第二話 ていうか、私って悪食?
水浴びタイムが過ぎて夕方が近くなった頃、ようやく暑さも和らいできたし、濡れた装備も砂漠のからっ風ですっかり乾いたし。
「それじゃあみんな、行きましょう!」
「おう。ようやく出発だな〜」
「ごめん、ちょっと待って」
珍しく私が一番最後だ。今はトップとインナーを叩いている。
「どうしたんだよ? 上半身素っ裸のまんまで」
「ちょっと砂がね……」
さっきまでパンツを叩いていたのだ。
「砂漠だから、砂が入るぐらい当たり前だろ……我慢しろよ」
「すぐ終わるから」
密着性が高いビキニアーマーは、砂が入ると痛いんだよ!
夕日で方角を確認しながら前へ進む。
「リル、だいたいあと何日くらい掛かりそう?」
リルは地図とにらめっこしながら答えた。
「砂漠だからな……正直わからん。もし普通の平地だったら明日の夕方には着く距離だな」
うーん……そうなると食料に不安があるかな。
カサッ
「ひぃっ!」
エイミアが足元にいた何かに驚いて飛び退く。いちいち胸を揺らすな腹が立つ。
「ん……何だよ、ただのサソリじゃねえか……」
え? サソリ!?
私は瞬時に≪偽物≫で針を作り出してサソリにぶっ刺した。
「わ! サ、サーチ?」
「何及び腰になってんのよ。サソリの毒は薬の材料になるから売れるのよ」
まあ、それだけじゃないんだけど。
「ああ。薬屋に持っていけばそこそこの値にはなるな……」
リルも採ったことあるんだ。なら後で誘おうかな。
「もう少し行けば灌木の林があるらしい。そこで休憩がてら夕飯だな」
夕ご飯の支度がてらサソリから毒針の部分を解体して取り出しておく。
さて……今日は干し肉と干し野菜を炒めて……硬いパンを炙って……あとはおやつかな。
さーてと、できたできた♪
「エイミア、リル戻ってきたー?」
外套のほつれを直していたエイミアが顔をあげた。
「一度戻ってきましたよ。それから『お花摘みにいってくる』て言って出ていきましたよー」
お花摘みとは古風な言い方するわねー。
「砂漠の真ん中でお花なんて咲いてるのかな……」
……?
「エイミア? 意味わかってるわよね?」
「え? お花摘むんですよね?」
おいおい。
「ちょっと耳貸しなさい……ごにょごにょ」
「はい……はい……あふん! み、耳に息が」
がつんっ!
「痛いい!」
「真面目にやんなさい!」
で、意味をくわしく説明する。
「えーーーーーーっっ!!」
……エイミアの驚きの叫びが砂漠に響いた。
「……なんだ? 今何か叫び声が響いてきたけど?」
「気にしないで。エイミアが新しい境地に達した感激の叫びだったから」
「はあ?」
……エイミアは顔を真っ赤にして縮こまっていた。
夜。
砂漠は太陽が沈むと一気に温度が下がる。
……ていうか寒い。
「……そりゃビキニアーマーしてりゃあ寒いだろうさ」
うるさい。
例え北極だろうと南極だろうと、私はビキニアーマーをやめる気はない!
「うぅ〜……私も胸元が寒くて……いひゃい!」
「なあに!? 胸がおっきくて谷間を風がよく通るから寒いってか!? 当てつけかコラッ!?」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「……お前ら飽きねえな……」
ちょっとイタズラ心が疼き。
「リルだって寒いでしょ?」
からかってみる。
「……あーそうさ! 私は胸がないから逆に風がよく通るさ!」
やっぱり反応した。ぶくくっ。
「そっちじゃなくて足よ。スカート短いから寒くないかってことよ」
「なら最初からそう言え! 無意味に傷付いちまったじゃねえか!!」
道中をキャーキャー騒ぎながら進む。私が魔法の袋に手を突っ込んでボリボリと食べていると。
「あ! サーチが何か食べてます! ズルい!」
とエイミアが噛みついてきた。意外と食べ物にはうるさいのよね……。
「……んだよ。自分だけズルいぞ」
ん〜……エイミアはダメだけどリルなら大丈夫か。
「食べたいの? ……はい」
「へへ、さんきゆ」
「……さんきゆじゃなくてサンキューね」
私の指摘を完全に黙殺して、リルは口に運ぶ。
ポリポリ
「お! 香ばしくて美味いな!」
「リ、リルばっかりずるい! 私も欲しいです!」
「エイミアは止めといたほうがいいわよ」
それにもう少ないしね。
「サーチサーチサーチ! 私も欲しいです! 欲しいです! 欲しいですですです!」
わかった! わかったわよ!
お願いだから即死魔術を連呼しないで縁起でもない!
「……もう! 知らないわよ……足は無いからハサミの部分ね。ここも歯ごたえがパリパリして美味しいから」
そう言ってエイミアにサソリのハサミを手渡した。
……たぶんエイミアは……。
「……き」
耳を塞ぐ。
「きいいぃぃああああああああああ!!! ……はうっ」
……叫ぶだけ叫んだあとエイミアは卒倒した。
「……だから『止めとけ』って言ったのに」
エイミアが落としたハサミを口に運ぶ……うん。この歯ごたえと香ばしさがたまんない。
「ぺっぺ! オエー!」
あれ? リルが嘔吐いてる?
「サーチ! お前何を食わせるんだよ!」
「何ってサソリ」
「何でサソリなんか食ってるんだよ!」
何でって言われても……。
「……美味しいから」
「ふざけんなー! ……うっ! ……お【食事中規制】〜……」
……美味しいんだけどな。私は前世でサバイバルをちょくちょくしてたので割りと平気だ。
「リル、こういうのはダメ?」
ちょっと前に捕まえて蒲焼きにしたヘビを見せる。
「………………お【特殊趣味なため自粛】〜……」
よくヘビだってわかったわね。
「……昔婆さんに食わされたんだよ!」
……さいですか。
エイミアが目覚め、リルが落ち着いてから出発した。
ただ……私に近寄ってこないのよね……。
「ちょっと! 何で離れて歩いてるのよ! さっさと追いつきなさいよ!」
エイミアとリルは顔を見交わして。
「だってさ……」
「サーチ……虫臭そうで……」
失礼ね!
「エイミア、ちょっとゴメン」
一瞬で加速してエイミアの目前にいく。
「え!?」
「いくわよ……はあああ」
「わっぷ…………あれ? あれあれ? 臭いどころか無臭です……」
サソリの殺菌力を甘くみないことね。
「言っとくけど、サソリはまだマシな方よ」
「「……マ……マシ?」」
「リル。実際美味しくなかった?」
「うっ! ま、まあ……香ばしかったな……」
美味しいだけまだマシよ……見た目はともかく。
「まあ、ここから先は食料も乏しくなるし……なるべく現地調達しないとね」
「げ、現地調達って……」
「まさか……」
私はにっこりと笑い。
「砂漠は生き物が少ないのよ……いてもサソリかヘビかトカゲか……」
だんだん青ざめていくエイミアとリル。
「さあ……がんばってちょうだいね?」
「「い、い、いやああああああああああ……」」
それから二日。
私達は運良く隊商と出会い、合流することができた。
その時、歓迎の証としてご馳走してもらったのだが。
「美味しい! 美味しいです! サソリより香ばしさには欠けるけど……」
「うめえ! マジうめえ! でもヘビみたいなコリコリ感はねえな……」
……隊商の皆さんはドン引きで。
「いやあ……見た目と違って皆さんずいぶん逞しいですな……」
……とフォローになってないフォローをされた。
サソリの殺菌力は作者の勝手な想像ですのでご了承ください。