閑話 宇宙船の避難訓練。
パーティに復帰することになったエリザを連れて、船に乗り込むと。
「「お帰り、サーチ」」
っ!?
「あ、あんた達、何でそんな格好してるの!?」
「何や、けったいな格好してんねんな」
ヘルメットを被って非常袋を背負うエイミア。で、何故かモンペを履いて防災頭巾を被るリル。若干目が死んでいるように思える。
『お帰りなさい、サーチ』
「あ、ああ、ただいま……い、一体何ごとなの?」
『サーチ、今日は何の日かわかりますか?』
「え? 今日?」
「今日は確か……防災の日やないか?」
防災の日……そういえばそうだっけ。
『そうです。ニホンという国で起きた大地震を契機に制定された、とても重要な日です』
確か関東大震災だったっけ。
『ですので防災意識を啓発する為に、船内で避難訓練を行う事に決定しました』
私とエリザが命からがら逃げ回ってる間に、何でこういう話になってるわけ!?
『何か問題でも?』
「べ、別に問題は……」
すると、意外な人物から賛成の意見が。
「ええんやないか?」
「え?」
「ウチも年に一回は避難訓練やっとったで? リファリス様の館は広いさかい、何か災害が起きた時の手順は重要やからな」
「……そんなもんかしらね?」
「そうや。火災や地震はいつ起きるかわからへんしな」
地震?
「火星って地震ないんじゃなかったっけ?」
「何言うてんねん、火山性の地震はあるやないか」
あ、そーね。オリンポス山みたいな超巨大火山があったわね、火星には。
ん? 火星の火山って、ほぼ死火山じゃなかったっけ?
「リルとエイミアは……格好から賛成なのね」
「うう……やらないとトイレの機能を止めるって……」
「うう……私の寝室をプールにするって……」
「ニーナさん!?」
『二人があまりに渋るので』
…………まあ、必要なことではあるし。
「……わかったわ、やりましょう。でもやるんなら、徹底的にやるわよ」
「ウチも協力するで……そういや挨拶が遅れたけど、パーティに復帰させてもらうエリザや。よろしゅう頼んまっせ」
「あ、はい。お久し振りですね、エリザ」
「またよろしく頼むぜ」
「よーし、まずは……ハザードマップかな」
「「「……はい?」」」
何よ。めっちゃ重要よ。
『そう……ですね。火災が起きやすい場所の確認や、いざという時の避難場所を決めておくのも、とても重要な事です。ハザードマップを作成すると同時に危険な場所を認識しておくべきですね』
「ああ、成程。納得やわ。流石はサーチんやな」
「そ、そう言われると、確かに重要です」
「まずは自分達がいる場所をよく知るべき、だな」
ニーナさんにプリントアウトしてもらった船内図に、危険な場所を書き込んでいく。
「まずはキッチンね。火を使う場所の大本命」
「武器庫も危険ですね。エネルギーパックや火薬が満載です」
「サイキック推進装置もやな。こんなん暴走したら船ごと木っ端微塵や」
「ふ、風呂! 足がつかない深さは危険ニャ!」
「「「足は余裕でつくから」」」
的外れな危険箇所を言うリルの意見だけが却下され、次第に地図ができあがっていく。
「こう見ていくと……避難する場所は限られてくるわね」
「まずはこの……倉庫やな?」
「一応第一倉庫ってなってますけど、今は空き部屋です」
「ならこの部屋に、非常用の食料や生活必需品を備蓄しておくのも手やな」
『早速手配しておきます』
「……でもさ、もしもだけど……ニーナさんには悪いんだけどさ、この船が航行不能になったときは……脱出ポッドだよな」
「……まあ……そうなるわね」
「だったら脱出ポッドに近い場所を、避難場所に指定した方がよくないか?」
お、リルにしてはマトモな意見。
「ていうかニーナさん、思いきって第一倉庫にも脱出ポッドを設置できない?」
『できますよ。近いうちに設置しておきます』
よし、これでオーケー。あとは……。
「……実際に火を消す訓練とか?」
「「「……はい?」」」
『……サーチ、大概の火災は船の消火設備でカバーできますが?』
「いやさ、万が一だけどさ、電気系統のトラブルが起きた場合……船の設備自体が機能停止しちゃう可能性もあるじゃん?」
「………………あり得るん?」
『……まあ……一応は』
「そのときのために、私達自身で火を消すことも必要だと思うのよ」
「そんなん、攻撃魔術士に水系使ってもらえば一発やん」
「はーい、この中で魔術を使える人は?」
「私は≪蓄電池≫のデメリットで魔術は使えません」
「獣人の私には使えねえな」
「同じく。ウチも無理や」
「獣人の血が薄いから魔術は使えたけど、≪偽物≫オンリー」
はい、水系魔術皆無で詰んだ。
「……訓練しましょう」
「訓練しよか」
「訓練しないとダメだな」
全会一致で了承されました。
ニーナさんが訓練場を消火訓練に使えるように整えてくれた。
「さすがにバケツリレーまではしないから、消火器を使っての消火かな」
『消火器でしたら使い捨てのモノがありますが』
「あ、それでいいや」
スプレー式の使いきりタイプ。昔の消火器は流石にないか。
『それでは火を起こします』
ゴオオオッ!
えええ!? 訓練火災にしては、火がデカくね!?
「まずは私ですね……えい!」
しゅーっ
ゴオオオッ!
しゅーっ
ゴオオオッ!
「ニーナさん、火の勢い強すぎ! 消火スプレーじゃおっつかないよ!」
『消火スプレーでは対処できない場合の訓練です』
ムチャ言うな!
「うぅ〜……なら!」
エイミアの角がニョキッと伸びて……って、まさか!
「≪鬼殺≫!!」
どがぁぁぁぁぁん!!
ぼふっ!
「わ、技の爆風で消したのね。なんてムチャな……」
『はい、お疲れ様でした。次は……』
こうして順番に火を消していったんだけど、全員エイミアのやったことと同じだった。
「≪獣化≫からの≪爪拳≫!」
「三盾流、独楽の舞・直落!」
衝撃波を伴う必殺技を持ってるヤツはいいわね。私は秘剣≪竹蜻蛉≫もおしおキックも対人用だから、衝撃波は難しい。
「……せめて≪偽物≫が使えたら、大砲作って吹っ飛ばすんだけど……」
ていうか、必殺技じゃなくてもいいわよね。
『最後はサーチです』
ゴオオオッ!
再び燃え盛る炎。私は消火スプレーの入った段ボールに向かう。
「何や、サーチんはスプレー使うんか?」
「サーチ、それだとムリだぞ」
「段ボールを持って……? 何をするんですか?」
消火スプレーには「火気厳禁」と書いてある。よし、いけるな。
「せーの……ふんっ!」
ドサンッ! ガラガラガラッ
「「「は?」」」
高熱に曝されたスプレー缶は、やがて膨張し……。
「みんなー、伏せて」
「「「う、うわあああああっ!」」」
ボォン! ズボボボボボボボボボボボォン!
「……はい、消えたわよ」
「「「無茶苦茶な事するなぁぁぁぁ!!」」」
……あとでニーナさんにメチャクチャ叱られました。ごめんなさい。
スプレー缶を火に放り込んではいけません。




