紡がれていく日々
新しい季節の風と日を浴びながら。
「……ふあ~あ。なんか怠いなぁ」
僕は大きな欠伸をした。昨日の、あれのせいかな?
(ランキングの作成……稀に見る好調だっ!)
うきうき気分でやっていたら、すっかり睡眠時間を削られた。その甲斐はあり、学院の美しき花は全てカバー出来たがよ!
(次は町全域、更には国全体、更に更に全世界をっっ!!)
まだ見ぬ美女達が僕を待っているっ!はずっ!!信じろっ!!僕っ!!
獣耳系・オッドアイ系・超大女系……レアなる属性を持つ宝石をこの目に――。
(……一位は)
僕はポケットに入れた手帳を取り出し、開く。
一位に記された名を見て。
「……」
無言で閉じた。
お馴染みの通学路である林を通り、学院への一本道に出る。
「――おっ!天の王者(笑)君じゃないか!」
「なぬっ」
空き地に囲まれた通りで、背を言葉で殴って来やがる野郎。
「ジョージっ!嫉妬はよせよぉっ!」
「ははっ、それをすんならフィルさんの方だな!いやー、俺達すっかりサブだな。サブ」
「おいらは満足。もともと不相応だ」
並んで歩く二人の友。
ジョージ&ケビン・天を目指し共に戦った、頼もしき戦友。……になる筈だったのだが。
「一人の戦士による、無双物語に変わってしまったとさ」
外部枠で参加した、おしとやか系?巨乳黒髪美女のフィルさん。彼女が華麗なる体術で、優勝への道を切り開いてくれた。本当に感謝。
(是非ともその姿を見たかったな……飛び散る汗をっ!放たれる美脚をっ!じゃなくっ)
その活躍によって謎の美少女戦士として有名になり、僕達の影が薄くなった感はある。学院に行ったら、彼女の素性について聞かれまくった。可愛い女子にまでサイン頼まれた。
僕のは?いらない?
「野郎に求められても、嬉しくないんスよね」
「どっちかってーと、男子人気高いよな。ロイン」
「普段の言動の所為じゃない?」
「?」
紳士たる僕の言動がどうしたと。
「むしろ俺達、何もしてないのに持ち上げられすぎだな!」
それでも嬉しそうなジョージ。
「父ちゃんと母ちゃんに褒められちまったよ、おいら……。じいちゃん、見てたかな?」
不服そうなケビン。
「んなことないだろ。お前達が手を貸してくれたから、勝てたんだから」
僕一人の勝利じゃない。
例えあの舞台で戦う機会がなかったとしても、掴んだ栄光はみんなのお蔭だ。
「言ってくれんな!」
「ロインの癖にかっこつけやがって」
癖にってなんだ。
「――そういや、第二地区の【炎銭】。水道才管の修理が終わったみたいだな」
「じゃあ記念に行くか!久しく行ってないしな!」
「――」
こうして笑い合いながら、時間を共にする友人達。
(それがあるのなら)
己の本当なんて見せる必要はない。
ないんだよ、な。
「……では教科書の」
白いボードの前に立つリンダ先生。凛々しくも柔らかな表情が、今日も素敵だ。
二つの指で持った槍先端から黒色が発生し、ボードに文字を刻んでいく。
(教室内の様子は)
いつもと変わらない様に見えるな。
(ケビンの奴、退屈そうにしやがって。金を払う価値があるのにっ)
ジョージは真面目に受けている。金を払えよお前。
(メイ)
同様に前を見る彼女の仕草。
それを自然に目で追って。
「あ」
目が合った。
「……」
一秒ほどで視線が外れた。
「……春の月に行われる……祭り――」
耳が上手く働かない。
ぎくしゃくとした僕等の関係は、いつまで続くのだろうか。
「今日の授業はここまでね」
そうしている内に鐘が鳴り、授業が終わった。
席を立ち、気まずい教室から出ようと思った時に。
「あっ、ロイン君。ちょっと来て」
リンダ先生に呼ばれた。
デートの誘いかっ!?
「んふっ!いけませんよぉ、リンダ先生ィ……!」
「?なに、その口調?ふざけてないで、これよ」
教室左奥、先生の机。その上に置かれた細長い箱は。
「中に入っているのは……剣。【特質武器】ですか」
特質武器とは。才物ではないが、才力を補助する効果を持った物・補助具。の一種。
武強用の武器であり、僕はあの怪物にそれを砕かれた。
箱に納められた剣は、使っていた特質武器にそっくりだ。
「見た目は同じでも、こっちは最新型。ブルーシュア社製よ!」
「ぶ、ブルーシュアっ」
あの高品質・高価で有名な、男子の憧れのっ!?デザインも格好いいの多いんだよな!
興奮してきたっがっ!
「そんな金はっ」
お見舞いに来てくれた際、「武器壊れちまったーッ」って泣き言は言ったがよ……。
「大丈夫!謎の戦士がお詫びにって、完璧ィに!全額払ってくれたから!」
三秒で分かる謎の戦士とは。
「そういうことなら、有り難く!」
使う機会はあまりないかもしれないが、とりあえず鍛錬に使用するとしよう。
「……ロイン君、メイさんと何かあった?」
ふと、先生がそんな事を聞いてきた。
「……なにも」
バレるだろうが誤魔化す僕。
「そう、なの。メリッサさんも様子がおかしいのだけれど……」
メリッサか……。
(まだ尾を引いている)
あの状況で動けなくなるのは、普通だろうに。
初めての命の奪い合いなんて、ゴンザレスぐらい動けるのがおかしい。
(色々、大変だ)
僕は窓の向こうで揺れる木の葉を見た。
心中を渦巻く想いを、憂いながら。
●■▲
「もうっ、ちょっとっ!!」
それぞれの時は新たな季節に移り、良くも悪くも変化は起きていた。
「やれそうっ!今度こそっ!」
こちらは一応、良い変化に分類されるのだろう。
「――待っててっ!キャプテンっ!」
ロイン宅。いつもの修行風景。
大量の汗を流しながら、少女は苦悶の中で笑う。
ようやく目当ての、船長の助けになれる力がと。
(キャプテン、また褒めてくれるかな)
あのパーティーの時の様に。なんて考え、更ににやけてしまう。
「わたし、頑張るから、だから……」
どうかまた。と、マリンは血を・涙を流し進む。
「……止めないのかって?本人の意思よ。それを止めるのは、仲間の為かしら?」
その苦痛を眺めながら、フィルは言う。
言葉は何処に向けてのものか?座るベッド周りではないだろうが。
「酷いこと言うわね。否定はしないけど」
本を捲りながら、彼女の赤い瞳がゆらゆらと揺れる。本の内容は、ある努力家・しかし無能を描いた物語。
物語と玩具の苦痛・どちらが楽しいものかと。
きっと彼女は、どちらも同様に楽しめてしまうのだろう。
「――今回の報酬、ね。まあ、それだけの働きはしたと思っているわ・本当に嫌だったの。今すぐ全部壊してしまいたくなる程に」
自然に瞳は流れ落ちる赤を追い、誰も気付かない程度に顔は【邪】を示す。
あるいは、彼なら気付けたのだろうか。
「冗談よ……。信じて、同じ【影に潜む者】じゃない」
フィルの・最高の船長なら。
「これでもない、か。くそっ」
苛立ちと焦りで視線を動かし、ジン太は書物の山と戦い続ける。
早くしなければと思っても、それで能力が変わる訳でもなく。
自分に出来る限りの速度で、模索し続けるしかない。
「……っ」
図書館の机に大量に積まれた本を見据え、彼は更に気合を入れて臨む。
「よしっ!」
彼は新たな資料を掴み、ページを開く。
(今の所。才力解放以外で才を使えない者が使えるようになる方法はなく、無駄な足掻きかもしれない。――もしかしたら、失われた本の中にそれがあったかもな)
そうだとしたら、純粋に悔しいと思うジン太。
しかし過去には戻れないので、そんなことで手を止めるのはアホらしいと。
(進もう先へ、先へ)
熱意を滾らせ、心を燃やして。
その瞳に――。
(ジュア、お前は)
対面にいた、友人の姿が映ったような気がして。
ジン太は切なくなって、目を逸らした。
(あんなに熱意を持ってたのにな)
なのに、何であんなあっさりと。
想わずにいられないが。
(今更だ)
こんなものか。と、空しくなって。
せめてその熱意を刻み、目的に向かって行く。