表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/161

場面破壊

場面破壊シーン・ブレイクについて話そうか」


 エントランスから行ける部屋の一つ(壁一面にへんてこな絵が描かれた)に移動した俺達。

 いけ好かない座長は語り始めた。

 俺がいつの間にか持っていた、このいけ好かない力について。

「ある異海の・ある王国に、とても有名な道化師がいました」

 己の成り立ちについてでもあるか。


【ははは、おもしろーい!】

【もっとやれ!もっと!】


「子供にも大人にも、勿論王様にも人気である道化師。たびたび王様に招かれては、愉快で楽しい芸を披露した」


【ふはははは!私を笑い殺す気かっ!?道化師よ!】


 なぜ語ろうと思ったかは分からないが、ただの気まぐれかもしれない。

「彼は道化であろうと努め、様々な笑顔をその目に見てきたとさ」

 

【……】


 まるで掴めないやつだ。

「その果てに道化師は何を思ったか、ある才物フォルテを作ろうとした。彼にはその才能があった」

 対面(?)に座って語る男は、テーブルに着いてごく普通に語っている。

「その才物を、不眠不休・凄まじい執念で作った道化師は」


【これで悔いはない……】


「――全てを使い果たし、その瞬間に命を落とし」


(たけぇ……)

 俺の視界は異常に高かった。座長の頭が見えるほどだ。さすがに天井はまだ遠くに感じる。

(なんなの)

 異常に高い椅子に座っているので当然なのだが。

 少し間違えると命を落としかねない高さであるし、体の自由は利かないし、滅茶苦茶不安だぜっ。


「残ったのは、この場面破壊シーン・ブレイクと、道化師の影響を受けた座長のみというわけだ」

 

 満足げに語り終え、座長の野郎はテーブルに置かれた木箱からクッキーを摘まんだ。

「あのぉ、俺も食べたいので下ろしてくれないでしょうか」

「だめ。これは全部自分のだから」

「……ケチめ」

 聞こえないような音量で俺は愚痴を吐いた。


「……俺を呼んだ理由はなんだ?」


 この状況で真面目な話をするのもあれだが、普通に気になっていたので聞いてみた。

「お前を作ったっていう奴が、お前の行動に関係してるのか?」

「まあ。性格的には影響を受けてるしな」

「……なんで俺に絡む?」

 少しだけ座長の正体が分かったことだし、更に深く探ってみるか。

「ちょっとな」

 ちょっとなじゃねぇよ。意味不明なことに巻き込みやがって。

「プレゼントもあるんだ。ゆっくりしていってくれよ」

 プレゼントだって?

 胡散臭い予感しかしない……。何を企んでやがる。

「こんな場所でゆっくりしろと抜かすかっ」

「まあ、そろそろ下ろすか」

「お!」

 体の自由が戻り、俺は下りられるようになった。

「よいしょ!よいしょ!」

 長すぎる椅子にくっ付いた梯子を使い、普通に下りていく俺。

「よいしょ!」

 ちくしょう、なんかもっと格好いい下り方はないのかっ。

(前と同じで力を封じられ)

 この状態じゃ、華麗に椅子から飛び下りることも出来ない。

 両足が砕けてしまうだろう。

「……ふぅ!はぁ!」

 少し息を乱しながら床の上に下りた。

 緊張のせいか、余計に疲れているようだ。

「お疲れさま。クッキーいるかい?」

「……くれんのかよ」

「あげないよ」

 クッキーを齧りながら座長は言う。

 人をバカにしやがって。クッキーにワサビ塗りたいぜ。

「さてと、また移動しようか?プレゼントはそこにあるんだ」

 座長の野郎は席を立つと、部屋の出入り口に歩いていく。

(付いていくしかないか)

 どうせまた動きを操作されるのがおちだ。

 なら、少しでも自由になれる方を選ぶとしよう。

(背後から奇襲をしかけても)

 通用するとは思えない。

 そもそもこいつに今の俺のパンチがどれだけ効くのか。

(無力だ……!)

 今は気持ちを抑え、冷静になって動くとしよう。

 感情的に動いては駄目な時がある、大人にならないとな。

「この扉の向こうだ」

 部屋を出てエントランスに戻った俺達は、また少し歩いて、新たな部屋の前へ。

「……【ショップ】?」

 ピンクの扉に張り付けられたプレートに書いてある文字。

「楽しいお店さ・危険なお店さ」

 丸いドアノブを握る座長の声が、変に重なって聞こえる。

「いざ、入ろうじゃないか」


 扉が勢いよく開けられ、俺はその空間を視界に収めた。


「――いらっしゃい。ゆったりしていきな!」

 元気の良い男の声が迎え入れる。

「ごちゃごちゃしてんなぁ……」

 室内には乱雑に物が置かれていて、今にも崩れそうな山がいくつも形成されている。

 天井は高くない。

「おっとジン太か。こりゃあサービスしないとな!」

 俺の名前を口にする見知らぬおっさん(ウサギの耳を着用)が、右のカウンターに。その後ろの棚には、多様な品物が置いてある。

「いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!」

「滑稽なる者のご入店!」

「うれしくないぜ!帰りやがれ!」

 部屋に置いてある大きなピエロの人形達から、ありがたくない歓迎の言葉。

「さっ、メニューを見ていってくれ!」

 カウンターの前まで座長と一緒に歩くと、おっさんが本型のメニューを取り出した。

「なんだこりゃ」

「プレゼントさ」

 革で出来たメニューを開く俺に、座長は「わくわくして選んでくれ」なんて言いやがる。

「どれどれ……?ん?」

 そこに書かれた文字列は、見たことのない文字で構成されていた。

「しまった。お前が読めない文字だったか」

 座長はとぼけたように言うと、違うメニューを出すように店主に促す。

「さっきのは、第二異海の大陸で使用されてる文字。お前にも分かるのはそっちだな」

 新たに取り出されたメニューを受け取る俺。

 持ったまま、同様に開く。

「これ、アスカールの文字か」

「その通り。それなら読めるだろう」

「……」

 座長の言う通り、書かれた文字列を読み取ることが出来る。

(【びっくり玩具箱】・【最高の棍棒】・【衝撃の手紙】……他にも色々)

 読んだところで意味が分からないぞ。

(商品名らしきもんの横に書かれている……ポイント?)

 10・20・30。商品毎に違うポイント数。

「気にせず購入しなよ。今回はサービスで無料だ」

「また買うことがあるような言い方だな」

「気に入ったなら何度でも買えば良い。もう少し気が乗ったら、いつでも【此の場所】に案内しよう」

 名称だけでも意味不明な商品を気に入るなんて有り得ないが。

(いつでも此処に案内してくれるっていうのは、むしろチャンスか?)

 いまだにまったくこいつの対処法が掴めないので、少しでもヒントが得られれば。

(……今は大人しく)

 しておこうと決め、俺はメニューを一通り見てみることにした。

(とは言っても、何か役立ちそうな情報もないか)

 書かれている商品名は、どれも意図が掴めないものばかりだ。

「どれにする?ジン太」

 囁いてくる座長の言葉は、さっさと決めろと遠回しに言っている。

「……じゃあこれで」

 どうせ全部怪しいのだから、どれを選んでも一緒だろう。

 俺はなるべくポイントが高い……ではなく、少ないのを選んだ。高いと逆にろくでもない結果になるのではという判断。

「へえ。衝撃の手紙か」

「まいどあり!」

 おっさんはカウンターの下あたりで何やらごそごそした後、水色の封書らしき物を手にして現れた。

「どうぞ!大事に使ってくれ!」

 それを俺は嫌々受け取り。

「中を確認しないとな」

「分かってるよ」

 封書を開けようとして。


「ごっぱああああああアッ!?」


 いきなりとんでもない衝撃が走り、頭が割れそうになった。

(なんッ!?)

 ぐらぐらと歪む視界、店主のにこにこ顔。

「大当たり。かもな」

 座長の声、が離れていく。

(だ、だめだ意識がっ)

 意識が薄くなっていく感覚。

 狭まっていく視野。

 直感で、場面破壊から離れていくのが分かった。


(結局、なんだった、んだ……?)

 意味も分からず、俺は――。


◆変換、完了◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=142239441&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ