第五話 ていうか、犯罪都市にプール?
ホテルは結構小綺麗だった。犯罪者の巣窟にあるとは思えないくらい。
「……意外ね」
「……意外ですね」
「……意外だな」
ただし、部屋は三人で一部屋。ま、これはだいぶ割り引いてもらってるから文句はない。
「とりあえず……どうしようか?」
「買い出しは……明日にしませんか? 少し疲れました」
「そうだな。そこまで急ぐ必要はないんだし」
そうねぇ……。
「だったら温泉に」
「「ないない」」
そりゃそうか。火山活動がない以上、温泉が湧くはずもないし。
「……でもシャワールームしかないから味っけないし」
「ならプールとか無いんでしょうか?」
あ、プールか。それならいいかな。
「……あるか?」
「このホテルにはなくても、他にはあるでしょ。もしかしたら巨大なプールがあるかも」
「「ないない」」
……だろうね……。
「ございますよ」
試しにホテルの従業員に聞いてみたら……あったよ、おい。
「ホテルを出て十分ほどで『ダイモスわくわくビーチランド』に到着します」
ビーチランドねえ……ま、ちょっと広いくらいのプールがある程度だろうけど。
「わかった、行ってみるわ」
「行ってらっしゃいませ」
言われた通りに道を進む。ていうか、あちこち『ダイモスわくわくビーチランド』の看板だらけだから、絶対に迷うことはない。
「みんな水着は持ってるの?」
「私はあります」
「私はないから現地で買うよ。流石に売ってるだろ」
……ん?
「リル、泳げないでしょ?」
「大丈夫。ひなたぼっこするだけだよ」
猫は暖かい場所が大好きだしね。
「……つーかよ、私の目の前に見えてる建物って……どう考えてもウォータースライダーじゃねえか?」
そうなのよね。私にも見えるのよ、ウォータースライダーらしき青い管が。
「プールにウォータースライダーがある施設って、結構多いですよ?」
そうなの?
「言っちゃ悪いけど、ダイモス程度の規模の街でそんな需要があるのかな?」
「ま、なんせ犯罪者の街だ。年寄りが余生を過ごすって場所じゃねえから、住人も年齢層が低いんじゃないか?」
……確かに。それならウォータースライダーの一つくらいはあるか。
「よーし、せっかくだから滑ってみよー♪」
「行きましょー♪」
「え、えええ!?」
リルも当然強制なのだ。
「「「…………」」」
いやはや、予想外だった。
「ようこそ、ダイモスわくわくビーチランドへ!」
あまりの規模に圧倒される。入場してから周りにあるのは、プール、プール、プール。
「……流れるプールは当然のようにあるわ」
「波が立つプールもありますね」
「…………子供用の浅いプールもあるな」
あ、しまった。リルに子供関連の施設を見せるのは酷だったわ。
「……ごめんなさい。リルの気持ちを全然考えてなかったわ」
「ん? ああ、ターニャのことか。それならダンナに頼んできたから大丈夫だよ」
「へ?」
「念のために連絡してみたら、ダンナの額にはまだ例の模様が出てなかったんだ。で、事情を話したら『ターニャは僕が面倒見るから心配要らないよ、頑張って』って」
ええダンナさんやな!
「……サーチ、額に模様が出る基準は何なんでしょうね?」
「わかんない。私の場合は紅美には出てないけど、リルの場合はターニャちゃんに出てるわけだから、血の繋がりは関係ないみたいね」
「……おおい、止め止め! 辛気くさいことは考えるの止めよ! ちょっとは羽根伸ばさないと持たないぞ!」
……リル……。
「……そうね。そうしましょう。まだまだしなくちゃいけないことはたくさんあるんだから、今日くらいは遊び倒さないと!」
「わかりました! 今日は何もかも忘れて楽しみましょう!」
……リルに気を使わせちゃったなぁ……まだまだだな、私も。
「ていうか、マジで広いな!」
水着に着替えてから案内図を見てみたけど、あまりの規模に呆気にとられる。
「こ、これって……ダイモスの半分以上の規模よね!?」
ダイモスわくわくビーチランドのスライダー、園内は元より街中・岩壁の中・果ては宇宙空間まで経由する構造になっている。
「……プールの数は大小合わせて百以上、スライダーの総延長7㎞って……」
いくら何でもやり過ぎでしょ。ていうか、これだけの規模を支える需要はあるのかしら?
「サーチ、お待たせしました」
「はーい……って、また大きくなりやがったわね……」
また水着を新調したって言ってたけど、要はサイズが合わなくなったのね。
「サーチは………………変わってませんねぶべしっ!?」
うるさい!
「み、水着の時に腹パンはちょっと……」
「うるさいうるさい! 何なら膝にしてあげましょうか!?」
「死にます! 本当に止めてください!」
そんなやり取りをしていると、背後で大〜〜きなため息をつくヤツがいた。
「相変わらず騒がしいな、お前ら」
「何よ、リルに言われたくない…………ていうか、あんたは変わらないわね」
「ど、どこを見て言ってんだよ!」
「胸」
「即答かよっ!! つーかな、私だって一時期はデカくなってたんだぞ!」
「全部ターニャちゃんに吸い取られたんでしょ? 私だってそうだったからわかるわよ」
「私だってって……へ?」
「だから、前世の」
「あ、ああ、コーミか。そういうことか」
「私も前世ではあんたに負けず劣らずだったけど、紅美を育ててる間柄だけは大き」
ガッ!
「……何が負けず劣らずニャんだ?」
「そ、そりゃあ……ふんっ!」
「あニャ!?」
リルを投げ飛ばして、距離を空ける。
「胸に決まってるじゃないの! バーカバーカ!」
「ギニャアアア! 言ったニャアアアアア!!」
リルの全身が毛に包まれて……って、やべ。≪獣化≫だ。
「アニャアアアアアアアアアア!!」
「ぶ、武器武器……あ!」
しまった、魔法の袋はロッカーの中だ!
「ちぃ! これしかないか!」
いつも太もものベルトに差しているナイフを構える。
「そんニャニャまくらで、私の攻撃が受けられるかニャ!?」
凄まじいスピードで肉薄するリル。鋭い爪をナイフで受ける。
ギャリリ! ビシバキバキ!
あっという間にヒビだらけ。けど一撃受けきれれば十分!
「いっけえ! おしおキィィィィィック!!」
どげしぃ!
「ギニャ!!」
脇腹に蹴りが入り、リルがくの字になる。
「くらえっ! 低空からのかち上げドロップキィィィィィック!!」
ずどんっ!
「フギャアアアァァァ…………」
……どっぼおおん
ドロップキックで吹っ飛ばされたリルは、プールに着水し。
「あ、足がつかないニャ! 泳げニャいニャ! 助けてニャ!」
やっぱり溺れた。
「ホントに変わってないわねぇ、リルは」
「た、助け、助けてニャアアアァァァ…………ぶくぶく」
星の半分以上がプール関連施設です。




