第十五話 キェアアアアアア!!
「≪獣化≫!? サーチに出来るはずが……!」
「実際にできちまったんだからしょうがないだろ! つーかこの状態はヤバい! ≪暴走獣化≫だ!」
「え? あ、あーまー? すたんぴー?」
「要は≪獣化≫の暴走だ! 力の制御ができてない状態だから、かなり危険だぞ!」
クケェェェェェェェェェ!!
「ちぃ、動き出した! 迎え撃つぞ!」
「え!? で、でも……!」
「私達が殺されるかもしれないんだよ! 死にたくなければ殺す気で抵抗しろ!」
「そ、そんな……あ、き、来た!」
「クソ、早い……!」
ビュウン!
「え!?」「はあ!?」
ダダダダダ……
「……え、ええっと? 通りすぎちゃいましたけど?」
「ど、どこへ……行ったんだ?」
もう少し、もう少しでサーチ達に追い付きます。
「……今度こそ逃がしませんわ」
サーチが陛下に味方しているとわかってから、ワタクシ達は必死に探していました。兎に角ワタクシ達が一番最初に確保しなければ。
「……他の誰かに捕まった場合……殺される可能性も……!」
それだけは何としても避けなければなりません。サーチを失った未来など、ワタクシにとっては悪夢以外の何モノでもありませんから……。
「!? ナイア、前方から何か近づいてくる。目測だけど、あと一分もしないうちに遭遇するよ」
目のいいナタがワタクシに異変を知らせてくれました。サーチ達が反撃してきたようです。
「……迎撃準備ですわ。サーチはともかく、リルとエイミアは痛め付けても構いません」
いくらサーチの為とは言え、ワタクシ達を裏切った事は許されません。
「……来たよ! あ、あれは……!?」
ズザザザザッ!
ワタクシ達の前に現れたのは……サーチなのですが、サーチではありませんでした。
「あ、あれは……マズいよ! たぶん≪獣化≫の制御に失敗して暴走しぐぶぅ!」
説明していたナタの目の前に、いつの間にかサーチが。そして。
「ご、ごぼあっ!」
ナタが大量の血を吐き……わ、脇腹にサーチの手刀が!?
「ナタァァァァ!!」
どしゅ!
「ぐふぅぅっ!」
更にもう一度。今度は背中まで貫きました。こ、これは致命傷……!
バガアッ!
「…………っ」
そのまま蹴飛ばされ、ナタは砂の上を転がり……そのまま動かなくなりました。
「ま、間に合って!」
ドボボッ
手持ちのポーションをありったけ傷口に振り掛けます。すると。
「…………ごぼっ! はあ、はあ……」
「あああ、ナタ!」
間に合いました。本当に危ないところでした……。
「……サーチ。どういうつもりですの?」
クケェェェェェェェェェ!!
姿かたちは殆どサーチなのに……中身は完全に別モノですね。
「しかし正気では無かったとは言え、仲間のナタを瀕死に追いやったのは事実。手加減は出来ませんわよ……!」
ワタクシはサイ・ハンマーを構え、サーチの出方を見ようとしましたが。
「な!? は、早……!」
気付いた時にはワタクシの背後に回っていたのです。
「っ……くっ!」
ブオン!
ワタクシの頭があった場所を、サーチの蹴りが通りすぎます。も、もし当たっていたら……頭は跡形も無くなっていたでしょう。
「く……はあああっ!」
蹴りが外れて体勢を崩したサーチに、渾身の一撃を放ちます。
が。
「なっ!?」
あり得ない。あのタイミングを避けるなんて!
ブオッ
「くっ!」
またあり得ない一撃がワタクシの顔に迫ります。取り敢えずサイ・ハンマーの柄で防御を……!
ズガァァァァァン!
「あぅぅっ!?」
あまりの威力に、そのまま吹っ飛ばされました。
ザザザッ ゴロゴロゴロ
そのまま地面を転がり、漸く止まります。た、たった一撃、しかもあの無理な体勢から放った蹴りで、この威力ですの……!?
キィエエエエエエエエエ!
サーチが叫び声を上げ、再びワタクシに肉薄します。ですが、今の一撃でもう腕が……。
キアア!
ズドォ!
「ぐぶぅぅぅ!」
は、腹に蹴りが……痛い、痛いいいい!
「あ……あ……いやあああああああ!」
く、口から血が……と、止まらない……!
キィエエエ!
バガアッ!
「あぐぅぅぅ!!」
ほ、骨が……砕け……!
キシャアアア!
ガゴッ!
「ぅぐぅ!」
キアアアアア!
ガッ! ガッ! ガッ!
「ごぶぅ! ぐぶ、ぐぶ、あぅぅぅ!」
い、痛い、痛い……だ、誰か、助け……。
「アニャアアアアアアアアア!!」
ガゴォ!
キエア!?
「エイミア、フルパワーで≪蓄電池≫! ≪獣化≫が切れるまで足止めしてくれ!」
「はい!」
バリバリバリバリ!
ギィアアアアアアア!!
こ……この声は……?
「うわぁ、こりゃヒドいな……とりあえずポーションで応急処置しておくぜ」
バシャア!
あ……あ……身体の痛みが……和らいで……。
「……おい、ヴィーか! 一大事だ、ナイア達がヤバい! 早く来てくれ!」
「……あ……リ、リル……さ……」
「しゃべるな。応急処置はしたけど、重傷だからな」
「な、何故……わ、ワタクシを……」
「いいから黙ってろっての……エイミア、どうだ!?」
「だ、段々≪獣化≫が解けてきてます!」
バリバリバリバリ!
キシャアアアああアアアアアアああああアア……
「よーし、もう少しだ。≪暴走獣化≫は強力なぶん、効果時間も短いからな」
アアアああああアアアあああああああ……
……段々と獣の叫びがサーチの声に変わっていくのを感じながら……ワタクシは意識を手放しました。
「…………ん?」
あ、あれ?
「私……何をしてたのかしら?」
「……気づいたか、サーチ」
「あれ、リル? あれ、私達、荒野にいたはずじゃ?」
何でホテルにいるの?
「……サーチ」
「な、何よ、そんな鬼気迫った顔して?」
「今度からは温泉をたっっぷり持って歩けよ」
「はあ?」
「それと、温泉の源は禁止な」
「へ?」
「わかっったな?」
「は、はい」
「……よし。じゃあ、しばらく休んでろ」
……はあ? 一体何なのよ?
「……はい、これで完治しましたよ」
「申し訳ありませんわ。手も足も出ませんでした」
「うん……あまりにも圧倒的だったよ」
「いえいえ、命が助かって何よりです」
「そ、それにしても……サーチは本気でワタクシ達を……」
「うん……あれは本気だった」
「……多分ですけど、サーチが本気で殺す気だったとしたら、二人はとっくに殺されてますよ」
「え?」「な、何で?」
「ナイアの傷もナタの傷も、絶妙な加減で重要な血管や神経を傷付けていませんでした。全ての傷がそうであった以上、偶然ではないと思いますよ」
サーチ、暴走終了。




