第三話 ていうか、初海賊!
「……サーチ、いたぞ。五分くらいで追いつける」
よーし。
「リル、このまま全速前進!」
「了解」
「エイミア、お客さんの姿が見えたら一発ぶち込んで。ほどよくね」
「は、はい。む、難しいですけど頑張ります」
「母さ……サーチ、今のところは軍もキュアガーディアンズも動いてないわ」
「オッケー。なら手早く終わらせちゃいましょ」
……やがて、船のレーダーに大きな反応が。
『サーチ、射程内に入りました』
「オッケー! エイミア、主砲発射用意!」
「は、はい!」
ニーナさんが照準を合わせてくれるから、エイミアに負担はない。
「えーい、発射!」
『え、待っ……!』
バシュゥゥ!
どうやらニーナさんが照準を合わせる前に撃っちゃったらしい。
「ちょっとエイミア、勝手に撃っちゃダメよ」
「そうだぜ。ま、照準を合わせる前だから、よっぽど当たらないだろうが」
ズズズゥゥゥン!
「……へ!?」
『あ、当たりました。相手の船のエンジンを直撃』
直撃って……それ、マズいんじゃ……。
『……相手の船から脱出ポッドの射出を確認。乗組員は逃げたようです』
……どがああああああああん!!
『……撃沈。木っ端微塵です』
……何とも言えない空気になる。
「……エイミア。何か言いたいことはある?」
「へ!? ま、まさか当たっちゃうなんて。あは、あはははは」
「笑って誤魔化せると思ってるのかああああ!」
「いいいいひゃいいひゃいいひゃい!」
「せっっっかくの獲物を! あんなに木っ端微塵にしちゃったら、海賊どころじゃないでしょうが! 単なる通り魔じゃないの!」
「いひゃいいひゃいいひゃい!」
「はぁ……サーチ、仕方ないから引き上げだな」
「……流石に可哀想だから匿名で救助要請しとくね」
リルと紅美がさっさと幕引きしてる間。
「こんのヤロ! こんのヤロ!」
「みょーーんんん! みょみょみょーーんんん!!」
私とエイミアのジャレ合いは続いていた。
「……サーチ、今度は大丈夫です!」
「じゃなくてエイミア、あんたは何もしなくていいから。ニーナさんが全部やってくれるから」
「え!? そ、そんな」
そんなって、お前は撃ちたいのか!
「今回こそ稼いでよ。本当に火の車なんだから」
……竜の牙折り海賊団結成から一ヶ月、見つけた獲物を全て撃沈しちゃってるようでは、儲けがあるはずがない。相手の乗組員が全員無事だったのがまだ救いだ。
「『謎の通り魔事件多発』なんて大騒ぎになってるから、警備隊もピリピリしてるみたいだな。たく、やりにくいったらねえぜ」
「ご、ごめんなさい……」
「というわけだから、今回は私とリルとで相手の船に殴り込んで、内部から制圧するわ」
「コーミ、エイミア、留守番頼むぜ」
「わ、わかりましたよぅ」
「……はーい」
不服そうなエイミアの返事と、端末に夢中な紅美の気のない返事が艦橋に響いた。
「あっはははは! 大量大量!」
一時間後。無事に強奪を終えた私とリルは、意気揚々と凱旋した。
「お帰りなさい。どうだったの?」
「レアメタルに宇宙船の部品。大当たりだったわ」
全部魔法の袋に収納しました。
「これ全部闇市場で売りさばけば、当分の間は資金には困らないわよ」
「マジで!? やったあ! これで保存食ともおさらばね!」
最近は保存食しかなくて、ずっと乾パンや干し肉で凌いでいた。ちなみにこの保存食は前の世界ので、袋の底に眠っていたヤツだ。
「現金化したらいろいろ作ってあげるわよ。ニーナさん、引き上げるわよ」
『わかりました』
出番がなくて剥れていたエイミアも笑顔になっている。やっぱり保存食ばかりで気が立っていたのもあるかな。
「よーし、豪華に牛肉買い込んで焼肉パーティだああ!」
「「「やったあああ!」」」
浮かれる私達。そのとき、急に悪寒が走った。
「……! ニーナさん、結界を!」
『え? あ、はい』
私の急な言葉にニーナさんが反応してくれたのが幸いした。
ブゥゥゥン
ズズズゥゥゥン!
「きゃ!?」「わ!?」「な、何!?」
やっぱり!
「総員、戦闘態勢! 敵襲よ!」
「ちい、仕留められなかったか!」
「それにしても、最新の光学迷彩システムは凄いですな」
「全くだ。この距離まで近付けるんだからな」
「一斉攻撃! 一気に海賊を殲滅するぞ!」
「「「了解!」」」
「……軍の光学迷彩か。危なかったわね」
「つーか、よく気づいたな」
「ん、なんとなく殺気を感じて」
「……いよいよサーチもバケモノじみてきたな」
失礼ねっ。
「まあいいわ。エイミア!」
「は、はい!」
「遠慮はいらないわ、全部撃沈するつもりで撃っちゃって」
「え、えええ!? て、敵が見えないのに!?」
「いいからいいから。適当に撃ちなさい」
「は、はあ……?」
「ニーナさん、リル、私達は全力で回避するわ。頼んだわよ!」
「『了解!』」
「エネルギー充填完了!」
「よし、主砲斉射!」
ドドドオオオン!!
「……なっ!?」
「どうした!?」
「す……全て回避! 敵艦健在!」
「何だとぉ!?」
「て、敵艦より砲撃! 回避できませぇん!」
「な、何故だ! 光学迷彩があるはず! 敵が我々を察知できるはずが……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『爆発が起きました。敵艦を沈めたようです』
「あ、当たっちゃった……!」
「いいわよ、エイミア! 今回はガンガン当てなさ……リル、左へ回避!」
「おうっ!」
『補助スラスターを起動します』
リルの的確な操縦とニーナさんの補助で、ギリギリで敵の砲撃を回避。
「紅美、エネルギー残量は!?」
「あと一時間はいける!」
よーし!
「このまま畳み掛けるわよ! あと二、三隻叩いてから離脱するわ!」
「「「『了解!』」」」
「て、敵艦急加速! 離脱する模様です!」
「何だと!! 追え、追うんだ!」
ズズゥン!
「な、何だ!」
「き、機雷です! 宇宙機雷が大量に……よ、避けられな……わぁぁぁぁぁ!!」
……ズゥゥン……
「……機雷が役に立ったみたいね。ニーナさんが宇宙機雷を積んでてくれて助かったわ」
『私もまさか役に立つ日が来るとは思いませんでした』
さーて、無事に売れるモノを調達できたし、軍も撃退したし。
「どこかの星で買い出しね。あとはこの船の全面改装」
『え!?』
「とりあえず見た目は変えないと、ね」
『そ、そうですね。確かに……』
それにしても。
エイミアは何であんなに砲撃を当てられたのかしら?
初海賊で軍もブッ飛ばしちゃいました。




