第十一話 ていうか、脱線世直し 一
火星で最初の世直しを達成した女王陛下御一行は、南のエリアへと移動していた。
「……とかいうナレーションが入るんだろうなぁ……」
「ん? 何か言いました?」
何でもございません。
「このまま歩くと、あとどれくらいで町に着く?」
『あと二時間程です。山の麓ですね』
「げぇ〜、まだ二時間も歩かないといけないのか……」
「何よリル、もう疲れたの? 少し鈍ってるんじゃない?」
「ん〜、かもなぁ。実際に出産後はあまり訓練できなかったから」
「エイミアに抜かれたんじゃない?」
パーティで私以上に『体力』が低いはずのエイミアは、疲れた様子も見せずに先頭を歩いている。
「うっわ……こりゃ鍛え直さないと」
リルはエイミアの隣に並び、ウサギ飛びで移動を開始した。
「リ、リル!?」
「気に、すんな。少し、鍛え、直そう、と思って、な」
「むう……なら私も!」
エイミアも対抗意識が芽生えたらしく、片足飛びで移動を開始した。
「けんけんぱ、けんけんぱ、けんけんぱ」
「ちょっと待て。何でけんけんぱなのよ?」
「え? けんけんぱ、だって、けんけんぱ、その方が、けんけんぱ、足の負担が、けんけんぱ、少なくて、けんけんぱ、怪我をしにくい、けんけんぱ」
「説明しながらけんけんぱ、けんけんぱ、言わないで! 鬱陶しいわ!」
「そうですか? ならけんけんけんけんけんけんけんけんけんけん……」
いや、けんけんぱでいいけどさ! 余計に鬱陶しいし!
『サーチ、もうすぐ町です』
「あ、もうそんなに歩いてたかな」
『ですから…………少し離れて歩きませんか?』
あ、そうね。他人の振り、他人の振り……。
案の定、ウサギ飛びとけんけんぱで移動するリルとエイミアは、町の中でおもいっきり浮いていた。
「っはあ、はあ、はあ、つ、つっかれたぁ」
「はあ、ひい、ふう……わ、私もです」
結局二人揃ってダウンした場所の近くで宿泊することになった。旅館の従業員が「大丈夫ですか?」と駆け寄って冷たい水を持ってきてくれた以上、泊まらないわけにはいかないし。
「御夕飯はどうなさいますか?」
「そうですね……ていうか、二人がこんな状態だし、部屋出しでお願いできます?」
「畏まりました」
ソーシャルディスタンスも大事だしね。
「……さて、夕ご飯までは時間もあるし……ひとっ風呂浴びてこようかな♪ みんなはどうする?」
「私はもう少し休んでます〜……」
「わ、私も〜……」
『……私は入浴する理由がありません』
「……わかったわ。私一人で行ってくる」
「「『いってらっしゃ〜い』」」
「……あんなになるまで筋トレしたって、適度に休憩入れないと身体を傷めるだけよね……」
こういうときこそ温泉で身体を癒さないと。
「ふんふふんふ〜ん…………ん?」
脱衣場で服を脱いでいると、浴場のほうで何やら騒ぎが。
『きゃああああ!』
『良いではないか、良いではないか』
『そ、そんなご無体な……い、いやああああ!』
……何か想像がつくシチュエーションよね……放っておくわけにもいかず、少しだけ扉を開けてみると。
「良いではないか、良いではないか」
「い、いやああああ! ああああれえええ!」
ス、スゲえ! リアル「あ〜れ〜」だ!
「でも実際は『〜』じゃなくて、母音の連呼になるのね。必死さの違いか」
「な、何用だ、其方」
「あ、単なる観客ですので、お気になさらずに」
「気になるわ!」
「あ、近すぎる? やっぱソーシャルディスタンスは大事ですよね」
「だから! そういう事ではなく!」
「た、助けてくださいいいい!」
あ、そうだわ。助けるのが先だったわ。
「えい」
「ぐはあっ!? がくっ」
「というわけで、大丈夫?」
「は、はあ……できればもう少し早く助けていただければ……」
そりゃ失敬。
『大丈夫でしたか、お嬢さん』
「は、はい。助けていただきありがとうございました。私の名はオミツです」
おおい! 火星でオミツとか言われたって、違和感ありありだよ!
『私はエ・チーゴのアンドロイド部品問屋の隠居で』
「い、隠居?」
『はい。ニーナ……じゃなくてマーシャンと申します』
何だよ、その微妙な設定! ていうか、いつの間に決めたのよ!?
「わ、私はリル」
「わ、私はエイミアです」
「あ、あの……お二人共、顔が強張っていらっしゃいますが……?」
気にしないでやって。単なる筋肉痛だから。
「あ、貴女様は……?」
「へ? 私? サーチだけど」
「サーチ様ですか……!」
んん? 何で頬を赤らめていらっしゃるので?
「いえ、その……ご立派なお身体で……」
ああ、そういえば露天風呂で「あ〜れ〜」してたから、ついつい素っ裸で飛び出しちゃったんだっけ。
「気にしない気にしない」
「い、いえ、目に焼き付いてしまって……ウットリ」
止めい。
「……サーチ、ヴィーが正気に戻ったら、ちゃんんんと報告しますからね」
もっと止めい。
『……ではこの町のダイカーンという町長が?』
「はい。権力を振りかざしてやりたい放題で……ぅぅぅ」
そりゃー大変だねー。
「なんて町長なんだ!」
「許せません!」
ヘタな同情は痛い目を見るだけだよー。
「挙げ句の果てには、町の若い娘に狼藉を働くようになり……」
「最低だな」
「最低ですね」
『最低です』
それには同感だけど、今回は関わりたくないので知らない振り。リルとエイミアに働いてもらおう。
「この町は豊富な温泉が湧き出ており、それが観光の目玉となっています」
「いーねーいーねーマジでいーねー」
「……サーチ……そこには食い付くんですね……」
「その温泉の命、源泉の権利を独占しようと、町長のダイカーンが動いているんです」
「なんてヤツだ!」
「……サーチ……」
「アクトーク旅館組合長と手を組んで、更に何か企んでいるようで」
「許しちゃおけねえ!」
「……さっきまで上の空だったのはサーチでは……」
「おまけに! 権力を悪用して、露天風呂は全部混浴にする、なんて条例を作ろうとしてるんです!」
「「「『はあああああああああっ!?』」」」
「もっと言ってしまえば、露天風呂内へのタオルや湯浴み着といった、身体を隠すモノの持ち込みを禁止するって」
「な、何だよ、そのセクハラ条例!」
「いくら何でもやり過ぎです!」
『これは止めなければなりませんね、リル、エイミア』
「「勿論です!」」
「ふ…………ふふふふふ……」
『……サーチも……協力してくれますね?』
「ふふふふふ……ふはははははは! もちろんよ! そのテンプレ悪役二人組、打首獄門でも飽き足らないわ!」
「「サ、サーチが怖い……」」
「サーチ様……ウットリ」




