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第四話 ていうか、犯罪都市ダイモス。

「……どうしよっかな〜」


 ん?


「どこにすっかな〜」


「リル、どうしたの?」


「あ、いやな。私達が指名手配されてるってのはどこまで知れ渡ってるのか、と思ってな」


 何よ急に。


「それによってどの星に向かうか、が決まるだろ」


「あぁ、それが言いたかったのか……そんなの宇宙中に伝達されてるに決まってるじゃない」


「……やっぱそうか。ならどこに向かえばいいんだ?」


「あ、言ってなかったっけ。火星に向かって」


「火星!?」


「ただ、火星は火星でも、二つあるお月様の一つ、ダイモスへよ」



 火星に近づいた私達は、ニーナさんに頼んでレーダー探知を阻害する結界を張ってもらう。


「何でダイモスに向かうんです?」


「内側のフォボスよりは察知されにくいからかな、ダイモスには秘密都市があるのよ」


「は?」


「海賊だって犯罪者だって船に乗ってるんなら、必ず点検整備の必要はあるでしょ。それに生活物資も調達しなきゃならないし」


「つ、つまり犯罪者の需要のためにできた街があるってのか?」


「まあね。私もたまたま知っただけだから、どこまでホントかわかんないんだけど。でもあるんだったら、それに越したことはないでしょ?」



 ダイモスが近くなると、三つの岩が近づいてきた……っていうか、偽装した宇宙船じゃね?


『サーチ、秘匿通信です』


「……繋いで」


 ニーナさんがダイレクトに繋いでくれた。だけど映像はなく、途切れ途切れの音声のみ。


『ガガ……お前のバストはAカッブ……』


「失礼ね。私はE以上あるわよ」


『……ようこそ、犯罪都市ダイモスへ。案内する』


 岩にしか見えない宇宙船が引き返していく。私達はそれに続いた。


「……サーチ、失礼な事言いますけど……Eもあります?」


「ホントに失礼ね。ないわよ。今のは合言葉よ」


「あ、合言葉!?」


「今月の合言葉は今のヤツ。月毎に違うのになるそうよ」


 たまたま知った情報だったから、今月中に来れてよかったわ。


「さーて、私達もいよいよ本格的な犯罪者デビューよ」



 ダイモスに近づくと、クレーターの底が左右に割れる。


「なるほど、あそこが街への入口なのね」


 岩に誘導されて格納庫に入り、空いてる場所に船を着陸させる。


『……さて、ここなら少々ヤバい会話をしても問題ない。キュアガーディアンズの裏切り者が我々に何の用かな?』


 裏切り者、ね……端から見たら私達はそう見えるのか。

 だったらそのように振る舞うのみ。


「裏切り者? 私達は利益を追及した結果、宇宙海賊のほうが儲けが大きいと判断しただけよ。ケチなキュアガーディアンズには未練はないわ」


 実際ケチだったし。


「……ケチで悪かったわね」


「誰も紅美のことは言ってないわよ!」


「依頼の報酬額、決めてたの私の部署だし」


 すんません。


『……つまり裏切り者という謗りを受け入れると?』


「裏切ったんじゃない。こっちから縁を切ってやったのよ」


『……そこまで言うならば、キュアガーディアンズの機密情報を洩らす……くらいはできるな?』


「そ、それは……!」


 何か言おうとした紅美を制止し、大きく息を吸うと、ハッキリと。


「お断りよ」


 拒否した。


『……何故だ? 未練はないのだろう?』


「未練はないわ。でも恨みもない。縁を切ったとはいえ、元々仲間だったヤツらを売るほど私は落ちぶれてない」


『……我々からすれば、キュアガーディアンズのような正義の味方を気取っている連中が一番嫌いでね』


「あら、気が合うじゃない。私も正義の味方気取りは大っ嫌いよ」


『ほう? 元々の仲間を売らないお前がキュアガーディアンズを嫌いだと言うのか?』


「……あのね、キュアガーディアンズは正義の味方なんかじゃないわよ。悪く言えば、金儲けが目的の傭兵の団体でしかないわ」


『傭兵の団体だぁ? その金儲けが好きな連中にどれだけ俺達が殺されてきたのか、知ってて言ってんのか!?』


「あのね、狩られる覚悟もなしで宇宙海賊なんてやってんじゃないわよ。それにキュアガーディアンズが宇宙海賊を殺したのは依頼だったからであって、正義を振りかざすつもりはみじんもないわよ」


『ほぉう……ならキュアガーディアンズも俺達と同類だってのか? 俺達は金が欲しいから船を襲う、お前らも金が欲しいから海賊を襲う』


「そうよ。見事な需要と供給じゃない」


『じゅ、需要と供給…………は、ははは、はははははははは!! いい! いいぜ! 気に入ったぜ!』


「気に入っていただけたようでよかったわ。ならさっさと中に入れてよ。レディをいつまでも外で待たせんじゃないわよ」


『あははは、そうだな……おい』


 通話相手が何か指示すると同時に、格納庫内にタラップが搬入された。



「ようこそ、悪党の吹き溜まりへ」


「わざわざお出迎えどうも」


 三十代くらいの男が私を出迎えた。見るからに「アイアム海賊」って感じの顔だ。


「ワシはジュ・ティム。犯罪都市ダイモスの市長だ」


 …………ん?


「ジュテーム?」


「いや、ジュ・ティム」


「……名前だけでセクハラできるってすごいわね」


「よく言われる。海賊にまで転落したのも名前が原因だしな」


 なら改名しろよ。ていうか、まともな名前にしてやれよ、親。


「ま、名前で呼ぶなり市長と呼ぶなり好きにしてくれ」


「……市長って呼ばせてもらうわ」


 さすがにこの人に愛してる(ジュテーム)とは言いたくない。


「で? 何の用でこの掃き溜めに来たんだ?」


「船の外装を」


「……成る程な。このままなら〝闇撫〟の船だってバレバレだからな」


「あとは積み荷の換金、船の改装が終わるまでの宿泊」


「わかった、全て手配しよう。だが高くつくぞ」


「積み荷が売れれば十分払えるわ」


「……積み荷は?」


「レアメタルと武器の部品」


「わかった。後で業者を呼んでやる」


 ……よし、うまくいった。あとは宿泊先次第かな。



 ジュ・ティ……じゃなくて市長さんから紹介されたホテルにタクシーで向かう。


「……かなり広いですね」


「ま、だけどダイモス自体は直径12㎞だからね、そこまで大規模な街ではないわよ」


 市長さんの話だと、人口は一万を少し越えるくらいだそうだ。


「ただ犯罪都市なんて言われてるけど、治安はしっかりしてるみたいね」


 街を見ててもキレイだし、ガラの悪い連中も少ない。警察みたいな組織があるのだろう。


「そうだよ。この街を仕切ってる組織がしっかりしてるんでな、犯罪率は低いぜ」


 タクシーの運転手さんに言わせれば、火星よりもよっぽど安全らしい。


「ただ組織に逆らう真似をすれば、タダでは済まないがな」


 犯罪組織が仕切ってる以上、罰則は容赦ないだろう。そりゃ犯罪率も低くなるわな。


「ヘタな街より快適だぜ」


 ……何とも皮肉な話だこと。

明日、犯罪都市の全貌が明らかに!

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