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探求の鐘

「えらい別嬪さんでなぁ。檻の中に入れられて、運ばれていった。奴隷って話だが……」


 島の酒場でその情報は得られた。

「トレジャー・ルームのイベント報酬だってな!金も手に入るんなら、おれも挑戦してみっかと思ったよ」

 どうやら彼女は、捕らわれた後にある会社に引き渡されたらしい。

 勇者の集いとかいう、ロドルフェの南にあるホワイ島にある会社。

「渡された広告いるかい?アンタ、興味ありそうだし」

 かつては特殊な天力を扱えた、美しき奴隷。そんな説明がされていて。

(フィアを手放した理由はそれか)

 なんにしても、ロドルフェの王から離れたのは僥倖だった。

 最も高い壁から、出てきたということなんだから。

(天上達は)

 ロドルフェから他国へと侵攻中。

「わざわざロドルフェまで行って、出撃の祭りを見に行ったんだよ!格好良かったっ」

 最大の脅威がいない今がチャンスではあるが。

(強硬策でトレジャー・ルームに踏み込むか?)

 早く彼女を助けたいなら、そうした方が良いんじゃないか。入るのに許可が必要らしいし、天上が戻ってきたら……。

(待った方が)

 強硬に出ると言っても、勝手に入れないように配置された警備の質はかなりのもの。いくらマルスさん達がいるといっても、困難なことのように思える。

(下手に騒ぎを起こさなくても……イベントをクリアすれば、フィアを助けられるんだ)

 多少時間が掛かってでも、正面から突き進む。

 探求勇者の申請を済ませ、富眠る魔境へと。

 悩んでいる時間も惜しいので、俺達は迅速にその方針で動き始めた。


「私は別行動します」


「フィル……?」

「構いませんよね。船長」

「……」

 フィルは俺達とは別に動くようだ。

 何をしようとしているかは分からないが、彼女がいないのは心細い。

「では。成功を祈ってます」

 去っていくフィルの背中を見ながら、俺は決意を固める。

(あいつがいなくても、やってやるさ)

 フィアを助けて、無事にアスカールへ帰還する。


【ジン太――】


「そうだっ。しっかりしないとっ」

 彼女の笑顔を思い浮かべ、俺は心を激しく動かす。

(……昔に、物好きな冒険家が自らの莫大な財宝を隠し、出来上がったというトレジャー・ルーム)

 中に存在する魔物やトラップ、その他の要素、あらゆるものが目的を阻もうとするだろう。

(攻略書とやらの情報は少ない)

 ゼロではないだけマシかもしれないが、不安感はある。

(……一人じゃ無理だった)

 一緒に来てくれた仲間達もいる。

 イベントの人数制限の所為で同行に限りはあるが、どちらにせよ備えの待機組は必要か。

(マリンは……)

 同行させるか迷ったが、彼女の強い要望で連れて行くことになった。

 人数は埋まっていたし、子供では探求勇者になれない、しかし。


「へえ、子供ですか……まあ良いでしょう、特別に同行を許しますよ。え?子供好きなのかって?この場合は逆でしょう」

 とは、トレジャー・ルームの管理体の言葉。


(……)

 そうして今、装備検査を終え(持ち込めない道具もある)、俺達はトレジャー・ルームを囲む鉄柵を越え、内にある洞窟の中へと入った。俺が背負った鞄に入った道具には、才物もある。

 此処は島の西にある場所、西区‐2‐5ルーム。

「ふふふ、見てなって!ぼくの拳は天をも砕く!」

「可愛い奴隷に、大金!さいこーじゃないか」

 勇者の集いに置いてある掲示板で見た顔が、何人かいる。

「魔物の弱点……対策は練った。完璧だ」

「ワクワクすんぜ!開始前が一番いいなっ!」

「借金……がっ」

 柔らかい土を踏み締め、集まってくる参加者たち。二十数名ほど。

 中には手を組んでいると思われる集団もある。

 どいつもこいつも一癖ありそうで、まったく油断ならない。する気もないが。

「……」

 俺は壁際に立ち、この場の様子を観察する。

(ここが、イベントのスタート地点)

 洞窟内を照らす上方の波動に、おそらく内部への出入り口と思われる大きな鉄格子……か。

「はいはい、そこ。スタート地点の物を勝手にいじらないで」

 洞窟内に存在する人骨(頭)を模した飾り。壁に掛かったそれを弄る参加者を、管理体と思われる女性は注意した。

「ちゃんと事前に説明は受けたでしょう?失格扱いにする?」

「す、すいやせんっ」

「よろしい」

 ロインが反応しそうな見た目の、長い青髪を一本の三つ編みにした女性。上半身を覆う衣服がブラジャーのようなものだけで、露出が多い。下に穿いてるズボンはとても短く、ファッション的な疵がついている。

「開始まで大人しくね」

「へ、へへ。はい」

 鼻の下を伸ばしている男。周囲の奴らも似たような顔だ。

 男くさい空間だから、余計にな。

(注目されているのは、あいつもか)

 

「うう……恥ずかしい……」


 少し離れた所にいるメリッサ達。

 メリッサは脇に大きく切れ込みが入った膝丈程度のスカートを着ていて、どうにも落ち着かない様子である。上の衣服は両肩と臍辺りが見えてしまうタイプ。背には黒い矢筒が。

 ホワイ島における暑い時期の定番らしいが。

 俺もマルスさんとマリンも、この島に合わせた姿。

(この三人と一緒に)

 俺はトレジャー・ルームへと挑むことになる。

 マリンを連れて行くことに関して二人から猛反対されたが、なんとか事なきを得た。

(……危険なことに変わりはない)


「――それでは、時間になりましたんで」

 洞窟内に響く鐘の音は、探求の始まりを告げるもの。


「おおー!!いよいよかっ」

「待ちくたびれたぜっ!!」

 活気が出てくる参加者たちを見ながら、俺も深呼吸して心を落ち着かせる。

 いよいよ始まるんだ、フィアを取り戻す為の戦いが。

「ではでは。各々の勇猛果敢な攻略に期待しています」

 管理体の女性は鉄格子の前まで来て、にっこりと笑い。

「奥に広がるは魔物と宝!それに挑むは勇者達!寄り道しようが、宝箱を見つけようが、ご自由に!」

 お決まりなのか、良くわからない口上だ。

「あなた方の未来には、輝く財宝が待っている!!かもね!」

 彼女のウインクと共に、重々しい音を立てながら鉄格子がせり上がっていく。

 武器を既に構えている者もいる中で、開始の言葉は放たれた。


「――欲深い勇者共よ・すべてを欲して奪い合え」


「はっははぁ!言われずとも!」

「他の奴らを蹴落として!!」

「栄光を手にすんのはッ」

 動きは害意を持った。

 他の参加者を開始時点で潰そうと思う者達による、周囲に対する凶器の行使。

 手っ取り早く、分かりやすく、邪魔者を排除しようとする行動。

(の中で)

 俺の目が捉えた、ある参加者の動き。

(懐に入れた手は――)


 視界の中にいる参加者たちを、煙幕が飲み込んだ。


「おわぁ!?」

「ま、前が見えなッ」

 起こる混乱の声。憤りの叫び。

「お先に!」

 この事態を引き起こしたであろう人物は、楽し気な声を放って行った。

(煙幕の類は禁止されていない、なっ)

 微妙な視界の中を走り出し、瞬時に動いた影の元へ向かう。

「みんな!」

「ジン太君。そっちは、もう良いのかい」

 煙幕から逃れた仲間達。

 少し焦った様子のメリッサと、マリンを抱えたマルスさん。マリンは呆然とした顔だ。

「ああ。俺達も進もう」

「……びっくりした。船長」

 こんな状況でも前に進もうとする参加者達の怒号と混乱の声が混ざって、状況は混沌としている。

 武器を打ち合う音や、誰かの悲鳴も聞こえてきた。

「ッ」

 マリンの息を呑む音が聞こえ、彼女の体は震え出している。

「マリン」

 怖いんだろう。逃げたいんだろう。

 なのにお前は付いてくるっていうのかよ?頼みの才力だって、まだ覚えたてだって言うのに。

 今なら間に合うんだぞ、考え直したって――。


「行こうよ船長」


 考えていた言葉は空しく意味をなくし、少女の決意だけが残る。

(……無駄だな)

 彼女を止めたい気持ちを抑えながら、俺は静かに頷いた。

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