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ルーツ~故郷を、そして自分を探して~  作者: 蟒蛇
第一章~旅の始まり~
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(11)

 ある日、けたたましい警鐘の音で目を覚ました。

 重い瞼を無理やり上げて外を見れば、空はまだ暗い。音は西門の方角から聞こえてくる。

 何が起こっているのか分からないが、すぐに装備を身につける。町に何かが迫っているとしたら戦いが必要な場面も出てくるだろう。

 警鐘はまだ鳴り続いている。

 自分の目で状況を確かめておいた方がいいだろう。

 そう思って部屋を出ようとした時に、外から声が聞こえてきた。怒鳴るような大声で、誰かに向けて呼びかけている。

「冒険者は、ギルドに集まってくれ! すぐにだ!」

 よく聞けば、冒険者に向けた召集の呼びかけだ。

 俺はすぐに部屋を飛び出した。外に出てギルドへ向けて走り出す。

 前から後ろから、冒険者らしき者達が、宿から飛び出してくる。呼びかけに応じギルドへ向かっているのだろう。

 すぐにギルドに到着したが、予想外の光景が飛び込んできた。

 ギルドの壁に大きな穴が開き、重く頑丈な扉は半分が焼け落ちていた。

 ギルドが襲撃されたのだろう。

「怪我人がいる! 治癒魔法を使えるものはいるか!」

「盗賊の襲撃だ! 討伐隊を組む! こっちに集まってくれ!」

 ギルド前はギルド職員や冒険者達の怒号が飛び交っていた。ランクの高い冒険者達が指揮を取り、ギルドに集まった冒険者達をまとめていた。ギルド襲撃の際に、ギルド職員に被害が及んだため、彼らがまとめ役をしているようだ。

 俺は治癒の魔法が使えない。討伐隊が集まる所へ向かう。

 高ランクの冒険者たちが状況の説明と指示と飛ばしている。

「ランク7以上の奴らでパーティーを組め! 組んだら捜索の指示を出すから、大広場に集まれ!」

「ランク8以下は町と町周辺の捜索だ! 詳しい指示は追って出す! まずはランクに分かれて集まれ!」

「ランク8はここに集まれ!」

「9と10はこっちだ!」

 彼らの指示を聞き、集まった冒険者たちがまとまって行動し始めた。

 彼らの話をまとめると、盗賊はギルドを襲撃した後、町の人間を攫って逃げて行った様だ。そして、ランク7以上の冒険者でパーティーを組み、町を襲撃した盗賊達を追跡、討伐する。ランク8以下の者達は、町の被害を確認し誰が攫われたのかを特定するため、町の捜索をする。という事だ。

 俺はランク9、10の者達が集まる場所へ向かった。

 盗賊討伐に向かい戦う自信はあるが、討伐隊に参加する許可が出ないだろう。それにパーティーを組む事が条件だ。誰も新人と組もうとは思わないだろう。

 俺達は町で騒ぎが起こっている所へ向かい、人が攫われたのかどうかを確認する作業が与えられた。人の確認が第一で、怪我の有無や建物の損壊の確認も可能ならするように、との事だった。

 ある程度のまとまり毎に捜索する地区を割り当てられ、俺はギルドのある東側の、ギルド付近を調べる事になった。

 俺はまずフランの家へ向かって走り出した。

 人攫いの盗賊が出たと聞いて、彼女の事が真っ先に頭に浮かんだ。盗賊に親を殺され攫われかけたのだ。盗賊が町に出た事を知っているかは分からないが、夜中に鳴り響く警鐘には不安を覚えているだろう。

 少しでも早く彼女を安心させてやりたかった。

 彼女の家は食堂や露店が立ち並ぶ通りの一角で、ギルドのすぐ近くだ。

 通りは酷い有様だった。

 たいていの店のドアが壊され、中が荒らされているようだsった。

 通りには住人達が出てきており、固まって何か話し合っている。

「ギルドの依頼で町の被害を調べている! 攫われた奴や怪我をした奴はいるか!」

 その集団に向かって大声で叫ぶ。向こうは少し困惑しているが、冒険者証を見せながら問いかける。

 すると勢いに押されてか、戸惑いながらも俺の質問に答えてくれた。

 怪我人はなし。ドアの損壊と食料を盗まれたのが主な被害だった。逃げるための食糧の確保のためか、お金はそれほど多く盗まれてはいなかった。

 1つの集団から話を聞き終えると、通りの奥へと進んでいった。

 すぐにフランの家が見えてきた。その近くに人が集まっている。

 また集団に向かって叫びかけた。こちらでも被害は食糧で、怪我人はいないという事だった。しかしフランの姿が見えない。

「誰かこの家の女の子を知らないか?」

 フランの家もドアが壊されているが、中はそれほど荒らされているようには見えなかった。

 俺の質問には誰も答えられなかった。分からない、見ていない、としか言葉が返ってこない。

 俺は更に通りの奥へ向かった。

 フランは、既に家を引き払い、新しい仕事場で寝泊まりしているのかも知れない。ただ俺はその店の場所を知らなかった。余り彼女に関わりすぎないようにと、聞かなかったのだ。

 そんな選択をした事に後悔を覚えるが、今は彼女の安否を確認するのが先だ。

 人の塊を見つけては、被害の状況を聞き出し、フランの事を知っているかの確認も加えた。が、誰もフランの安否を知っている者はいなかった。

「あんた、フランちゃんの所に顔出してた子じゃないかい」

 そんな時、1人の女性から声をかけられた。

「フランちゃん、大丈夫そうだったかい? こんな夜に1人じゃ心細いだろうに……」

 フランを新しく雇った店の主人の妻だという彼女の言葉に、背筋が冷たくなるのを感じた。

「あんたのところに来てないのか……?」

「えっ……まだ部屋の準備が出来てないから、あの子はまだ自分の家に…」

 彼女の言葉を最後まで聞く事無く、走り出した。それは俺にとって最悪の事態だった。


 フランがいない。

 それは盗賊が彼女を攫った事を意味しているに違いない。

 彼女は再び盗賊の恐怖に震える事になってしまった。

 ギリギリと奥歯の擦れる音が、やけに大きく聞こえる。

 怒りが湧いてきた。

 盗賊に。そしてふがいない俺自身に。

 何が、何かあれば俺が助けてやる、だ。

 肝心な時に何も出来てないじゃないか。

 怒りと共に湧きだす魔力を身体に纏わせる。魔力による身体強化を極限まで高め、町を走り抜ける。

 すれ違う人が驚くが気にしない。

 西門が見えてきた。だが人だかりが邪魔だ。が、そのまま突き進む。

 誰かが俺に声をかけようとしているが、気にせず脚に力を込める。

 人垣を飛び越え、門の外へ走り出した。

 何か叫び声が聞こえるが、無視して街道に沿って走っていく。

 とにかくまずは街道沿いを行く。

 盗賊が馬車を使ったにしろ、馬を使ったにしろ、距離を稼ぐには街道か踏みならされた所を走るはずだ。朽木や大きな石のせいで、馬車や馬が転倒しては意味がない。

 とにかく走る。

 本気を出せば、馬と並走出来るくらいに速度を出せる。

 途中、先に出発した討伐隊や町の警備隊の馬車を追い越した。

 ギルド周辺では警備隊を見なかったが、別の指揮者の元で行動していたのだろう。

 今回の盗賊の襲撃は、町中でギルドを襲撃し、人を攫って行ったもので、町とギルドにケンカを売ったも同然だ。双方の威信にかけて、盗賊を捕らえ罰するために躍起になっているのだろう。

 その後も何台かの馬車を追い越し、そこから馬車とは1台も会わなくなった。先頭の馬車を追い越したのだろう。

 恐らくこの先には、馬に乗った冒険者達がいるはずだ。出会えれば何か情報が欲しい所だ。

 それからしばらく1人で走り続け、空の遠くが薄らと白み始めた頃、街道の分かれ道に着いた。

 立ち止まり、考える。

 片方は、1度ゴブリン退治で訪れた村へ続く道だ。道は獣道に近く、特に馬車では進みづらい道だ。その代わり、隠れるのに適した森が近くにある。

 もう片方は、更に遠くの町へ続く道だ。通った事はないが、踏みならされた道が続く、走りやすい道らしい。その代わりに見通しのいい平野が続き、隠れる事はできない。

 フィサンからはある程度、距離を稼ぐ事は出来ている。その上で、自分達が追われていると知りつつ、見通しの良い場所を走り続けるだろうか。

 速度を落としても、どこかに隠れながら逃げ、あわよくば不意打ちで返り討ちにしてやろう。そう考えるのではないだろうか。

 1度深く息を吸い込み、吐き出し、村へ続く道を走り出した。

 盗賊は人質を抱えながらの逃走だ。その速度は確実に遅くなる。ならばただ単に逃げ続けるだけでは追いつかれる事を理解しているだろう。

 だから可能性の高い方に賭けて、全力で走った。

 絶対に助けてやる!

 自分に言い聞かせるように心の中で叫び、大地を踏みしめる脚により一層力を込めた。


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