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閑話 おしおキック研究。

「……おしおキック!」

 びゅん!

「……おしおキック!」

 ずびゅん!


 今のは角度があまい。もう少し上半身を反らして……。


「……おしおキック!」

 ずばびゅん!


 おお、今の。今のが一番理想的だったわ。


「……よし、身体を洗って、もう一度湯船に…………って、あれ?」


 湯船の中から「何? この変なヤツ」という視線が複数向けられていることに気づいたのは、私が蹴りの練習を始めてから二時間後のことだった。



「……エイミア……」


「サーチ、遅かったですね」


「風呂から上がるんなら、一言あってもよかったんじゃない……?」


「へ? 私、先に上がるって言っていきましたよ?」


「いつ!?」


「……サーチが蹴りの練習を始めた辺りですけど?」


 全然気づかなんだわ。


「も、もしかして、今まで練習してたんですか!?」


 あ、あはは……。


「……サーチ、根を詰めるとよくありませんよ」


 わ、わかってるわよ。



 そうは言うモノの。


『リルさん、エイミアさん! 徹底的に懲らしめてや』

「おしおキックおしおキックおしおキックおしおキック」

 ばごっばごっばごっばごっばごっ

「「「ぐはあっ!」」」


『……る必要はありませんね。全員捕縛してください』


「「は、はい……」」



 わかってはいる。



 どんっ!

「おい、このアマァ! どこに目をつけてやがる!?」

「顔に二つだけど?」

「な……こ、この……ナメてんじゃねえよ!」


 よーし、先に攻撃してきた。よって正当防衛成立。


「おしおキック!」

 ぼごおっ!

「ぐくふぅっ!!」


「あれ? 脇腹を狙ったんだけどなぁ……おかしいなぁ……」


「う、うぐぐぐ……」


「立てるわね」


「な、何だよぉ……もう勘弁し」

「おしおキック!」

「がはあっ!」

「まだ角度が……起きなさい」

「も、もう立てな」

「おしおキック!」

「ぐぼおっ!」

「今度は低すぎる。起きろやコラ」

「か、堪忍してぇ」

「おしおキック!」

「がべぁ!?」

「ん〜……気に入らない。立て立て立てえ!」

「も、もうしません! 更正しますから!」

「おしおキック!」

「ぐぶぁ!」

「まだ何か足りない……立てや立てやオラオラオラァ!」

「お母ちゃあああああああん!!」



 ……わかっちゃいるけど。



「あ、エイミアおはよおしおキック」

「おはようございますうひぃ!?」

「ちょっと、避けないでよ」

「む、無茶言わないでください!」


「朝から何をやってるんだ?」

「あ、リルおはよおしおキック」

「ひぃああ! い、いきなり何なんだよ!」

「うう〜ん……とっさに避けられるってことは、まだ鋭さが足りないのか……」

「お、おい! マジでヤバかったぞ、今の……!」



 わかっちゃいるけど、止められない。



 ぴょこん ぴょこん

「……サーチ、いい加減にしてください!」

「え? 何が?」

「脚ですよ、脚!」


 え……あ。


「ああ、ごめんごめん。つい無意識に」


 おしおキックの練習を始めて一週間、あまりにもやり過ぎて、ご飯食べながらでも脚を動かしてたわ。


「全く! 最近じゃ寝ながら蹴りを繰り出してますよ!」


 え、寝ながら?


「たまに私が蹴られるんです! 本当に気を付けてください!」


 そう言ってシャツをたくし上げる。すると脇腹には青々としたアザができていた。


「えーっと……私よね?」


「話の展開からいって、サーチ以外にあり得ますか?」


 大変ご迷惑をおかけしました。


「ん〜……なら隣で寝るのはエイミアじゃなくリルにしましょうか」


「ええっ!?」「ニャッ!?」


 リルはともかく、何でエイミアが驚く。ちなみにだけど、何故かエイミアは私の部屋のダブルベッドに潜り込んでくるので、いつの間にか一緒に寝るのが習慣になっている。


「え、あ、あの、私はそれは困ります」


「わ、私も困るニャ! 私にはダーリンがいるニャ! エイミアみたいな趣味はないニャ!」


「リル、どういう意味ですか!?」


「はいはいはい。つまりエイミアは私と一緒に寝たい、リルは寝たくない……そういうことね?」


「そうです」

「その通りニャ」


「だったら寝てるたびに私に蹴られるエイミアが不憫だわ。だからリル、今からおしおキックの練習に付き合いなさい」


「そ、それぐらいなら別に……………………ニャッ!? ニャんだってぇ!?」


「だーかーらー。私の練習相手(サンドバッグ)になりなさいって言ってんのよ」


「ニャ、ニャんで私が!?」


「何でって……あんたはエイミアが可哀想だとは思わないの?」


「そ、そりゃ思うけど……」


「なら無問題ね♪ 本気でいくから覚悟してね♪」


「ニャ、ニャんかニャッ得いかニャいニャー!!」



「おしおキック!」

 ずばんっ!


 ガードした左手を痛そうに押さえる。


「イタタ……ず、ずいぶん威力が上がってきたな」


 まーねー。伊達に毎日訓練してたわけじゃないわよ。


「だけど……単なるミドルキックばかりじゃ、相手に読まれるだけだぜ!」

「もちろんちゃんとバリエーションも考えてあるわよ。ハイおしおキック!」

 ぶぅん!

「うおっ!? い、今の当たってたらヤバかったぞ!」


「かなり加減してるわよ。じゃなきゃ何発も放てないわよ! ローおしおキック!」

 ばしぃぃぃん!

「アニャアアアアア!?」


 ありゃ、思ってたよりクリーンヒット。キレイに右の太ももに入ったわ。


「痛い、痛い、痛いいいいい!」


「ごめん、大丈夫?」


「だ、大丈夫じゃニャいニャ! 痛いニャアアアアア!」


 あらら、KOか。カンカンカン。


「サーチ、でしたら私が相手しましょうか?」


 そう言ってサイ・トゲコンボーを取り出すエイミア。


「い、いいの?」


「はい。リルが泣いてるのみて、少しスーッとしましたし」


「どういう意味だよ!」


「……わかったわ。なら今回は実戦形式でお願い」


「わかりました。では」


 そう言うとエイミアはサイ・トゲコンボーを上段に構え。


「はあああっ!」


 まっすぐに突っ込んできて、まっすぐに振り下ろす。示現流の蜻蛉の構えみたいな感じ。


「えぃやああ!」

 ずどおおん!


「ただし本家示現流には初太刀を避けられた際の連撃があるけど、エイミアは冗談抜きで初太刀のみ!」


「ぬ、抜けなぁい!」


 床に食い込んで抜けなくなったサイ・トゲコンボーを必死に引っ張るエイミア。


「……はい、おしおキーック」

 ごつんっ

「あいたぁ!?」


 スネを蹴られて半泣きになるエイミア。はい、チェックメイト。



 その後再びリルを相手に練習を再開したけど、五分くらいでマジ泣きして逃げていった。何でよ。


「……サーチ、同じ場所ばかり蹴ってましたよね?」


 あ、バレてた?

リル、サンドバッグ。

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