第十二話 ていうか、脱線世直し 二
さあ、まずは証拠を集めましょう。温泉がかかっているのだ、手は抜けない。
「リルがいるんだから、さっきのセクハラゴーカン野郎は任せていいわね」
「情報を吐かせればいいんだろ? 任された」
「頼んだわよ〝深爪〟のリル」
「深爪言うなっ!」
それと……エイミアは……。
「……? 何ですか? 私を見て何故悩んでるんですか?」
うーん……エイミアは使いどころが難しい……。
「そうね〜……あ、そうだ。エイミアはニーナさ……じゃなくてマーシャンとオミツちゃんの護衛をお願い」
「ご、護衛ですか!? ニーナさんには必要なはあああああん!」
先っぽをつままれて腰砕けしたエイミアに耳打ち。
「バカッ! ニーナさんは今はマーシャンなのよ! 気をつけなさい!」
「だ、だってサーチが先に間違えたんじゃないですか! 私は釣られただけです!」
「私はちゃんと訂正いれたから問題ないのよ!」
「そういう問題じゃないでしょう!」
「そういう問題じゃないかもしれないけど、一応一部の問題は解決したから、今回の問題的には問題ないのよ!」
「何が問題で何が問題じゃないのか、よくわからないんですけど!」
「……お前ら二人の言い争いが、一番問題なんだよ!」
ごすっ! がすっ!
「ふぎゃ!?」「はぎゃ!!」
「いい加減にくだらねえ言い争いは止めろ! 今度やったら拳骨だけじゃ済まさねえからな!」
「うぐぐ……わ、わかったわよ」
「ううう……す、すみませんでした……」
久々のリルの拳骨。やっぱり強烈だ。
「リル、深爪より拳骨の方がいいんじゃない?」
「……何がだよ」
「異名」
ごすっ!
「いったあああああああい!」
「あ、あの〜……?」
『気にしなくても大丈夫ですよ。いつもの戯れですから』
「は、はあ……」
証拠集めに乗り出した私は、まずはダイカーンとかいう町長の家に忍び込んだ。
「うっわ、成金趣味丸出しね」
ムダに並んだ石像の数々、庭にまるで合っていない石灯籠、そして金ぴかな家。ここまでの悪趣味はなかなかいない。
「ま、おかげで忍び込みやすいんだけどね」
身を隠す場所には事欠かない。まさに「忍び込んでください」と言わんばかりの屋敷ね。
「まずはダイカーンご本人の部屋の捜索っと」
天井裏から部屋に降り立つ。それにしてもセキュリティのカケラもないな。
「お、カギのかかった引き出し発見。こんなのは針金でちょちょいっと」
カチャ
「開きましたー♪ ていうか、さっそく怪しげな書類が」
机に広げて見てみると……こ、これは裏帳簿ではありませんか!
「まさかいきなり本丸に切り込めるとは……これは探ればどれだけでも出てくるわね」
案の定、証拠が出るわ出るわ。裏金のリストから偽造された領収書、果ては「よいではないか」の最中を記録した映像データまで。
「……っんとにクソヤローだわ、こいつ……」
証拠を全て魔法の袋に放り込み、さっさと退散。
「……よしよし、ちゃんと寝てるわね」
番犬が一匹いたけど、≪毒生成≫で作った眠り毒でグッスリだ。
「……まさかあの犬だけでセキュリティを……? だとしたらホントにバカだわ……」
これだけザルなセキュリティも珍しい。ま、そのおかげで楽できたんだけどね。
次にアクトーク組合長の自宅へ。町長との癒着を示す証拠が欲しい。
「ん……ここはセキュリティが万全ね。くまなく防犯カメラが備えつけられてる」
ちゃんと死角がないように設置されてる。これは骨が折れるわ。
「とはいえ、要は映らなければいいんだけどね!」
目にも止まらぬスピードでカメラの前を通り抜け、庭木の陰に隠れる。これならコマ送りくらいにしないと見えないだろう。
「さて、次は中に潜入だけど……窓にもセキュリティが掛かってるか」
開けたら警報が鳴るヤツ。もちろん警備員もわんさと押し寄せてくるだろう。
「こういう場合は……屋根に登って……」
天窓があれば……おお、発見。
「しかも開閉できないヤツ。これよこれ」
元々固定するのが前提だから、警報器を付けたりすることはない。ボルトで固定してあるだけだから、外せれば……!
「か、固い! ぬおおおお……!」
ギギギギ……ぐるん!
「うわわわっ! ゆ、緩んだぁ」
そんなのを何本も繰り返し、やっと天窓を外す。
「ぜえ、ぜえ……ム、ムダに体力を使ってしまった……」
天窓から侵入したあとは、これといって障害になるモノはなかった。ま、プライベート空間に監視カメラを付ける人はあまりいないからね。
いくつかの証拠を集めると再び天窓から外へ。もう一回苦労して天窓を元に戻すと、侵入したときと同じ方法で組合長の家を離れた。
「ニーナさ……マーシャン、証拠は集まったわよ」
『……何があったんですか? 汗だくでヘロヘロになって』
い、いえ。久しぶりに自分の『力』のなさを噛みしめただけです。
「あの男からも証言がとれたぜ。町長と組合長からの紹介だそうだ」
「紹介って……」
「オミツちゃんだったか。あの娘は町長に呼び出されてあの場所に行ったらしい」
「……何でオミツもノコノコとその場所へ行ったのよ」
「どうやら温泉の権利をチラつかせて呼び出したらしい。来ないと温泉の供給を止めるぞ、って感じでな」
「何てぇ野郎だ、許せねぇ!」
「お前……温泉絡むとキャラクター変わるな……」
「で、肝心のオミツは?」
「今はエイミアが護衛して自分の家に戻ってる。両親に事情を説明するそうだ」
「そう……なら私達は今から……」
「今から?」
「証拠を整理しましょう」
「うわ、私の一番苦手なヤツだ……」
ガマンガマン、私だって苦手なんだから。
「……ただいま戻りました」
「あ、エイミアお帰り」
「お帰り〜……ふはぁ、疲れた」
「ど、どうしたんです、リルは?」
「今証拠の整理が終わってね」
「ああ、それで……それよりもサーチ、確か町長の家に忍び込むって言ってましたよね?」
「ええ。ていうか、もう忍び込んだけど」
「大丈夫でした?」
「? 何が? はっきり言って楽勝だったわよ?」
「いや、そうじゃなくて。あの家には犬が居ましたよね?」
「ええ。吠えられたら面倒だったから、さっさと眠らせちゃった」
「そ、それで大丈夫だったんですね……」
「早く言わなくちゃいけなかったです。ごめんなさい!」
ちょ、ちょっと。何でオミツが謝るわけ?
「あの家、冥王犬呪が取り憑いてるんです」
は?
「ま、まさか、目があっただけで魂を吸い取られるっていう、あの?」
「はい。ダイカーン家は代々冥王犬呪の操者なんです。で、それを家に取り憑かせて、セキュリティにしていたんです」
「…………」
「サーチ、眠り毒が効いてなかったら……」
あ、あはは……。
もう一話世直し。




