第一話 ていうか、今度は砂漠!
長い題名…。
あ、新章です。
「「「暑い……」」」
……これで何回言ったのやら……ここは砂漠のオアシス。昼間の暑い中はあまり移動に向かないため、外套で日陰をつくって休んでいた。
「ねえリル……」
「……んだよ」
「……毛の部分暑くない?」
リルは猫の獸人だけあって、ちょこちょこと毛に覆われた部分がある。
「今さらだな……それ以上に今聞くことか?」
「今聞かないとまた『暑い』って言っちゃいそうだから」
「すでに言ってるじゃねえか。あと質問の答えだけど……暑いよ! 左手なんかもろ猫の手だから、手袋年中はめてるようなもんだよチクショウ!」
……ちょっとリルのテンションがおかしい。
「……ねえ、サーチ……」
今度はエイミアか。
「あっちに街が見えます……ふ……ふふ……」
これあかんわ!
「あ〜……黄色いお花畑でマーシャンが手を振ってる……」
エイミア落ち着きなさい! ていうか、黄色いお花畑って……マーシャンまだ生きてるからね。
「これはキケンかも! リル、エイミアの足持って!」
「ほらえいほう!」
なんだよその掛け声! あんたまでおかしいじゃない!
「いくわよリル! いち、にいの……さん!」
ポイッ
……どっぼおおおん。
「おー……よく飛んだなエイミ『どんっ』アああっ!?」
……じゃばああん
「わあああ! 何ですかこれ!? 冷たい冷たい!」
「ぬ、濡れちゃうニャ! 足がつかないニャ! 助けてニャ〜……」
まったく……世話が焼ける。
なぜ私達がこんな……砂漠のど真ん中にいるかと言うと。
……この砂漠を越えないとアタシーに行けないからです……ホントは海路で行くルートがあるんだ。あるんだよ。あるんだけれども。
「いらっしゃ……げっ! お嬢ちゃん達……あの時の!?」
……まさかエイミアが船を沈めた船主さんの船に遭遇するとは……当然ながら乗船拒否され、ついでにエイミア・ドノヴァンの名前がしっかりとブラックリストに載った。
「なぜですか!? 私なんにも悪いことしていませんよ!」
「……乗った船を沈めるような危険な冒険者、自分の船に乗せたいなんて誰が思うよ……」
……確かに。
結局その場は諦めるしかなかったわけだけど……。
「陸路は?」
「乗合馬車が稀に出るが……あとは歩きだな……」
……稀にって……「たまに」すら超える頻度の乗合馬車って何なのよ?
「仕方ないわね……裏ルートでいきますか」
つまりは、密航。
エイミアもさすがに砂漠を歩くのはイヤだったらしく、渋々同意した。
色々あったけど、船にナイショで乗り込んで荷物類に身を潜める……まではうまくいっていたのだ。
ただ……。
カサカサッ
「!!!! ぎゃあああ! ゴキブリーー!!」
「ちょっ! エイミア落ち着き」
どがあああんっ!
……エイミアがフルスイングで≪雷壁の鎧≫発動の釘棍棒を振り下ろし……ゴキブリもろとも船底をぶち抜いた。
ある意味密航だったから良かった(良くはないが)ようなものの……たぶん沈没の原因については後々まで憶測が飛び交うんだろうな。
ちなみに全員無事だったそうだ。それだけはホッとした。
「エイミア……戦歴に『船二隻』って書き込めるわね……なかなかいないわよ、棍棒で船を沈めた人って……」
「あわわ……! サーチが怖いです〜!」
「二回も沈没に巻き込まれて、怒らないバカがいるかああ!!」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
で、結局。
陸路しか手段が無くなり……。
「ホントに暑いわね……あ、また言っちゃった……」
……現在に至る。
「がぼがぼ……助けてニャ助けてニャ助けてニャー!」
「リルしっかりしてください! 足つくどころか腰まで水無いですから!」
二回も沈没に巻き込まれれば、水嫌いも加速するわよ。
「仕方ないわねー……ほら、手を伸ばして」
「水イヤ水イヤ溺れるニャー!」
こっこら!
わっ……!
ざっぱーん!
……私までびしょ濡れじゃない!
あーもー暴れるなっつーの……こらこら!
「エイミア! ちょっとおとなしくさせて!」
「えっ!? ええ!?」
エイミアが顔を真っ赤にして狼狽えた。
「わ、わかりました……! リルごめんなさい!」
そう言うなりエイミアは、暴れるリルに正面から抱きついた。
あんた何する気!? 羽交い締めか何かで捕まえてくれればいいのよ!?
「ニャ、ニャンニャ? ニャンニャふぐっ!?」
うわっ……エイミアがリルに……! 確かにリルおとなしくなったけど……そこまでしなくても……。
びりびりぃっ!
「ふぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぅっっ!!!」
きゃっ! リルがスパークした?
ざぷんっ
ぷかー……
……リルは口から煙を出した状態で失神していた。
「ふぅ〜……おとなしくしましたよ」
……ありがと。
ここまでしなくても良かったんだけどね。
「それにしても……何でわざわざあんな事して静電気を流したの?」
マーシャンに染まってきたのかな?
「……サーチ……今すっごく失礼なこと考えてませんでした?」
考えてたけど、あんたも十分失礼だよ。
「……後できっちりとお話しますからね!」
はいはい。
「……あんな事したのは、リル以外にせいでんきが流れないようにするためです。これなら水の中でも大丈夫です!」
…………あんたなりに考えてたのね……それは偉いけど……。
「…………あんた誰でも構わずする気?」
「……考えてませんでした……はうぅ……」
それとあんな事ができる距離まで近寄るなら、殴ったほうが早いし。
「まあ……奥の手としては使えるかな……」
私なら、だけど……。
「い、嫌です!」
ならやるなよ……。
太陽もまだまだ元気。
だからまだ動けない。
……それ以上に。
「……まだ乾きません……」
「……誰のせいだよ、誰の……」
「リルのせいでしょ!」
「後ろから押したのはサーチだろ!」
竜の牙折り全員揃って素っ裸だから。
さっきまで着ていたビキニアーマーからインナーまで砂漠の乾いた風に晒されている。
「……やめましょ。言い争いしても体力がもったいないだけだし……」
「……不毛だしな……」
「砂漠だけに?」
「「誰がうまい事言えと?」」
……あーもー。また体力を消耗する。
……まだ日も高いし……。
「……もー! 耐えられない!」
私は走って水場へと飛び込んだ。
「どうせまだ時間あるからさ。水浴びしましょうよ!」
エイミアとリルは顔を見交わして笑い。
「……はい! わかりました!」
「あ、足だけなら……ニャア!?」
……砂漠の一角にある小さなオアシス。そこでは楽園のような光景が広がっていた。
……オアシスを通りかかった隊商にバッチリ見られてることにも気づかず。