第七話 ていうか、あの坂を登ればばしゃあああああん!
紅美に手を出そうとした連中の残党は、昨日のうちに徹底的に容赦なくけちょんけちょんに叩き潰しておいた。
「よーし、これで今日は楽しめるわよ!」
「母さ……サーチ、そこまでして遊びたかったの?」
とーぜん。
「こんなプール、一生のうちに何度来れるかわからないわ。だったらスライダーは絶対に制覇しないと!」
「いやいや、7㎞も滑れば絶対に飽きる」
「ふっ、それだけ滑っても飽きない何かがあるのよ。じゃなきゃスライダーを売りモノにして広告を出すはずないじゃない!」
今となっては珍しい紙の広告を見せる。そこには。
『7㎞続く驚愕!』
『君を長い長いドキドキハラハラが待っている!』
『今なら通常五千エニーのところ、99%OFFの五十エニーで一日滑り放題!』
『今だけの特別価格! ぜひぜひぜひどうぞ!』
「……これって絶対に不人気なヤツだと思うけど?」
「…………ま、いいわよ。紅美は泳ぎたくないってことで」
「お、泳ぎたくないわけじゃないわ!」
「ならスライダーに行く?」
「そ、それは……ちょっと……」
……ああ、なるほど。
「もしかして、紅美……怖い?」
「うん。母さ……サーチにだから言えるけど」
う。そ、そっか。そう言われちゃ仕方ない。
「ならエイミアとリルに頼んでおくから、一緒に泳いでなさい」
「わかった。ごめんね」
気にしなくていいわ。背後で紅美が「ふ、チョロい」とか言ってたのも気のせいだってわかってるから。
「ホントに滑るのか、サーチ?」
「当たり前じゃない。チケットも買ったんだから、絶対に滑るわよ」
「……何故かわかりませんが、私の中の≪蓄電池≫が『絶対に止めておけ』と囁きます」
スキルにまで心配されるわけ!?
「だ、大丈夫だって。それより紅美のことを頼んだわよ」
「わかってるけど…………気をつけてな」
「気を付けてくださいね」
「母さ……サーチ、気を付けて滑ってきてください」
単なるアトラクションだよ!? そこまで心配するようなモノじゃないから!
「いらっしゃいませ〜」
「ウォータースライダーお願いします」
「はーい。普通のヤツですか? ロングスライダーですか? それともスーパーワンダフルグレート云々スライダーですか?」
途中ではしょるくらいなら、そんな長い名前付けるなよ。
「一番長いヤツね」
「え…………ま、まさか殺人スライダー!?」
ちょっと待て。何よその物騒なスライダー。
「ほ、本日初の挑戦者でーす!」
「「「おおおっ!」」」
何よその反応!?
「がんばれよー」
「達者でなー」
「骨は拾ってやるぞー」
だから何なのよ、その物騒な反応は!?
「最終確認です。本当にいいんですね?」
「い、行くわよ。ここまで来て退き下がるわけにはいかないし」
「はーい、殺人スライダー一名ごあんなーい!」
だから何なんだよ、その物騒な名前は!
登ってきた階段に蜘蛛の巣がかかりまくってたのが気になる。
「では準備いいですか?」
「え、ええ」
「忠告しておきますが、武器はすぐに取り出せるようにしておいた方が」
「ちょっと!?」
「ではいってらっしゃーい、えい!」
どんっ!
こらあああああ! めっちゃ気になること言ってから送り出すなぁぁ!
シャアアアアア!
「うん、結構早いスライダーね」
この調子なら7㎞もあっという間でしょ。
「……ん?」
な、何? あの「あの坂を登れば何か見える」的な坂は?
シャアアアアア……ずしゃあ!
うわあ、浮いてる浮いてるって……めっちゃ飛んでるぅぅぅ!?
「うわわわわわっ!?」
ばちゃあん!
何とか身体を捻ってスライダー内に着水する。
「あ、危ねえ……ていうか、床に激突しかねないわよ!?」
終わったら係員に文句言ってやる。絶対に設計ミスだろ!
「……って、言ってるそばからまた坂! どう見ても同じパターン!」
あの坂を登れば、は教科書だけで十分ですから!
シャアアアアア……ずしゃあ!
「……って、坂じゃなくてジャンプ台!?」
あ、あの細いスライダーに着水しろっての!? 外れたら死ぬわよ!
「ぎぃああああああああああああ!!」
どう考えてもコンクリートの床まっしぐら! 懸命に身体を動かして、どうにかスライダーに向かう。
「うわ、うわ、うわ、うわああああああああああっ!」
ずばちゃあん!
ど、どうにか着水。で、でも今ので水着が……!
「な、何か隠すモノはないかしら……って、ウォータースライダーにそんなモノないか……ん?」
あそこに引っ掛かってるのは……ラッキー、水着のトップじゃん! 滑りながら掴み、とりあえず着ける。
「サ、サイズ的にきっつい……ま、まあないよりはマシか」
シャアアアアア……
にしても、あんな場所に水着が引っ掛かってたってことは……あそこで脱げた人が他にもいたのか。
「ていうか、骨が落ちてても不思議じゃないんだけど……」
滑っていく途中で白いモノが見えたのは、気のせいではなかったのかもしれない。
シャアアアアア……ずしゃあ!
「あひゃああああああああああ!」
ばちゃあん!
「あ、あとどれくらいあるのよ……!」
水着が取れたのは数えきれず。「ス○ルバーグの世界かっ!」ってくらい命懸けのジャンプをさせられたのも数知れず。そろそろ背中とお尻がアザになってくるかな、というとき。
ザアアアアア! ばしゃあああああん!
「きゃっ! な、何!?」
プールに落ちた? ってことは……!
「殺人スライダー、ついに攻略されました!」
「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」
へ? 攻略?
「今まで誰も為し得なかった偉業を達成したのは! 元キュアガーディアンズとして海賊を震え上がらせてきた女傑! 〝闇撫〟の異名を持つファイターの中のファイター、サァァァァァァァァチィィ!!」
は、はい?
「スライダーチャレンジぃ!?」
「はい。全長7㎞にも及ぶ到達不可能なスライダーをどこまで滑れるか。その距離によって賞品が貰える、ダイモスわくわくビーチランドの名物です」
いやいや、あれは命に関わるって!
「今回初めての完全制覇者が出ましたので、更に難易度をアップする予定です」
いや、だから死ぬって!
「さて、それでは賞品です。まずは賞金一億エニーです」
をを! それはマジでありがたい!
「副賞として、海賊・オブ・ザ・イヤーへの選出の権利を」
いらん。
「更に初代完全制覇者としての偉業を称え、銅像を建立し」
止めい。
「更にこの水着をぶごっ!?」
「何であんたが私の水着を持ってんのよ!!」
犯罪都市のアトラクションは謎。




