表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/161

注意事項

 僕は、世界を壊せる化け物なんだ。

 子供の頃、そう思ってた。


「おい、またあいつか……」

「見るな、化け物の呪いに掛かるぞ」

 通り過ぎる大人達が、くだらねぇことを言ってやがる。

(【最初】からコレだから、慣れたがよ)

 本当にそうなら、てめぇら全員この世にいねぇよ。それとも、本当に凄い力が秘められているってのか?

「この村に災いを起こす、伝説の化けモンじゃ……」

 そんなもんを本気で信じてんのかよ。狂った村だぜ。

 まあ、無理もねぇか?

(周囲と比べて僕の顔は【外れて】いる)

 基準から大きく離れた顔面凶器、他人に不快感を与える見た目。人外じみた印象を強く与える。

 そこにあるだけで、鬱陶しがられる存在が僕。

(なんだかんだ言って、外見は大事なんだよ)

 どんなに頑張っても、視覚的に引っ張られるのは防げない。脆いもんだな意志なんて。綺麗事を言ったところで、顔があれなら絶対拒否。信念?感情?努力?人生?なんの意味がある。ただし美形に限るを忘れてんぞ。

(くそったれだ)

 そう人生なんて。生まれつきのもんで左右されるような概念。

 こんな下らねぇもんだよな。


(たりねぇよ)


「……ちっ」

 小石を蹴って、明後日を恨む。

 睨む夕陽はいつも通り忌々しい。

「いてっ!?」

 頭に鈍い痛みが走る。

 足下に転がる石ころが見えた。さっきの復讐か。

「じゃねぇな」

 右の草むらを見ると、悪ガキ風の三人がこっちを見て笑ってやがる。

「やれやれ」

 

 拳を痛めながら、帰路に戻った。

「いてぇな」

 鼻をへし折ってやったが、こっちも折れちまったぜ。困るような面ではないが。 


(足りないな)

 

「ただいま」

「……」

 薄暗い家に戻ってきた。

 扉を開けて挨拶しても、返事はなし。誰もいない訳じゃねぇ。

(母親……じゃなく、こっちを睨んでる赤の他人さん)

 白髪混じりで、ごく普通の顔立ちの女性。

 目に込められた感情は、そう思うしかないと諦観させる。こういうもんなのか?親って。

「……暗くねぇかよ。ランプ切れてんだろ」

「誰かの所為で肩身が狭くてね。……あんたが買ってきておくれよ。ルビィは渡すから」

「……はいよ」

 軽く言葉を交わして、僕は奥の部屋へ。

(集会所近くの店が良いかな。トラブルが少なそうだ)

 自室の床に寝転がり、ぼんやりと天井を見つめた。

(……この日々に) 

 意味なんてあるのか分からないが、何か引っかかるもんがある。足りてねぇんだ、欠けてんだな。

(上手く言葉に出来ないが、僕はそれが欲しい)

 

 いつか絶対手に入れてやる、その為に――。


「うう……」 

 うめき声が下から聞こえる。聞き慣れてしまった声だ。

 赤の他人が床に倒れていて、頭から血を流している。

 僕がやった。いつかこういう時が来ると思ってたから、割と冷静だな。

「よくもっ、ばけものっ」

 手元のナイフを光らせながら、どうでもいい他人は殺意を向ける。


【放置してはいかん。ちゃんと見張っておけ】


(……仕留めておくべきか)

 危険を感じた僕は、物騒な考えを行動に移そうとして。

「めんどくせぇ――じゃあな、ありがとさん」

 一応の感謝を伝えて、感慨もなく家を後にする。

 

 村にも家にも、二度と戻ることはないだろう。


「はっ!はっ!ハッ!!」

 肌寒い闇の中を行く僕は、腹と肩に感じる痛みを必死に堪える。

(奴等、マジで掛かって来やがってっ!)

 着衣に滲む赤は、結構多い気がするな。やべぇかもしれねぇ。あまく見過ぎたかっ。

(遠のく、視界がっ)

 死ぬのか僕は。

 ……ふざけんなっ!死ぬかよっ!

(死に場所じゃねぇんだっ)

 まだ足りないんだ、それを手に入れるまでは。


(僕は、くそったれな道を歩き続ける)


「……ッぐ!」

 倒れた体に力が入らず、夜空を見上げる形で停止した。

(ここは、どこだっ)

 土に背を預けながら、考える。周りには草木が殆どない。

 夢中で来たから分からずに、希望があるのかないのか。

(僕、は)

 顔から色々溢れてきた、反動かもしれない。

 だが、泣いたってどうしようもな――。


「――誰?キミ」


 掛けられた覚えのない程、気遣いに満ちた声が鼓膜を響かせた。

 女の子の声であることは分かる、なにもんだ?

「えっ、あっ!泣いてるの?てっ!血がっ」

 空を隠すように見えた姿は、金髪の少女。しかもカワイイ。

「どっ、どうしたらっ!?ええっとっ」

 少女は慌てながら、自分に出来ることを探して。

 僕は上体を起こし、その様子を見ている。

「き、キミっ!名前はっ!」

 屈んだ少女は、顔を正面から見つめて。僕の名前なんかを聞いてくる。

「……ロイン」

 ぶっきらぼうに答えた。

「わたしはメイっ。えーっと、だからっ」

 あたふたしながらメイは、こちらに両腕を伸ばし。

「なっ」

 僕の体を抱き寄せた。

「泣かないで、ロイン。もう大丈夫だよ」

 僕は驚いた。

 なにに対して?

(人間の体って、こんなにあったかいのか)

 感じた事のない温もり……これが優しさなのかよ。

 その少女は本当に大切そうに、僕を抱き締めていた。

「……」

 夜空の下で、僕はすれ違いの涙を流す。


【見るな】

【ばけものっ】

 

 足りなかったものが、見つかったような――。



「――またか」 

 結局、こうなってしまうのか。

 彼女を騙し続けた、罰なのかもな。


【あっ、ああっ、これはっ、違うのっ――違うッ】


 僕と同じ髪色に変わった女性は、絶望と混乱の中で去っていった。はっきりと拒絶の目を向けたまま。

 僕は一人、夜風に晒されながら座り込む。床が妙に冷たく感じる。

「――ロインっ、何があったんだ!」

 いや、一人ではねぇな。あまりに帰りが遅いから、熱血野郎が来たようだ。

 僕の様子を見て、心配そうに聞いてきた。

「……心配することねぇさ。ただ、自信過剰のバカ野郎が」

 見事に大切な人を傷付けて、無様に玉砕したってだけだ。

「はははっ、ははっ!」

「ど、どうしたんだよっ」

 どうしたって?笑えてしょうがねぇのさ。

 無駄に夢見て、頑張って、その果てに不細工すぎて失敗ってよ。なんだいそりゃ。

 一級の喜劇だ。大爆笑だっ。

「はっははっ!!」

 まったく、本当に。

 

【――いやっ!!近寄らないでっ!!】


 本当に。

 こんなの。


「――――笑えねェんだよおおおオオッッッ!!!」


「不細工な奴は、格好良いことしても無駄なのかよッ!!言っても滑稽でしかないのかよッ!?」

 回る回る、心が、不満が、思考が。

「こんな簡単にッ!!あっさりとッ!!」


【まけ、るかよオォッ!!】


 止まらない想いを、涙と共に。

「あの想いはッ!!日々はッ!!」

 

【ずっと一緒に過ごしてきたんだから】


 どうしようもない現実に、叩きつけていく。

 やりきれない慟哭は、どこまでも深く。


「そんな理由でッ!!台無しになっちまうもんだったのかよォッッ――!!?」


 僕の内から吐き出された。

 咆哮はどうしても止まらず、空しく夜の中に散っていく。

 どう足掻いても陽の光は射してこない、明日が見えない。

「ロイン……」

 僕の見る世界が、崩れてしまったかのようで。

「!?」

「なんだっ!?」

 ようじゃなく。周囲の風景が【ぐにゃり】と歪む。床も、ベンチも、夜空も。他の空間と混ざり合う。

 ジン太の反応を見ると、気のせいではなく。

「これはっ、接続コネクトッ!?」

 それと似たような現象が起きている。

 訳が分からず、体を動かそうとするも。

(動かないっ!?)

 そうしている間に、周囲の景色が一変した。

 何もかもが明後日に消え、異質なる空間が出現する。

「だれだっ!?」

 変わった世界に、人影が一つ。

(ずっと僕を見ていた存在)

 こいつがそうだと、直感で分かった。


「――場面破壊シーン・ブレイクにご注意を。――滑稽なる者達よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=142239441&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ