける。

(髪は解け、酷く乱れて……右瞼が腫れた顔からは生気が失せていた)

 両手の爪先は血と汚れによって見るに堪えず、前歯がいくつか折れていて。

 あまりに痛ましいその姿に、俺は彼女を抱き締める。

(震えが、恐怖が伝わってくる)

 この小さな体で、魔物蠢く場所を一人突き進んできたのかッ。

(俺はッ)

 決めたのはマリンだ。

 だが、彼女を止めることは出来ただろう。

 受け入れたのは俺だ。

「船、長。ごめんな、さい……わたし、足を引っ張ってばかりでッ」

 間違いだったのか?彼女の同行を許したのは。

「せっかくッ、あんなに頑張ったのにッ!全然だめ、だった……ッ」

 涙声で言うマリン。

「う、ウうううッ」

 努力が届かなかった者の悲嘆の声。

 こんなにもズタボロで心身が疲弊した彼女を見るぐらいなら、引きとめるべきだったのか。

 なんてふざけた遅い後悔を感じながら、俺は彼女に――。


「……今回は、だッ」


「……?」

「こういう時もあるッ。人生にはッ!」

 激励を飛ばすような口調で、俺は力強くマリンの背を押す。

「まだまだッ!努力の力はこんなもんじゃないッ!!」

 抱き締める手に力を込め、叫ぶ。

「お前の力はこんなもんじゃないッ!!」

 危険な意味を持っていることを理解しても、俺は精一杯、己の信念を示すッ。

「諦めるには早いッ!!次こそは上手く行くッ!!そう信じて、希望を掴むんだッ!!必ずッ!!努力はそれに応えてくれるッ!!」

 心中にある想いを、暑苦しく豪快にぶつけたッ。

「……」

 伝えた後のマリンは数秒無言で、両手でしっかりと俺の体を掴みながら、ゆっくりと静かに言う。

「……うんっ」


(マリンの次に合流したのはメリッサだが……)


「――ごめんなさい・すみません」

 放心した顔と覇気が失せた瞳で、ひたすらに謝罪を繰り返すメリッサ。

(これは)

 前も見たような弱気な姿。

 いつもの活発な姿は完全に見えず、どう見てもその心は折れていた。肉体に目立った傷はなく、精神だけならマリンより重症かもしれない。

(罪悪感、か?)

 どうにもそれだけじゃない気がする。

(……理由も分からない俺には、どうすることも出来ないっ)

 ここはマルスさんに任せよう。

「メリッサ、とにかく今は」

「……はい、はい」

 ロインがいれば、もっとどうにかなったのだろうか……。

(俺がフィアを追いかけることを決めたから……くそッ)


(そして最後に)


「……やっぱり此処かよ」

「――」

 俺は地図の反応からフィアと思われるものを探し、始まりの場所である洞窟の部屋へと戻ってきた。

(反応の中から、行動に迷いが感じられるものに注目した)

 おそらくそれが、惑い苦しんでいるフィアのものだから。

「当たりだったな。良かった」

 本当に良かった……ここにいるということは、つまり。

「――勘違いですわ」

 俺の思いを見透かしたかのように、彼女は冷たく言い放った。

「わたくしは、まだ貴方の言うことを認めたわけではないの……」

「……だけどっ」

 此処にいるということは、一緒に帰る気があるということだろう。

 俺はフィアにそう伝え、返答を求めた。

(フィア、頼むッ)

 希望を信じて、一歩を踏み出してくれ。

 そうすることで、きっと光は掴めるんだ。

(俺がそうだったようにッ)

 だからフィアッ!

 俺と一緒にッ。


「……ええ。そうなのでしょうね。わたくしは、そう願っている」


 悔しそうにも見える顔で、フィアはそう言ってくれた。

 俺と共に外の世界に羽ばたいてくれると。

「っ」

 嬉しい気持ちが溢れてきて、止まらない。

(やっと、この言葉を胸を張って言える)

 あの時からずっと言いたかった言葉を、俺は改めて口にした。


「一緒に行こうフィア。大きく、自由な世界で、好きなように――」


 ●■▲


「行ってしまったわね。あの子たち」

 洞窟の部屋の波動に照らされながら、彼女は一人立ち尽くす。

 勝者の背中を見送った後の光景。手には、ジン太から返された地図。

 それをそっと床に置いて。

「今回のイベントは、なかなか波乱に満ちていたわ……っ」

 ルリの表情は満足気で、興奮の為か少し頬が熱くなっている。

「全体的に参加者のレベルが高く……天力(ウィンド)を扱える者が複数人っ」

 思い出を振り返りながら、彼女は【見ていた】戦いの感想を口に出す。

「魔物を難なく排除する、強力な討伐の力を扱う少女……っ。あまり見ない速度を発揮する、雷光の戦士……っ」

 その目に映る強者たちは、常から外れた【混沌】を巻き起こす存在であるが故。

 ルリにとっての好意の対象になり得る。

「対する陣営……不滅成滅人イリシュバルの兵二人も、劣らぬ強者!一方は期待の若手!もう一方は、【破滅の閃光】の使い手!ああ、それらが競い合い、食らい合う光景の混沌(カオス)!」

 自らの両肩を掴みながら、彼女は身を震わせた。

「それに……あの子っ」

 沸騰する脳内で、ある少年の映像が再生される。

「駆逐者を退けた、虹色の波動……アレはまさか」

 拳から炸裂した、強力な波動砲(バースト)

 限界を超えるような、その波動の力強さ。


「……」


 太陽が輝く、朝のこと。


「――ハハハ!!飲め飲め!!」

「もっと、酒持ってこいや!!」

「ぎゃははははッ!!」

 ホワイ島の南寄りに位置する、娯楽施設が多い町の一時。

 酒場で鳴り響く、豪快な乾杯の音。

「喧嘩だー!!見てけ!見てけ!」

「おおッ!!なんだッ!?」

「もっと武器使えよー!」

 近くの通りでは喧嘩騒ぎがあり、野次馬が集まってきた。

「ぐああッ!!」

 血しぶきが舞い、悲鳴が響いても、それは珍しくもない町の光景。

 見物客は笑い、囃し立てる。

 治安を維持する組織は存在するが、この程度のことで一々動かない。

「おっしゃあ!お宝ゲット!」

「やったな!これで借金を返せるッ」

「……つかれた」

「同意ー」

「情けないぞ!お前たち!」

 町中では様々な声が溢れて、散る。

「くそッ!!こんな筈じゃっ!」

「おい、あいつから金を貸してもらおうぜ……ついでに憂さ晴らしだ」

 希望の声も・悲嘆の声も・明るいも・暗いも・善も・悪も・混ざり合って、溶け合って、混沌を作り出す。

 それも必然である。


「……トレジャー・ルームの始まりは、ある物好きな冒険家の想いから」


 混沌渦巻くトレジャー・ルーム、そこに飛び込もうという輩もまた同質の者たち。

 何が起こるか分からない、未知数の渦を渡り、未知の宝に手を伸ばす。

 混沌の中に確かに輝く、その光を。


「混沌とした人生で、それでもなお光を掴める者を求めていた男によって作られたのが始まり」


 ある少年が傷つきながらも立ち向かい、ようやくそれを手にしたように。


「――お疲れ様」


 ルリはそんな言葉を口にして、少年が去っていった洞窟の部屋の入口を見た。

 

 ●■▲


「外、だっ」

 俺達はトレジャー・ルームから出て、敷地の入口である鉄の門扉の前まで戻ってきた。

(もう夕陽か)

 丸一日は潜っていたので、もう体がくたくただ。

「……」

 元気がないマリンの手を掴みながら、開いた門扉を通り抜ける。

「……綺麗ですわね」

 俺の後ろを歩くのは、フィアと彼女の行動を警戒しているマルスさん達。

(まだ安心は出来ないか……)

 門扉を抜け、木や草が点々と生えた平原へと一歩踏み出す。

(だが、後は島の西海岸に停めたロード号に帰還するだけっ)

 フィルは勝手に戻ると言っていたが、まあ、あいつなら大丈夫だろう。

 少しの疑問を感じながら、更に足を柔らかい土に踏み出す。


「――行こう。みんなッ!!」




◆珍妙なBGMが聞こえてきた◆


「――なに?」

 なんだこの音楽は?

 聞いていると緊張感を削がれ、全てがバカバカしく思えてしまうようなリズムは。


■それとは正反対に・俺の勘がかつてない危険を告げて■

■死の・予感が■


「なんだ……よ?」

 今までなぜ気付かなかったのか、疲れの所為か。

 俺は、土煙を上げながら前方より迫るものに気付いた。

「あれ……」

 突然そこに現れたかのような、車輪が付いた物体。


(――――三人乗りの自転車)


(見覚えはある)

 それは、自転車と呼ばれる乗り物。

 しかも、三人乗り。

(――なんで、この異海に存在する?)

 自転車が現在の海に普及していた覚えはない。

(それなら――別の海から?)

 恐怖を感じる脳が次に認識したのは、自転車に乗った男三人の姿。

「つかれた」

「同意ー」

「わがまま言うんじゃないよー!!」

 大男が二人に、普通の体格の男が一人。

「あ」

 呆けた声が出た。 

 本当に自然に。

 仕方ないと思えるほどに。

(見間違い……)

 そう思いたい俺の感情とは裏腹に、近づいてはっきりしてくる一番前に座った男の顔。

(じゃ、ない)


【――別にいいんじゃないの】

 

 間違える筈はない。

 大きな恩がある人物でもあり、俺にとって宿敵と言える相手でもある存在。


【諦めたってさ】


「ノード、ス」

 律儀にヘルメットを被って自転車を漕いでいるかつての親友と、俺は出会ってしまった。

(――どういうことなんだ)

 何を言っていいかも分からずに、この悪夢の邂逅に呆然とするしかない。

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