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規則的

「おおッ!!」


 拳を放ち、矢を放ち、魔物を倒しながら出口を目指す俺達。

 体にも服にも傷が増えていくが、それなりに順調な進みだった。

「ぎぎゃあッ」 

 鳴き声を上げて、ガラスのように砕ける構成獣たちを越える。

 強いは強いが、こっちはずば抜けた戦士たちだ。

 たかが機械的な行動を繰り返すだけの敵に、敗北する理由はない。

「おうら!!」

 唸る右拳が、人型の泥のような魔物の顔面に刺さった。

 吹き飛んでいくそれは、石壁にぶつかると緑の炎を生み出す。

(倒したっ)

 これで、この【迷路の部屋】にいる魔物たちは全部倒した筈。

(順調だ!)

 一端休んだことで、俺達の進みはまた勢いを取り戻した。

「マルスさん!メリッサ!」

「ああ!ボクは足を封じる!!」

「ええ!あたしの矢で止めを!」


 新たな部屋に突入する俺達。

 現れる敵の数々。


 頼りになる仲間達と共に、迫りくる敵を撃破する様はまるで絵本。

 この先に悪の親玉でも待ち受けていそうな雰囲気だ。

(まるで冒険のような)

 まるでではなく、実際に冒険なのか。危険を前にして皆で力を合わせているのだから。

(やっぱり俺が望んでいた冒険はっ!)

 こうでなくっちゃな。


「おおおおおおおッ!!」

 見ててくれフィア。

(必ずお前を連れ出して、もっと広い場所で!!)


「――助かったよ。二人共」

 戦いが終わった後に戦友へと声を掛けた。

 我ながら爽やかだと思う。

「あ、ああ。調子が戻ったからねっ」

「ぷ、ふふっ。もっと頼ってよ……ぷっ!」

 なのになんだ?この対応は。

 顔を逸らす二人。

 逸らしてしまう戦友二人。

「……」

 ?ではなく。

 俺はその理由に気付いている。

(異変は起きた時に)

 

【船長!?どうしたのその髪!!】

 最初に気付いたのは近くにいたマリンさん。

 その驚きの瞳の訳を、俺はさっぱり分からずにいた。

【うわ!なによそれ!?】

 次に気付いたメリッサさんは、引いた風の声を出していた。

 彼女の視線が頭に向けられているのが分かる。

【ジン太。凄い】

【こ、これは!】

 同時に気付いたマルスさんとフィア。

【な、なにが起きてるんだッ!!】

 さすがにそんな反応をされては、嫌でも気になってしまう。

【一体ィッ!?】

 両手を使ってヘアーをチェック。

【!?】

 髪があった。ちゃんとあったんだ。

【固いぞッ】

 固定化されているッ。

【と、とぐろを巻いてないッ!?】

 触ってみると、どうにもそんな感じがするので。

【どんな形って言われても……】

 聞いてみた。

【茶色くて……】

 髪の色まで変わってんの?

【絵みたい】

【臭いそう】

 みんなの証言と自身の確認を合わせ、辿り着いた結論。


(糞がああああああァァッ!?)

 俺の髪形は、クソッたれなことになっていた。

 ウ〇コヘアーってところかな!?

(ところかな?じゃねぇ!!)


「……」

 二人の居た堪れない視線を受けながら、俺はどうしてこうなったと(心中で)頭を抱える。

(……)

 ただでさえ脱糞野郎としてケビンやフィルに知られているのに、こんなことが重なっては……。

(俺のイメージがッ)

 完全にギャグヒューマンとして認識される。

 このまま髪が戻らなければ、世界の奇人として名を残したりするかもしれない。

 世界を旅したウ〇コヒューマンとして、後世で笑い者になるかもしれない。

(眩暈がする――そんな残酷なことって)

 なんたって俺はいつもこうなんだ。

「来たわよ!ジン太!」

 敵は待ってくれず、直ぐに襲い掛かって来る。

 足元がふらつく感覚を抑えながら、戦闘を行う俺。


「――まあ、それはそれだが」


 スイッチを切り替え、無駄ない殴打で構成獣を撃破していく。

(右斜め前と左!)

 迫りくる大きなセミのような二体。鋭い牙を持っている。

 より早く接触できる方を素早く見極め、拳を突き出していった。

(早く判断しろッ!!躊躇するな!!)

 どこかで動きを止めれば、敗北に繋がるかもしれない。

 俺は必死に迎撃を行っている。ウ〇コヘアーの俺は。

(髪型が変になろうとッ!こっちは必死だッ!)

 いちいち悩んでいる暇なんてないと。

 ウ〇コヘアーを揺らしながら、唸る拳を炸裂させていく。


「うおおおお!!」

 

「――ハァ、ハァ。倒し切ったか?」

 息を乱しまくって顔を伏せながら、少し後ろのメリッサに問うた。

 【海の部屋】の青い床に緑の炎が複数見える。

「みたいね。結構、数多かったなぁ……」

 メリッサの声には疲れが出ていて、見なくても様子が分かった。

「だが、あと少しだ」

 同様な調子の声だが、マルスさんは先にある光を言う。

「この海の部屋を越えれば、もう魔物との戦いをすることはない。避けて進める」

 その言葉は正しく、これから進む部屋の数々は攻略書によって対応できるのだ。

 後は決められたルートを迅速に駆けていくのみ。

(もうすぐだ。フィア!)


【とても楽しいのでしょうね】


 お前を外の世界に連れ出せる。

 こんな息が詰まりそうな場所から、解放できる。

(あと、もうひと踏ん張りだっ)

 顔から床に落ちる水滴を見ながら、俺は心の根っこに活を入れた。

 限界突破(イレギュラー)も使える、まだまだ行ける!!


「……?」


 床に落ちる汗に違和感を感じた。

「あれ?なんだ……」

 何がおかしいって、色がおかしい。

 透明ではなく。口から垂れている。

(――赤)


「がッ!?はアッ!?」

 

 腹部で痛みが炸裂した。


 突如襲う内臓の痛み。

 激痛を発する胃から何かが逆流してきて、口から吐き出される。

 赤い赤い、体の異常を知らせる水だ。

「ちょ!?どうしたの!?」

「ジン太君っ!?」

 仲間たちの心配する声を意識外で聞きながら、俺の思考は疑問と混乱で埋まってッ。


(どういう、ことだッ!?)

 

 なんでッ。口からこんなッ。一体ッ。

 魔物の攻撃?まともに受けてはいないし、なぜ俺だけッ!?

(原因はッ!?どこでッ!?)

 心当たりはないッ、ない筈なのに、こうなっているという現実はッ、原因が不明ッ。

(思い出せッ!!どこで原因を作ったッ!?)

 こうなった原因はある筈だッ。早くしないと、下手するとッ。


「ジン太!!」


(なんでいきなり、こんな症状が出たッ)

 特殊なトレジャールームの環境のせいかッ・未知の魔物の攻撃ッ・そもそもこのイベント自体が未知の塊でッ。

(遅れてやってくるダメージ……毒かッ!?)

 馬鹿言うな毒なんて受けた覚えはないぞああ確かに毒を持った魔物はいるが、そんな攻撃をみすみす見逃す筈はなくちゃんと避けたんだぞ俺は、間違いなくッ。

「どうなってッんだァッ!?」

 口から血を垂らしながら、なんとか打開策を考えようとして俺は――ッ。

(じゃあ、俺は何を受けたッ)

 そういう風に考えるんだッ!

 例えば魔物からのダメージやッ。

(――口に含んだもの?)

 ちょっと待て。

 俺がもし敵の立場なら、なんとか相手を倒すために魔物の毒を用いることも無くはないだろうが【毒類の持ち込みは禁止】、そもそも敵・参加者がそんなものを仕込む暇なんてなかった筈で。

(なら敵じゃない?)

 俺が口に含んだもんはなんだ?【回答、暇の果実・水】、その中で仕込むことが出来そうなのは・暇の果実は予め回収しておいたやつで、その前に仕込むなんて不可能【前回の参加者で藁の部屋に着いた者はいない】、なら水筒の水ということになるが。

(それが出来たのは)

 俺が鞄を預けた後方の二人。


「ジン太」


 掛けられた声に顔を上げる。

 見知った顔の友人の声。

 見えた顔は、見たことのないような笑みを浮かべて。


「死んで」


 それだけ言うと。

 右手に隠し持った魔物の牙を、俺のウ〇コヘアーに――。






「どこで選択を間違えたのだろうと、思った時はあるかいペルさん?」

 規則正しく六つの像が配置された部屋。

 ユーリはそんなことを言いながら、笑って先を進む。

「……」

 続く彼は無言のまま。

「俺はないんだ。そんなことまったく」

 進むユーリの足取りは確かな道筋を描く。

 まるでそこに。

「今までの人生でそんな挫折とは無縁だった。まあ、今日はちょっと体調が優れないとか、少し手こずったなとか程度はある」

 見えない何かがあるかのような正確さ。

「……劣った人間ってのは、そんなことばかりなんだろうな」


(シュッ――ポッ――)

 鳴る音は規則的に・目的地へと導く。

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