表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/161

静止

「ノードス君!お疲れのようだね!肩揉むかい!」

「いらん。休ませろ。絡むな。気遣いになってない」


 ギルアの小さな町。その一角に建つ劇場内。

 時刻は既に夜。劇場奥ステージ上の台座に置かれたオイルランプの火が、静かに揺らめく。

「そんなこと言うなよー!一緒に飲み会行こうぜー!」

「ふざけんな」

 左右二列に並ぶ長椅子の、右列最前席に寝ているノードスの顔を、背もたれ側から覗き込むガルドス。

「頼むよー!誘っても、誰も付き合ってくれないんだよー!冷たい!」


【えっ!わたくしと一緒に飲みたい!?――寝言は死んでほざけや!ギャハハ!】

【あんた、僕に借金あるよな?散々立て替えたよな?おいっ】

【用事があるの。ごめんなさい】


「人望なし。無能上司」

「ぐおっ」

 ガルドスの心に容赦ないパンチが打ち込まれ、彼は後ろに倒れそうになった。

「……はぁっ、はぁっ、やるじゃないか。ノードス君っ」

「茶番なら余所でやれや」

「――真面目な話がしたいのか」

 ガルドスの声色が一瞬で変わり、気を抜いたら命を吹き飛ばされそうな威圧感を放つ。

「そっちのがマシ。かもな」

「なら任務達成お疲れ様だ。今回は、ちょっと変わった任務だったからな。どうだった?」

「特になにも。自分で望んだし。……なにもねぇよ」

「そうか」

 言葉に混じる僅かな違和感を感じて、それを追及することなく問いを収めたガルドス。

 踏み込むべきではない。そう判断した。

「そっちこそどうだ。収穫」

「おお。そりゃあもうガッポリと!儲けましたぜ!」

「大量にあったのか。あの玩具」

「製造場所にたんまりとな。ただまあ、殆ど命中率が低いタイプだ。捕えた製造者を使って改良する必要があるが……これでロドルフェにも新武器・誕生!って、玩具かいっ!」

「そうだろ。才力に比べれば」

 あの程度の【銃】など、使用価値なしと怠慢男は言い放った。

「言うことが違うなー。――第零異海クリア・オーシャンの出身は!」

「……だから?」

「いやー、お前にとってはロドルフェ何て大したことなく見えるのかも。ってな!」

「全部そうだ。弱すぎる」

 この異海自体が脆くて頼りないと、ノードスは言う。

「【あの海】なら、容易く侵攻できるか」

「できる。するかは知らん」

「あっちも一枚岩じゃなしと。――やだねー、どこも陰謀・策謀でドロドロしてて!」

「必然だろ」

 詰まらなそうに欠伸をして、始まりの海から来た男は故郷を想う。

「何処も同じ」

 変わらない景色を回想する。

「っと、辛気臭くなったところで!見たまえ!これを!」

「?……酒か」

 ノードスの視界に映る毛深い右腕には酒瓶が。

「美味そうなのが王城の酒蔵にあったから、持ってきたんだ」

「酒はいかん」

「なぬ」

「持ってきたのあるだろ?他」

 ふっふっふっと笑いながら、後ろの席から黒色の液体が入った瓶を取るガルドス。

「コーラって奴、好きだなー」

「まあな。サンキュー」

 寝ながら腕を伸ばし、上から差し出された瓶を掴もうとして。

 

「ギャハハは!フィアちゃん登場!ですわ!」


 掴むと同時に、ガルドスの後方にある劇場の出入り口が開かれた。

 入ってきたのは騒がしい声だ。

「遅れたわね」

 落ち着いた声も。

「おっ!おっ!やっぱり寂しくなったか!素直じゃないんだから!もー!」

「エドワードはまだ仕事が終わらないってよっ!うーん、あの真面目ちゃん!ぎゃはは!」

 号泣しながら二人の元に走る上司(手には三つのコップ)。必死さを隠せてない。

「さっ!金のコップ・銀のコップ!それともオレが作った」

「うわっ鼻水。わたし金」

「私は銀ね」

 即座にコップを選んでしまった二人。

 残されたのは、右手の変な柄のコップ(珍妙な絵が描かれている)。

「くそっ、徹夜して作ったのに!」

 悔しそうに涙を流しながら、後方の椅子を指差すガルドス。

「あそこに飲み物は用意してあるから、好きに取ってくれ」

「私、酒は駄目なんですけどー!ぎゃは!」

「なんでも問題はないけど、出来ればワインがあれば」

「オーケー!有能上司のオレは、しっかりそこら辺も把握してるんだな!」

 

 静かだった劇場内が少し騒がしくなり、侵攻を主とする第三部隊の面々は任務終わりに一杯。

「ほら!ノードス君も乾杯!」

「めんどい」

 それすなわち、ロドルフェの勝利に他ならず。

 他国の資源・戦士などを吸収しながら、力を増していく国。

(第七異海の【十人の王】とは違う。完全一強――ね)

 ノードスは瓶を傾けながら、この異海の未来について。

(――どうでもいっか)

 考えるのを止め、ただ堕落していく。


 ●■▲


「早く早く!」 

「おいおい、そんなに焦るなよ」


 第一地区を共に歩く、昼のマリンとジン太。

 現在地は、丸い【リループ広場】の南に位置する通り。

「あー、今日は丁度いいよな」

「なにが?主語抜けてんぞ」

「気候がさ。これぐらいが好みなわけよ。これで彼女と一緒ならな~」

 通行人が言う通り、今日の王都は快適な気候を保っていた。

「船長!今日は本当に好きなだけ買っていいの?」

「そうだぞー。太っ腹な船長に感謝するのだ」

「やったぁ!船長の財布ゲット!」

「財布て」

 ジン太の前でスキップしているマリンは、嬉しそうな顔を彼に向けている。

(まあ、いつも付き合ってやれなくて悪いしな。……銀行に預けてあるルビィは、まだ余裕ある)

 以前アスカールに来た際に紆余曲折あり、ジン太はかなりの額を持っていた。

 ポケットにいれてある袋には、事前におろしておいた金が。

「あっ!可愛いぬいぐるみ!」

 早速、欲しいものを見つけて走るマリン。

 ぬいぐるみ屋のショーウインドーに反応した様子。

「思い出しちゃうな」

 そこに飾られた猫の人形が、リアメルで出会った友人を思い起こさせる。

「欲しいのか。それ」

「ううん、そんなに人形好きってわけじゃないよ」

 少し寂しげに別の店へと向かう彼女。を見て、ジン太は。

(ああ言っても、マリンがそんなに使うわけないか。フィルだったら遠慮しないだろうなぁ) 


「好きなだけ買って良いと言ったでしょう?」


「うっ」

 以前とんでもないことになり、フィルにその言葉は使わないようにしたジン太。

 口は何とやらを学んだのだった。

(マリンが欲しがるものと言ったら、お菓子ぐらいか)

 この通りに高級菓子屋なんてものはない。などと、せこい考えを起こす男。

「見てっ、綺麗な花だね!」

「ああ」

 マリンは開放型の花屋に入り、棚に並べられた花々をじっくり見ている。

 花とかは良く分からないジン太だが、色取り取りで悪くないと思う。

(いい匂いがする)

 何の花だろうか?と。

(フィルに――興味ないか)

 一瞬そんな考えも過ったが、彼女には本の方が。

(――あいつにとっての、それ以外は何だ?)

 

【弱者を甚振るのは。楽しいです】


(などと、とんでもないことを言っていた。……あいつの異常性については、長い付き合いで掴めた。少しは)

 しかし、その先は。


【残念です】


「……アウトだろ。その眼は」

 彼の背筋に氷柱が突き刺さる。

「――パパーッ!!どこっ!?」

 と、花屋の中で子供の泣き声が聞こえてきた。

(女の子?)

 ジン太達の左方向、店の奥に。

 両膝を床につけて、泣いている少女がいる。

「あっ」

 気付いたマリンは反射的に、その子の元へ行こうとして。

「?」

 何故かその足を止めた。

 そうしている内に、少女の親がやってきて。

「パパっ」

「すまない。心細かっただろう」

 再会した親子。

「――だめだよ」

 それを見て、呟きは漏れる。

「だめなんだよ」


 ジン太の目に映るマリンの背中は、酷く朧げに揺れていた。

 親子が陽だとするなら・彼女は影。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=142239441&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ