表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/161

参加者

 冒険には障害があるもんだ。

 それを乗り越える為に必要なのは。


「手強い……!!」

 俺達は最奥の部屋から出て、来た道を引き返していた。

(現在地は【自然の部屋】)

 直径三十メートルはあると思われる場所。

 石壁には木々や草花、小動物が描かれている。

(三角の部屋の半分程度しかないな)

 窓の一切ない空間は、どうにも気が滅入って。

 さすがに最初よりペースは落ち、攻略は困難に傾いている。

(動きが速い……!今の限界突破じゃきついか!)

 敵の姿は大きな狼のようで、黒い毛並みを持っている。

 今まで遭遇したどの魔物より素早い。四足歩行の獣。

「このっ!」

 メリッサの苛立ち声と共に、鋭い一矢が狼の頭目掛けて飛んでいく。

(それも避ける!)

 矢は魔物の頭をかすめ、遠くの壁に突き刺さった。

(決して遅い攻撃じゃない)

 弓矢アロー武強ブレード時に発生する、攻撃上昇:メリッサお得意、矢の速度強化。

 それによって放たれた矢は不可避の一矢に変わる。

(ベストな状態ならな)

 ここまでの戦闘で、器の疲労が蓄積しているのが不味い。

 動力は落ち、当然ながら攻撃上昇も効果が減ってしまう。

(才力を補助具に送る速さ――【発動速度】も低下)

 他の武強ブレードと違って、弓矢アローは強化武器である矢が手元を離れてしまう。そうなると強化の為の、補助具の器を駆動させることも出来なくなる。結果、放った後は時間と共に威力は落ちていく。

 必然、撃つ際はなるべく動力を上げて撃たないといけなくなり。

(かといって、常にそれでも保たない。撃つタイミングを見極めて、そうする必要があるが)

 今回の様な敵相手では、撃つ準備が間に合わない。


「――それをサポートすんのが、仲間の仕事だよな!」


 俊敏に動く魔物に、最大の速度上昇で接近する。

 奴の右側を攻めるように。

「!ガルルッ!」

 こちらの動きに反応する魔物。

「俺が相手だ」

 挨拶と軽い拳の一撃。

「ガル!」

 を、強靭な四本足から展開する速度で左に避けた。

(そっちは――もっと速いぞ)


「ガッルッ!?」


 魔物の顎を捉える強烈アッパー。

 そのまま獣を宙に打ち上げる威力の、迅雷の拳。

(左からの、マルスさんによる援護)

 地から離れた足では、何の力も生み出せず。

(見逃すメリッサはいない)


 魔物の体の中心を十字の閃光が貫いた。

 砕け散る体は、俺達の勝利を伝える。


「……疲れたぁ」

 はあ、はあ、と息を乱すメリッサ。肌には汗が浮かび、床に尻を着いて呼吸を整えている。

 そんな状態でも弓をしっかりと握って。

「そろそろ、ボク達でもきつくなってきた……」

 同じくマルスさんも、両手を膝に着き、肩を上下させている。

「……なんとか避けられれば良かったんだが」

 フィアを助け出す道のりで、俺達はいくつかの魔物をスルーして来た。

(攻略書の力で、途中までは)

 攻略書に記述がない部屋になると、戦いを回避するのが難しくなってしまう。

 見た限りの行動パターンから、回避法を探るしかない。

(時間がないから、失敗する時もある)

 完全に魔物の死角を突いて動いたのに、こちらに襲ってくる魔物もいた。

(あれは匂いか?音はなるべく抑えていた)

 そんなこんなで、見つかった際には対処せざるを得ない。

(……二人は戦えないな)

 マリンとフィアの二人は、戦闘の際に避難させている。

「……」

 マリンは体の震えが前より少ない。

 しかし戦える状態ではなく、俺としてはそちらの方が嬉しいが、彼女の無念そうな表情が心を痛ませる。

 幸いなのは、習得したストロングのお陰で進行速度に問題はないところ。

「ジン太……強くなりましたわね……」

 フィアの方も生気が失せたような顔が心苦しい。よろよろな歩みしか出来ず、俺がおぶりながら先に進んでいる。

(どちらも戦わせたくはないが、俺達も苦しい)

 万全な状態ならともかく、疲労が溜まっていくと危険だ。

 未知の魔物に遭遇した場合、下手すると……。

「……次の部屋で休もう」

「そうだね。この態勢で行くのはまずい」

 この部屋の次は、【藁の部屋】。

 自然の部屋より更に狭いが、魔物が出現しない場所だ。

(床には大量の藁がある、それを寝床に使えば)

 他には、内部構築を用いて生み出される果実、暇の果実が生えている。

 まるで休憩の為に用意された部屋だが、実際そうなんだろう。行きの際にも助かった。

(この場所を作った奴はなんの目的で)

 初めからゲーム目的で作られたのか、後から改造されたのか。


(もう少し、難易度を下げてくれよ……)


 フィアを背負いながら、内心で愚痴った。


 ●■▲


「――着いたか。下らんお遊びの場所に」

「……」


 同時刻・新たな勇者がトレジャー・ルーム:洞窟の部屋に到着した。


「おおっと。ようやく来ましたか。遅刻組」

 背にリュックを背負った男二人組。一方の男は、腰にそれなりの長剣を装着している。

 対応するのは管理体の女性。ルリ。

 彼女は笑顔で二人に近付く。

「これで全員ですね。……しかし、遅れてますが」

「ただの遊びだしな。一応の準備はしてきたし……参加さえすれば、あの方も文句は言うまい……それに」

 ちらりと、ユーリは右後方の壁を見た。

「……」

 壁に寄りかかって座っている男。勇者として掲示板に何度も載り、優秀な勇者に与えられる特典を何度も貰っていた実力者。

 項垂れた緑髪の頭は、上がることなく。気絶しているようだ。

「あいつのように、待ち受けて横取りする手もある……ルール上、問題なかったよな?」

「どっちの意味で?」

「両方だよ」

「……ええ。ご自由に」

「よし。……ああ、それと、リュック……じゃなくて」

 背のリュックではなく、ズボン右ポケットから封書を取り出したユーリ。

 それを管理体にぶっきらぼうな動作で渡す。

「これは?」

「さあ。中身を読んで、確認してくれだそうだ」

「……分かりました」

 用事を済ませたユーリは、いよいよと言った感じで奥の出入り口を見遣った。

「先には、何が待ち受けているかな」

 進むべき道を定めるように彼は。

「……?」

 右の壁に埋め込まれた、それにも気づいた。

「石板?」

「ああ。それは今回から導入した物でしてー」

 ルリは石板に歩み寄り、右手でそれを指し示す。

「本来は説明しない方針なのだけれど、言っちゃいましょうか」

 悪戯気に彼女は笑い、ユーリ達に説明を始める。

「これ、この場所の地図なんですよ」 

「地図……攻略書いらないな」

「いえいえ。攻略書には攻略書にしかない情報がありますし……その逆も然りで」

「逆?……」

 ユーリも、石板を見るために近付く。

(普通の地図……所々、隠されているのが憎らしいな。考えたルリの悪戯心が滲み出ている……他の注目点は)

 彼が注目したのは地図の色。

 地図の部屋は基本的に灰色に塗られているが。

「一部、色が違う」

 赤色に塗られた部屋も存在する。

「……気になるな。行ってみるか」

「おや。行くんですか?……他の参加者の皆さんは良くも悪くも大雑把で、気にせず宝の方に行くか、そもそもヒントに気づかない事が多いので、新鮮です。他の参加者に気付かせないように、必死に隠してた人もいましたし」

「せっかく用意してくれたようだからな。付き合うとしよう」

「嬉しいんですけど、間に合わなくて【それ】の意味がなくなるなんて間抜けは止してください」

「はは、遊びだしどうでも良い。せめて少しは鍛錬になってほしいもんだ」

 ユーリは適当に言うと、再び洞窟の奥を見る。

「ゲームスタートだ。ペルさん」

「……ああ」


 悠々と進んでいくユーリと、静かに後に続くペル。

 最後の参加者を加えて、本格的にイベントは動き出す。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=142239441&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ