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第六話 ていうか、プールでもバトル。

 水をたっぷりと飲んだリルは、そのまま病院送りとなった。ぴーぽーぴーぽー。


「お待たせ。今までかかっちゃったわ」


 それと同じタイミングで、海賊(しごと)の連絡で船に籠っていた紅美が現れた。


「って、あれ? リルさんは?」


「えーっと……トイレよ。ていうか、結構時間かかったわね」


「あー……うん。なかなか売値で折り合いがつかなくってさ」


「値段の交渉にまで入っちゃったの!? 今日は業者の選定だけにしとけって言ったじゃない」


「いやあ〜……相手が買取りを急いでるみたいでさ。それで仕方なく」


「…………ま、いいけどさ。で、どうなったの?」


「ん。交渉の末に相場の倍で買い取らせた」


 ぶふーぅ!!


 後ろでエイミアがジュースを吹き出す。ていうか、汚いわね。


「倍って……どうやったらそうなるのよ?」


「焦ってたみたいだから、値段を徐々に吊り上げてやったの。最終的に他の業者の存在をチラつかせたら、半泣きで今回の額を提示してきたわ」


「……で、それでオーケーしたのね?」


「ええ。向こうは『覚えてろ』なんて言ってたけど、知った事ないわ」


 ……ちょっと待って。


「あんた、取引する場所をここに指定した?」


「え? そりゃそうでしょ。向こうも『品物を一度見てみたい』って言ってたし」


 イヤな予感、ビンゴ。


「ニーナさん、もしかしたら賊が押し寄せてくるかもしれないから」


『もう団体さんがいらっしゃいましたよ。全員お陀仏(ねんね)してもらいましたが』


 ちぃ、敵も早い!


「エイミア、周りを警戒。怪しいヤツが近寄ってきたら、迷わずに黒焦げにしてやって」


「わ、わかりました」


「え? え?」


「紅美、この手の連中はね、交渉がうまくいかなかった場合は実力行使してくる場合があるのよ。『覚えてろ』なんてセリフ吐いてくるようなヤツは、その可能性が特に高いって覚えておいて」



 一旦ロッカーに戻ることにする。魔法の袋(アイテムバッグ)を奪われたら最悪だ。


「……ん? 女子更衣室に複数の気配。しかも男の気配ね」


 女子更衣室に男の気配ってだけで死刑確定。


 ばあんっ!


 ドアを蹴破って突入!


「な!?」

「きゃああああああああっ!! チカンヘンタイゴーカンマーー!!」

 ばきっ! どかっ! めごっ!

「ぐはあっ!」「うげっ!」「げはあっ!」


「ついでにおしおキィィック!!」

 ずむっ! ずむっ! ずむっ!

「「「ぎゃあああああああああああっ!!」」」


 全員【いやん】を押さえて昏倒する。ていうか、これでも生温いくらいよ。


「とりあえず拘束するわ。紅美も手伝って」


 キュアガーディアンズ御用達の簡易拘束具で手足を固定する。簡単に言うと電気ショック付きの手錠ね。


「ち、畜生……」


 まだ痛いらしく、泣きながら悪態をついている。ていうか、泣いてる時点で迫力もクソもないんだけど。


「さーて、あんた達はどこのどなたなのかしら?」


「……へっ、誰が言うかよ」


「あらそう」


 リモコンで電気ショックを起こす。


「うぐ……! ふ、ふん! この程度かよ!」


 あらら。電気ショックには耐性があるか。

 なら。


「紅美、この三人の中でタイプなのは?」


「はあああっ!? い、いきなり何よ!」


「いいからいいから。あまり深く考えなくていいわ」


「な、なら……右側のワイルド系かな」


 ふーん。これが好みなの……ね!


 ずむっ!

「あぎゃああああああああああっ!!」


 私の宝刀(あし)が煌めき、男から男としての機能を永遠に失わせる。


「……何で私のタイプの人を?」


 気にしない気にしない。何かイラッとしただけ。


「……さて、残る二人はこの痛みには耐性があるのかしら。試してみようか?」

「「申し訳ございませんでした!」」


 あっさりと観念する。最初から素直に吐けば、こんな面倒なことにはならなかったのに。


「それじゃ雇い主と私を狙った理由を吐きなさい」


「はい! オレ達は下着ドロボーで、この更衣室にはその為に入りました! 雇い主はいません!」


 絶対にウソだな。他のロッカーには手を出してないじゃない。


「なるほど、下着ドロボーね。知ってるかしら、この星では下着ドロボーは裁判なしで死刑って決まってるのよ」


「は、はあ?」


「というわけで執行」

 ずむっ!

「ひぎゃあああああああああああっ!!」


 白目を剥いて気絶する。ショック死しなきゃいいけど。


「さて、残るはあなた一人。どうする?」


「ひ、ひぃぃ! ど、どうか男の機能(いのち)だけは!」


「なら雇い主と更衣室に忍び込んだ目的を話してくれる?」


 私の笑顔に、男はひきつった笑顔を返した。



 洗いざらい白状したので、単なる下着ドロボーってことで警備隊に引き渡した。ま、男の機能(いのち)はいただきましたが。


「……サーチ、足をよく洗っておいた方が」


 そうね。またつまらぬモノを蹴ってしまった。


「とりあえず泳ぐのは延期。ホテルに戻って敵襲に備えましょ」


「残念ですけど仕方ありませんね」


「……ごめんなさい、母さ……サーチ。私が無茶をしたばっかりに」


「無問題無問題。おかげで高く売れそうなんだからさ。こうなったら意地でもこっちの言い値で買わせるわよ!」


 そんな会話をしながら狭い廊下を一列で歩いていたとき。


「……うりゃあ!」

「きゃあ!」


 ドアから飛び出してきた男が紅美を捕まえ、首筋にナイフを突きつけた。


「こ、この女を殺されたくなければ大人しくしろ!」


 しまった、油断してた……!


「コーミちゃん!」

「動くなっつってんだろ!」


 紅美を盾に取られて、エイミアも動けなくなる。


「わ、わかったわよ」


 私は両手を挙げて数歩下がった。エイミアも私に倣う。


「よ、よーし、大人しくしてろよ。売りつけようとしたレアメタル、全部オレ達の船に積み込むんだ!」


「……わかったわよ。なら紅美を解放しなさい。私が代わりに人質になるから」


「だ、誰が〝闇撫〟を人質にするか! だが……ヘタに手を出されても厄介だな。おい、脱げ」


「はい?」


「水着を脱げって言ってるんだ! 素っ裸で歩かされりゃ、流石の〝闇撫〟も抵抗できないだろ!」


「はいはい」


 私はあっさりと水着を脱ぎ捨てる。


「え!? お、おほ」


 男の視線がおもいっきり逸れる。


「今よー、紅美」

「え……ぶぎゃ!」


 紅美の肘が一閃、鳩尾に突き刺さる。


「はあああっ!」

 ずむっ!

「ほぎゃあああああああああああっ!!」


 ホンニャン直伝のカンフーキックが股間を直撃。勝負はあっさりと決まった。



 私達を襲った連中は全員捕縛された。指示した業者も捕まり、一件落着だ。


「母さ……サーチ、私の為にごめんなさい」


「何が?」


「私が反撃する隙を作る為に……裸を……男に……」


「ああ、無問題無問題。全然平気だから」


「へっっ!?」


「コーミちゃん、サーチは露出狂だからうぐふぉ!?」

「うるさい!」



 今日最後の蹴りの被害者は……エイミアでした。

紅美も強いです。

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