第九話 ていうか、いきなり世直し?
船は外装を大きく変え、キュアガーディアンズだったころの面影はみじんもない。側面に書いてあった始まりの団の文字も消え、今は竜の牙折りの名が刻印されている。それもこれもマーシャンを敵の目から逸らすため、さらには紅美を守るため。
「これだけでやる気の度合いが違うってもんよ! さあ、紅美を狙う不届き者は私が成敗してやるわ!」
「成敗するとか言う前に、どうやって私達に目を向けさせるか……だな」
「そ、そんなの……海賊しまくりゃ自然に」
「ブラッディー・ロアが追ってくるのに、警察と軍が加わるだけの話だろうが。いくら何でも身体がもたねえよ」
「うっ。そ、それは……」
「要は、いかにブラッディー・ロアの目を私達に向けさせるか、が重要なんだろ。後々のことを考えたら、ハデな海賊行為は慎むべきだな」
そ、それは……た、確かに。
「それじゃどうやって私達に注目させるのよ?」
「そ、それはだな…………サ、サーチのビキニアーマーをさらに過激に」
「言っとくけど、言い出しっぺが一番過激な格好してもらうからね」
「ニャ!? や、やっぱ止めよう、うん」
ったく。なら最初から言うんじゃないわよ。
「サーチ、まず私達に注目を向けるには、マーシャンの姿がないと不味いと思います」
「む、そりゃそうだけど……今はマーシャンは手を離せないのよ?」
「わかってます。だからマーシャンの姿をしたハリボテを準備しておけば……」
「……あのね、どうやってそれを人の目に向けさせるわけ? 私達がそのハリボテを持って歩くの?」
違う意味で注目を集めるけど、さすがにイヤだよ。
「……あ、ならハリボテが喋ればいいのでは?」
「……しゃべるって……『ワラワハまーしゃん、ヨロシクネ』とか言うの? ますます怪しい人じゃない」
「い、いえ、そういう玩具的なモノではなく、独立した人格が……えっと」
「あ、わかった。要はアンドロイドに外見を変えてもらって、マーシャンの振りをしてもらう……ていう感じか?」
「そ、そうです!」
「……それってさ、私達からすれば『整形してください』って言ってるようなもんじゃない?」
「「……あ……」」
アンドロイドにも心はある。嫌がる人が大多数じゃないかな。
「そうねぇ……あ、ニーナさん。もし身体を取っ替えろって言われたら、やっぱイヤじゃない?」
『身体を、ですか? 私は元々船が身体でしたので、違う船に変わるのには抵抗がありますね』
ほら、やっぱり。
『でも人間型の身体は必要不可欠です』
「へ?」
『私は船ですので、やはり港に留まらざるを得ません。ですから「分体」が必要になる事があるのですよ』
「えっと、つまり……人間の身体のラジコンをニーナさんが操作する……的な?」
『その例えは適格ですね。分体を使用する事によって船の整備・点検を行いますし、どうしても必要なモノがある場合は買い出しもしています』
あ、そういえば燃料や弾薬っていつの間にか補充されてたわね。
「そ、それじゃ私の部屋を掃除してくれていたのは……」
『私です』
「ありがとうございます」
「……エイミア、自分の部屋くらいはちゃんと掃除しなさい」
「うぐ……す、すいません」
『そう言うサーチも、夜中に【ぴー】を見て【ぴぴー】の際は、私が防音対策を』
「大変申し訳ありませんでした。できればここで暴露しないでください」
ほら見ろ、エイミアとリルが真っ赤になってる。
「ていうかニーナさん、その分体っての、外見変えちゃうのはあり?」
『構いませんよ。サーチの例えに準えるならば、分体はラジコンと同様ですので』
よし、その手でいこう。
「どう、ニーナさん。違和感はある?」
『いえ。それにしても私がサーチ達と共に歩く日が来ようとは……』
私達はとりあえず火星に降り、東マージニア内のある都市を歩き回っている。もちろん、ニーナさんの分体と共に。
「本当にそっくりですね。思わずマーシャンって呼んでしまいそうです」
ただしニーナさんの分体はマーシャンの外見そっくりにしてある。
「確かにマーシャンが堂々と町中を歩いていれば、目立つどころじゃないわな」
これなら本物のマーシャンから確実に目を逸らさせることができる。何しろ分体のカスタマイズはマーシャン自ら施したのだ、似ていないはずがない。
「……ほーら、早速怪しい連中が尾行しだした」
とはいえ尾行はヘッタクソ。完全なド素人だわね。
「誰もいない路地裏に誘い込んで、一網打尽にしちゃいましょ」
「オッケーイ」
「くそ、何処へ行きやがった!」
「見失うなよ、追え!」
「はろはろ〜」
「え」
どがばぎがんがんがん!
「「「ぐはあっ!」」」
ドサドサッ
「よし、全員拘束して……あ、ついでに財布は全員没収するわよ」
「……サーチ……」
「いいのよ。『悪人に人権はない』って明記した書物もあるくらいなんだから」
「は、はあ……」
竜が避けて歩く魔術師とは一切関係ございません。
「……ん? これって……何かのメモリよね」
財布の中から出てきたのはお札ではなかった。ちっ。
『中身を見てみましょう』
ニーナさんは分体にメモリを接続する。
『……これは映像ですね……む? この人物は……』
……?
その日の夜、町の役場内に忍び込んだ。
「ニーナさん、間違いないのね?」
『はい。あのメモリにはこの町の町長と業者との、現金の受け渡しの現場が記録されていました』
それからいくつかの証拠をかき集め、ついにこの場所に至ったのだ。
「場所は町長室ね……せーの」
ばぁん!
町長室のドアを蹴破ると、中には渦中の町長と業者がいた。
「な、何だ何だ!」
「お前らは誰だ!」
今回の作戦に妙にノリノリなリルとエイミアが前に出る。
「控えい! 控えなさい!」
「この御方を何方と心得る! アンドロイドの始祖、サーシャ・マーシャ女王で在られるぞ!」
どぅわああああん!
なぜか銅鑼の音みたいな効果音が響く。
「女王陛下の御前である。控えい、控えなさい!」
「「は、ははあ〜!」」
……どっかで見た光景なんですけど。
『その方ら、談合で工事の価格を吊り上げるなと、言語道断!』
「「お、恐れ入りまして御座います」」
『検察当局より沙汰があるまで、自宅で謹慎しておるがよい。わかったな?』
「「ははあ〜!」」
……やっぱどっかで見たことがあるような……。
この事件以降、マーシャンは「指名手配の凶悪犯の元女王」ではなく「身分を隠して世直しをしている女王陛下」と思われるようになった。指名手配されてるのも「女王を良く思わない悪党の策略」ということになり。
「ずいぶんと動きやすくはなったけど……」
「いいじゃないですか。海賊繰り返すよりはマシです!」
「結構気分良いよな、これ」
『私もスッキリしました』
……まあいいんだけどさ。
サーチは立ち位置的にお銀でしょうか。




