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ルーツ~故郷を、そして自分を探して~  作者: 蟒蛇
第一章~旅の始まり~
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(6)

 ゴブリンを討伐し村に戻ると完全に日が暮れていた。村長の家に戻るとホッとした表情の村長が出迎えてくれた。ゴブリンの規模を聞き、俺が無事か心配だったそうだ。

 明日の朝、念のため巣を確認し依頼完了の運びとなった。

 今夜はもう遅いからと、村長が家に泊めてくれると言ってくれた。それも無償との事だったので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。

 翌朝、日が昇ると同時に、村長と案内の狩人、そして数人の男達と共に、ゴブリンの巣があったところへ向かった。

 討伐現場を明るい中で改めてみると、中々酷い有様だった。辺りには血だけでなく、内臓や頭の中身までが飛び散っており、更には時間が経ったおかげで臭気が更に増していた。

 吐きそうなほどの光景と臭いに、実際付いてきた男達は地面にうずくまっていた。

 このまま放置して、獣や別の魔物が寄ってきても問題なので、皆で手分けをして処分する事になった。

 俺が魔法で地面に大きな穴を開け、そこに全員でゴブリンの死骸を投げ入れていく。そしてまた俺の魔法で炎を出し、死骸を焼いていく。

 通常の炎とは違う、魔法で生み出された高温の炎はほんの少しの時間で死骸を焼き尽くし灰にした。これで本当に依頼完了である。

「これだけの数をよく1人で退治したもんじゃな。お前さんのおかげで村に被害が出ずに済んだ。改めて礼を言わしてくれ。ありがとう」

 村長は俺の手を握りながら深く頭を下げた。

 仕事をして人から感謝される。冒険者の仕事は単にお金を稼ぐ手段としか考えていなかったが、こんな風に感謝をされると素直に嬉しい気持ちになってくる。

「あんたたちに怪我がなくてよかったよ。それと今度からは定期的に山に入って、ゴブリンを狩った方がいいだろうな。ハイゴブリンも小さい内に見つけられれば、脅威でも何でもないからな」

「そうじゃな。今までは村の近くに来るまで何もせんかったが、これからは事前に芽を摘むことにする」

 最期にもう一度、皆と握手をして、俺はフィサンの町へ戻っていった。


 フィサンに着くとすぐにギルドに向かった。

 依頼の完了報告のためだ。

 ギルドの扉を開け、集まる視線を無視して、報告カウンターへ向かう。村長より完了のサインをもらった依頼書を差し出しこう告げる。

「ゴブリン討伐の依頼、完了だ」

「確かに・・・・・・ではこれで依頼達成だ。これが報酬だ」

 報告のカウンターにいたのは大きな身体をした男だった。少し歳は食っていたが、身体はよく鍛えられているのが分かった。引退した兵士や冒険者だろうか。

 彼から報酬の銀貨を受け取り、依頼板へと向かう。

 朝、あの村を出発する時に、肉や野菜をパンに挟んだ物をもらった。それを食べながら帰ってきたので、腹は充分に満たされている。

 なのでこのまま依頼を受けようと思ったのである。

 依頼板の前には、まだ朝と言うこともあり、依頼を物色している冒険者の姿が見受けられた。依頼板にも昨日よりも多くの依頼書が貼り付けられている。

 ふと目に付いたのは、護衛の依頼書だった。この町から片道2日の町を往復する間の護衛が依頼内容だった。そしてランク不問で魔法使いを募集していた。

 俺にとってちょうどいい依頼だ。他にも護衛依頼はあったが、どれもランク7以上の制限があり今の俺では受ける事ができない。

 すぐさま依頼書をはぎ取り、受付へと向かう。

「この依頼を受ける。受付を頼む」

「はい、こちらの依頼ですね。この依頼は依頼内容や報酬について、依頼主と相談し、双方合意の上で、依頼を受けて下さい。もし納得がいかず依頼の受け付けを取りやめる場合、すぐにギルドに知らせてください。

 依頼主との相談のため、昼鐘1つまでに西門の馬車乗合場に集合してください」

 依頼書には銀貨20枚が最低限支払われ、それ以上は依頼の内容によると書かれている。能力に応じて支払われる報酬が変わってくるのだろうか。

 何にせよ、これも経験である。誰かを護衛しながら旅をする際に、どんな事が必要なのか。戦士として魔法使いとして何が求められるのか。最低限、それらを学ぶ事が出来れば、最低保障の報酬でも文句はない。最初から上手くやれるとは限らないのだから。

 指定の時間にはまだ時間があったが、特にやる事もないため、ゆっくりと歩きながら、馬車の乗合場がある西門へと向かっていった。


 指定された乗合場へ来ると、冒険者らしき者達と商人らしき者が集まって話をしていた。恐らくあれが、依頼主の商人と合同で依頼を受ける冒険者達だろう。

 しかし指定の時間までまだ鐘1つ分はあるのにずいぶん早く集まっているものだ。もしかして俺が遅いだけなのだろうか。いや、依頼を受けてすぐに来たのだから遅いことはないだろう。

「ミュスカ殿であってるか? 魔法使い募集の依頼を受けてきたんだけれど」

 彼らの会話が途切れたところで、彼らに話しかける。商人、冒険者たちの目が一斉に俺に向いた。

「そうですが、君は・・・・・・?」

 商人らしきの男が答えた。丁寧な物言いだが、その表情は怪訝そうだ。俺の顔を見た後、視線は腰の刀へと注がれたのが分かった。

「俺はヴァンだ。戦士に見えるかも知れないが、魔法も得意だから安心してくれ」

 魔法使いを募集したのに剣士のようなやつが来れば、今の様な顔をされても仕方がないだろう。その証拠にまだ訝しげな表情をしている。何か魔法を使って証拠を見せようかと思ったら、思わぬところから助け船がやてきた。

「ミュスカさんよ。そいつは見た目こそ剣士だが、魔法もすげぇぜ。俺が保障するよ」

 商人と話をしていた冒険者の1人がそう言ってきた。よく鍛えられた身体と鋭い目つきの男だった。俺の力を保障してくれるのはありがたいが、この男とは会った事がない。なぜ分かるのだろうか。

「おっと、いきなりこんな事を言われても戸惑うな。お前さんだろ、昨日ギルドでダニ野郎をボコボコにしたのわ」

 俺が不思議そうな顔をしていたからだろう。男はそう言って俺の力を知っている理由を話した。どうやら昨日のギルドでのひと悶着はちょっとした話題になっているようだ。

「ダニ野郎が誰だかは知らないけど、確かにギルドでケンカをしたのは俺だ」

「あの図体だけの男がダニ野郎さ。それにしても凄かったぜ。その細い身体で野郎を簡単に投げ飛ばして、その後、めちゃくちゃ沢山の氷の矢を作りだしてたもんな。野郎の真っ青な顔、見物だったぜ!」

 そう俺に笑いかけた後、ミュスカにその時の詳しい様子を伝え、俺の魔法使いとしての力をしっかりと語ってくれた。そうして初めて彼はは納得した表情を見せた。

「なるほど。ラドワさんがそう仰るなら本当なのでしょう。ヴァンさんでしたね。疑ってすみませんでした」

「気にしなくていい。ところで依頼の詳細な内容は、相談して決めるとギルドで聞いたんだけど……」

 人間の中では戦士でありながら魔法使いという者はかなり珍しいようなので、この格好では仕方がない。それよりも依頼の内容についてである。

「ありがとうございます。依頼の内容ですが、ヴァンさんへの依頼は、道中の水の確保です。護衛に関してはラドワさんのパーティーにお願いしていますので、貴方には魔法で水を出していただきたいのです」

 馬車での行商ではかなり大量の水がいるらしい。その水の代わりに商品を積むことが出来れば商売も効率がよくなるため、俺に水を出して欲しいという事だった。

「水くらいいくらでも出せるけど、どれくらいの量が必要なんだ?」

 湖と同じ量の水、などと言った無茶な事を言われない限り大丈夫だろうが、念のための確認だ。

「そうですね。馬車5台で行商を行いますので、馬5頭分、そして我々と御者の分を合わせた11人分が必要です。具体的にはあの樽、7つ分ほどでしょうか」

 そう言ってミュスカが指さしたのは、厩舎で馬が水を飲んでいる樽だった。だいたい馬の頭と同じくらいの大きさの、一抱えほどの樽だ。あれ1つで、10人の1日分の水は入りそうだ。

 話を聞けば、馬は1日でこの樽1杯の水を飲むらしい。なので馬の分で樽5つ分。そして商人1人、俺を含めた冒険者5人、御者5人の11人分の水が必要で、恐らく樽1つ分で足りるようだが、念のため2つ分ということらしい。

「それだけなら全く問題ない。ちなみに依頼料はどうなるんだ?」

 俺としては余裕のある量だったが、ミュスカにとっては意外だったのか驚いた顔をしている。ラドワに目を向けると驚きはしていないが、何だか感心したような表情だ。

「……では報酬は最低保証、銀貨20枚の倍の、40枚でいかがでしょう」

 しかし驚いた表情はすぐに引っ込め、一瞬の思案のあと報酬を提示した。十分な報酬に思えたので、それでいいと言おうとしたが、どうもラドワがニヤニヤしているのが気になった。

「ラドワさん、だったな。何か言いたい事でもあるのか?」

「さんは付けなくていいさ。いやな、お前はなかなか優秀な魔法使いだからな。もっと依頼料を吊り上げてもいいもんだが、あっさり納得してるな、と思ってよ」

 依頼料の吊り上げか。報酬の相場が分からないから正直、なんとも言えない。

 そんな事を考えていると、ミュスカがラドワを睨みつけていた。依頼主としては、依頼料の吊り上げの提案は面白くないだろう。

「正直、相場が分からないから、どう吊り上げていいか分からない。ちなみにあんたならどうするんだ?」

 成り立ての俺と違い、ラドワは経験のある冒険者だろう。先達の話は聞いておいて損はない。

「そんなに難しいこっちゃねぇよ。例えばだな……「それだけの水は俺の魔力だとギリギリだ。もしもの時に対応が出来ないかも知れないから、報酬をもうちょっと何とか出来ないか?」 とでも聞けば、後は依頼主の方で勝手に考えてくれるさ」

 そうだよな? とラドワは険しい表情のミュスカに視線を向ける。

「……初めにそう言われれば、水の量を減らすか報酬の増額で対応するでしょうね」

 なるほど。報酬は同じだが仕事の量が減るか、仕事の量が同じで報酬が増える、ということか。確かに俺たち冒険者には損がないように思う。

「まっ、やりすぎると嫌われるから程々にな。それに今回は最初から余裕って言ってるから、もう吊り上げようはねぇな」

 確かにその通りである。銀貨40枚でも十分だと思えたから、今さら無理やり釣り上げようとは思わない。

「それはそうだ。ではミュスカ殿、1日に樽8つ分の水の供給依頼、銀貨40枚で受けるよ」

 そういうとミュスカはホッとしたような表情を見せた。それからお互い合意のサインをし、握手をして依頼の開始となった。



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