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ルーツ~故郷を、そして自分を探して~  作者: 蟒蛇
第一章~旅の始まり~
4/14

(4)

 人間の世界の食べ物は、とくかく旨かった。

 鳥の衣揚げを食べた後、気になるものを手当たり次第に食べ、気がつ付けば昼時の最後の鐘、昼鐘5つが鳴り終わったところだった。

 腹は十分に満たされたが、ずいぶんと路銀が軽くなっていた。明日、明後日でなくなる事はないが、無計画に使いすぎた。食べ物の旨さに半分我を忘れてしまっていた。

 しかし過ぎた事を気にしても仕方がないので、気を取り直して町中の探検を再開する事にした。

 ギルドのある東側は、冒険者たちが多く利用するためか、彼らの御用達のような店が多く存在していた。

 武具を扱う店、薬を扱う店、旅に必要なものを扱う店、食べ物を扱う店などだ。今日は、俺が食欲に支配された通りの店しか利用していないが、今後、冒険者として利用するだろうから、場所だけはしっかりと覚えておいた。

 次に南側、西側、北側と見ていった。

 南側は居住地の様でこの町の住人達が住んでいるようだった。また地元の人間が利用する食料品を扱う店も見受けられた。

 町の西側は、他の町へ向かう一番大きな街道に続く区画で、馬車の乗合場や宿が多く見受けられた。他の大きな町からやってくる者はこの西側から来るようで、彼らのために宿などが多く作られているようだ。この町に立ち寄った冒険者の多くもこの西側で宿を取っているようである。

 そして最後の北側は、町の運営にかかわる施設が立ち並んでいた。町全体を取り仕切る者、町の警護に携わる者、商売の取引を取り仕切る者、そんな者たちのための施設が集まっているようだ。俺には縁のない場所だろうと思い、ここの探検は早々に切り上げた。

 そうこうしているうちに宵鐘3つが鳴り響き、日も傾き段々と暗くなってきていた。そろそろ今日の宿を決めようと、町の西側へ向かっていった。


 宿はすぐに見つける事が出来た。宿はたくさんあり、その善し悪しは分からなかったので、目に着いた所に入った。泊まれるかどうかを尋ねると、部屋に空きがあるということでそこに泊めてもらうことにした。

 宿泊料金は、夜と朝の食事が付いて銀貨1枚だった。俺の感覚からすれば高いと思ったが、昼に食べた物の料金から考えれば、馬鹿みたいに高いのではないのかも知れない。

 特に文句もなかったので泊まらせてもらうことにした。宿泊日数を聞かれたが、この町にどれだけ滞在するかまだ決まっていないので、朝の食事の時にどうするかを伝え、続けて泊まるならその時に料金を支払うことで話がついた。

 身体を洗うためのお湯と手ぬぐいを有料で提供してくれると受付の者から言われたが、それは魔法で代用できるため断った。

 案内された部屋は1人で過ごすには十分な広さだった。故郷では自分1人の部屋がなかったため、1人だけで寝起きするのかと思うと少し新鮮だった。

 荷物を下ろし、魔法で出したお湯で布を湿らせ身体を拭いていく。今日は特に汗をかいたわけではないが、少しの間、海風に当たっていたので少しべたついている。

 気分がさっぱりした所で、夕食を摂りに食堂へと向かった。

 昼の通りで食べたものには及ばないが、十分に満足できる味の料理が提供された。量を考えれば昼の物より安いのではないだろうか。

 腹いっぱいになるまで、料理を堪能し、満たされた気持ちでその日は眠りに付いた。


 次の日、夜よりは軽い食事を取り、ひとまず宿は引き払い、宿を出た。他にも宿はたくさんあるので、戻った時に部屋がいっぱいなら、別な宿に行けばいいだろう。

 昼鐘3つまではまだ時間があったが、昨日に引き続き町を探検しながら時間をつぶすことにした。

 そして太陽が頂点に差し掛かったころ、ギルドへと向かった。

 ギルドの扉を開けると、ドアベルの音と共にまたしても視線が集まった。そしてすぐに視線は外された。

 昨日もそうだったが、これは彼らのクセなのだろうか。

 それはさておき、再び登録カウンターへと向かう。昨日と同じ女性がそこに控えていた。

「昨日登録したヴァンだ。登録証を取りに来た」

「はい、こちらがヴァンさんの登録証です」

 彼女はすぐにカウンターの下から銀色のプレートを取り出した。

 プレートには昨日書いた内容が刻まれていた。それに加えて俺の冒険者ランクである「10」の文字も刻まれていた。

「これがヴァンさんが冒険者である証ですので、なくさないように、また常に身につけておいてください。他人の手に渡ると悪用される可能性もありますので」

 そう言ってから彼女は俺に登録証を手渡した。プレートには紐が通してあり首から下げられるようになっている。

「それでは今日から依頼を受けたり、ギルドの施設を利用することができます。各カウンターの役割は先日ご説明した通りです。

 依頼を受ける場合は、あちらのボードに貼り付けてある依頼書を受付にお持ちください。また依頼にはランク制限があるものもあり・・・・・・」

 彼女が指さしたのはギルドの奥の壁で、そこにはまばらに紙の貼られた掲示板があった。あれが依頼書なのだろう。

 依頼書にはランク制限があり、自分のランクの1つ上の依頼まで受けることができるそうだ。つまり俺はランク10と9の依頼であれば受けられるということだ。

 またランクに関係なく受けられる常設依頼というものもあるようだ。常に必要とされている薬草や鉱石の採集依頼や、町の周辺に生息している魔物の討伐依頼などだ。これらの依頼は採集した薬草、鉱石や、討伐した魔物の証明となる部位を持ち込めば、依頼達成となる。

 一通り依頼についての話を聞いた後、とにかく依頼を受けようと、依頼板へ歩いて行った。


 依頼板には常設依頼以外には低いランクの依頼が貼られているだけだった。割のいい依頼は張り出されたそばから剥がされていくらしい。

 どの依頼を受けようかと、依頼書を順に眺めていく。ランク10の依頼は常設の薬草採取と大して変わらないものだ。ランク9に関しても同様で、弱い魔物の討伐依頼だった。

 薬草の採取は魔大陸でも行っていたが、名称が違うのか、生えている薬草が違うのか、知っている名前の薬草がなかった。討伐依頼は、どこでも魔物の名前は同じなのか、見知った名前があり、難なくこなせそうだった。

 なのでランク9の「ゴブリン討伐」の依頼を受ける事にした。

 依頼書をはぎ取り、受付のカウンターへと向かった。

 こちらのカウンターも控えているのは女性だった。登録の人と雰囲気は異なるが、整った顔だちをしている。

「この依頼を受けたいんだけど」

 そう言って彼女に依頼書を見せる。

「こちらの依頼ですね。

 依頼書の通り、町の外の村の近くにゴブリンが生息していることが判明しましたので、その討伐が依頼となります。成功報酬は銀貨3枚ですが、詳しい内容は村の村長より伺ってください。

 以上、問題なければ依頼を受け付けます。よろしいですか?」

「ああ、問題ない」

 ゴブリンを倒すだけの簡単な依頼だ。それだけで銀貨3枚がもらえるのだから、割のいい仕事だろう。この町での生活を十分に賄うとはいえないが、全く問題ないので、頷き依頼を受ける。

 その後、依頼者のいる村の場所だけ教えてもらった。歩いて行っても、鐘が3回鳴るくらいの時間で行けるようだ。急いで行けば、今日中に依頼を終えて、町に帰ってこられそうだ。

 もし予想以上にゴブリンの数が多く討伐に時間がかかっても、村で泊めてもらえばいい。路銀にもまだ余裕はあるから、一晩泊めてもらうだけなら、何とかなるだろう。

 そうなれば、腹ごしらえだけして、すぐに出発するとしよう。そう思ったところで声をかけられた。

「よう、兄ちゃん。見ない顔だけど新人かい?」

 振り向くとそこにいたのは大きな身体をした髭面の大男だった。俺の身長も決して低くはないが、それよりも頭1つ分高く、身体は2回り以上の大きさだった。しかしその大きな身体は大部分が無駄な肉で、威圧感はたっぷりだが、その実力は大したことはないだろう。

 そんな男が、ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべながら、俺を見ていた。

「今、登録証をもらったばかりだから新人で間違いないけど、俺に何の用だ?」

 今日が冒険者になった初日なのだから、間違いなく俺は新人だろう。対して目の前の男は、ギルドの中に馴染んでいるように見えるから、ある程度経験のある冒険者なのだろう。そんな男が新人の俺に何の用があるのだろうか。

「別にどうってことはねぇがな、経験豊富な先達としていろいろと助けてやろうと思ってよ」

 手助けを、などと言っているが、この男が俺の助けになるとは全く思わなかった。どう考えても俺よりかなり弱いし、一緒に行動すれば足手まといにしかならないだろう。

 しかし親切心で俺に声をかけてくれたのだろう。俺は身長はあるが身体の線は細い方だから、一見すれば弱く見えても不思議ではない。となれば無碍に扱うもの失礼というものだろう。

「冒険者になったばかりなら、この辺りの地理も知らねぇだろうし、戦いも1人じゃ不安だろ?」

 と、俺がそんなことを考えている間にも、男はいろいろと俺の助けになるような事を羅列している。確かに地理は詳しくないがそんなものは人に聞けばいいし、この男の戦いへの助力など全くもって不要である。

「あ~、せっかくのところ悪いけど、あんたの助けは必要ないよ」

 他にも何かいろいろと男は自分の強さを語っていたが、助けを受ける気もないのに長々と喋らせるのも申し訳ない。そういうわけで男の話を遮って断りを入れた。

「なに……? いらないだと?」

 男は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに不快感の様なものをその顔に浮かべた。

「ああ。新人の俺を心配してくれるのはありがたいけど、あんたの護衛が必要な程度の危険なら、俺1人で十分だしな」

 そう俺が言った瞬間にギルド内がしんと静まり返った。何か変なことを言ったのだろうか。

「それは、俺がてめぇより弱ぇって言ってんのか?」

 男の顔が怒りでいっぱいになっていた。どうして怒ってしまったのだろうか。

「待て待て、何をそんなに怒っているんだ? 別にあんたが俺より弱くても不思議じゃないだろ」

 だって俺は、魔族を相手にずっと鍛えてきたんだから。

 そう言いかけた言葉を慌てて飲み込んだ。魔族として暮らしてきた事は絶対に口にするなと、父から言明を受けていた。大混乱を招き、非常に面倒なことになるからと。

 しかしそのおかげで、男は侮辱されたと思い、顔が真っ赤になっていた。

「てめぇ……新人の分際で俺を馬鹿にしたこと、後悔させてやる!」

 男が勢いよく腰の剣を引き抜いた。周りから、ざわめきと共に制止の声がかかる。しかし誰も男を止めるために動こうとはしなかった。

 男は俺が制止の言葉を発する暇も与えず切り込んできた。思った通り大した動きではなかったが、適当にあしらった結果、後に響いても面倒くさい。なので徹底的に実力の差を見せつけてやることにした。

 ケンカは最初が肝心なのだ。

 男よりも鋭い踏み込みで相手の間合いの更に内側に入り込み、手首をつかんで思いっきり引っ張る。

 それで体勢を崩した男の足を思い切り蹴飛ばす。

 軸足の支えを失った大きな身体は、切り込んだ勢いそのままに、盛大に転んでギルドの壁に激突した。

冷たき清水よフロイデュ・エスト敵を穿つスタング・数多の杭となれイナブラレス・パイル……」

 その隙に魔法を使い、無数の氷を生みだす。ただ氷と言っても、腕くらいの長さがある先の尖った氷だ。氷の杭と言ってもいいだろう。

 それを10や20じゃきかないくらい生みだし、男を取り囲むようにして、空中に浮かべていく。上下左右と前面から迫りくる氷の杭を防ぐとなると、相当な実力が必要だろう。この男の実力なら、針山になるのは確実だ。

 それが終わった辺りで、ちょうど男が起き上がってきた。そしてそのまま俺に向かって突っ込んで来ようとしたので、俺は慌てて声を上げた。

「ちょっと待て! 動くな!」

 男の耳に俺の声が無事届いたようで、男は立ち止まった後、怪訝そうな顔をした、直後目を見開いた。ようやく自分の状況に気付いたようだ。

「これ以上続けるなら、こいつらをあんたに向けて一斉に打ち込むだけだ。俺より強いなら簡単に防げるだろうけど、どうする?」

 殺気を込めて睨んでやると、男は一歩後ずさった。

「て、てめぇ……魔法なんて卑怯だぞ!」

 負けを認めるのが悔しいのか、負け惜しみを叫び出した。一体何が卑怯だと言うのだろうか。

「何が卑怯なんだ? 武器を持った奴は魔法を使ってはいけない決まりでもあるのか? それとも魔法使いは今から魔法を使うことを宣言しないといけない決まりでもあるのか?

 まぁ、卑怯でもなんでもいいけど、負けを認めるのか、串刺しになるのか、早く選んでくれ」

 目の前の男は口先だけの男のような気がしてきたので、とにかく早くこの場を立ち去りたかった。こいつの話に付き合っている暇はないのだ。氷の杭を男に近づけて選択を迫った。

「ちっ……俺の、負けだ」

 男は舌打ちをした後、男は苦々しげにそう吐きだした。その言葉を聞いて、俺は氷の杭を腕を払って消し去った。

「あんたが切りかかってきたことは水に流してやる。だからもう俺には関わるな」

 そう言い捨てて、俺は足早にギルドを後にした。鈍いドアベルの音が、静まり返ったギルドに響き渡っていた。

 

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