第十七話 ていうか、究極の選択?
リル達は船に乗り込んで先に宇宙に出て、私はエリザの案内でリファリスの元に向かうことにした。あとからリファリスの館の庭で合流する予定。
「大丈夫、エリザ? ちょっと本気でやり過ぎたかしら」
「やり過ぎも何も、マシンガンをブッ放してる時点でやり過ぎの範疇越えとるやん!」
確かに。結構当たってたよね。
「ていうか、あれだけ弾が当たってたのに、ダメージらしいダメージがないってどういうこと?」
「ウチは防御特化やからな、多少の攻撃ではビクともせんで」
多少の攻撃? マシンガンが? 普通に死ねるわよ、あれ。
「そうやけどサーチん、ホンマに任せて大丈夫なん?」
「逆に聞くけど、リファリスと私が決裂して、あんたに『サーチを倒せ』って命令してきたらどうするのよ」
「え………………」
…………まさか、その可能性を考えてなかった?
「そ、それはやなあ……その時は……」
結局リファリスがいる部屋の前に着いても、エリザは答えることはできなかった。残酷だけど聞かないわけにはいかなかった。ヘタしたら私はまた、仲間に刃を向けなければならなくなるのだから。
コンコン
「リファリス様、サーチをお連れしました」
『入って』
ガチャ ギィィ……バン!
え……うわっぷ!?
「あああ! さーちゃん無事だったのねぇぇ!」
く、苦し……!
「リファ姉はね、さーちゃんの事をとーっても心配してたんだからね!」
「むぐ! むぐぐぐっ!」
「さーちゃんに何かあったらどうしようって、夜も眠れなかったんだから!」
「いやいや、昼前までグッスリでしたよ」
「うぐっ! で、でも心配で食事もあまり進まず……」
「がっつりお代わりまでされてましたよ?」
「うぐぐっ! で、でも心配のあまり、今までで最高の体重減に」
「ただ単にダイエットが上手くいっただけですよね」
「エリザ! あんたはあたしに諫言する事を許可してるけど、時と場合を考えなさい!」
「いえいえ、時と場合を考えた結果なのですが。それと」
「何よ、まだ何かあるの?」
「いえ、リファリス様の胸の谷間にあるサーチ様の顔色が、段々と紫色に変わってきている、という報告でございます」
「へ!? さ、さーちゃん! さーちゃん!?」
い、息が……がくっ。
「本当にごめんね〜。さーちゃんがあまりにも心配だったから、つい」
「つい、で窒息死されられたらたまんないわよっ!」
黄色いお花畑が見えたっつーの!
「で、さーちゃん。どういう経緯で指命手配されたわけ? もしよければ、あたしの権力で解除してあげてもいいよ?」
「あー……うん……」
「……? どうしたの。何か歯切れが悪いなぁ」
「そ、それがね……」
「何よ、ハッキリ言いなさい。リファ姉が信用できないかな?」
「う、うん……リファリス、どんな内容であっても冷静でいられる?」
「な、何なのよ、思わせ振りに。どんな内容だろうがきちんと受け止めるわよ。言うんだったら言いなさい」
「…………わかったわ。今回の一件なんだけど……裏で糸を引いてるのは……院長先生なのよ」
「………………は?」
「……というわけ」
「…………」
リファリスの顔色が悪い。そりゃそうか。
「事実……なのよね?」
「事実……よ。院長先生のせいで……エイミアとリル以外は敵に回ったわ。仲間同士で争わされてるわけ」
「そ、それってただ院長先生と陛下との間の争いが飛び火しただけじゃん!」
「まあ……そうなるわね」
「ただ巻き込まれただけのあんたが……何でそんな目に会わされてるのよ!」
「それは……マーシャンは仲間だし」
「と、友達だからって……あんたは院長先生よりも陛下を選ぶっての!?」
「あのね。私はマーシャンだから、院長先生だからって理由で選んだわけじゃないの。マーシャンに協力してたら院長先生に勝手に敵認定されただけよ」
「だったら院長先生と話して誤解を解けばいいでしょ!」
「誤解を解くって、どうやって? 院長先生の誤解を解くって、つまりはマーシャンを裏切れってこと? 仲間を見捨てろってこと?」
「院長先生より仲間の方が大事なのかよ!」
「そんなの……比べられるわけがないじゃない! リファリスだってエリザ達と院長先生のどっちかって言われたら、迷うでしょうが!」
「悪いけど院長先生を選ぶ」
「………………え?」
「エリザ達には既に言ってあるよ。院長先生やさーちゃんの身に危険が及んだ場合、あなた達を犠牲にするかもしれない……って」
「な、何を言ってんのよ? そんなの比べられるわけが……」
「で、今回は院長先生かさーちゃんのどっちを選ぶかって選択なのよ。結構悩んだけど、あたしとしては何度考えても答えは同じなの」
リファリスが指を鳴らす。すると私をメイド達が囲んだ。
「さーちゃん、手荒な事はしたくないの。大人しく捕まってくれない?」
…………ああ、何てこったい。普段のリファリスならこんな選択は絶対にしない。どちらも助けられるように、最善を尽くすはず。
「……つまりリファリスも私の敵ってわけか……」
空想刃を伸ばす。だけど……はっきり言って勝ち目はないわね。
「さーちゃんが強いのはわかってる。だけどメイド達全員が人形化し、命を捨てる覚悟で向かってきたら……どうする?」
「リファリス……普段のあんたなら、絶対にメイド達を捨て駒にはしないわよ?」
「皆、了解済みよ」
……院長先生……あんたは自分の教え子にこんなことをさせて平気なの?
「命までは奪わない。だけど半殺しは覚悟してね……行け!」
リファリスの人形と化したメイド達は、無表情のまま私に群がる。
「ちぃぃっ!」
仕方ない、何人かは死んでもらうしかないか。そう覚悟して刃を向けたとき。
バガガガガガガッ!
ドサドサァ
「……何のつもり? エリザ?」
両手に盾を持ったエリザが、私の後ろに立っていた。
「何のつもり、ではありません。リファリス様の御命令ですよ」
「何?」
「リファリス様はいつか仰いました。『あたしも過ちを犯す事はある。その時はエリザが止めてね』……と」
「それが……今だと?」
「はい。どう考えても普段のリファリス様なら、サーチ様に刃を向けるとは思えません」
「……だから?」
「殴ってでも正気に戻します」
リファリスとエリザが剣呑な空気を作ってる間に、私はどうにか毒を作り出すことに成功する。
「ぶふぅーっ」
「な、何だ!? さーちゃん、何をしたの!?」
「んー、ちょっと強力な毒をね……あ、エリザ」
「何やむぐぅ!?」
エリザの口の中に中和剤を流し込む。
「ぷは……これであんたは毒の影響を受けないわ」
「な、ななななな何すんねん!」
「仕方ないでしょ、急ぎだったんだから。あんたもああなりたかった?」
私が指差す先には、この場では言葉にするのを躊躇うくらい、くんずほぐれつ絡み合うリファリス達の姿があった。
「な、何の毒なん?」
「んー……一時間くらい【ぴー】がしたくなる毒」
「要は媚薬かいな!」
「強力なんだけどさー、生成するのに時間がかかるのが弱点だったのよ。あんたのおかげで何とかなったわ」
「……そらどーも」
「よし、今のうちに脱出よ!」
エリザが仲間になりました。




