第一話 ていうか、狂い始める歯車なんですよね……
いきなりですが、急展開です。
プルルルル……プルルルル……
『……はい』
「もしもし、ヴィー? 私だけど……」
ちょーっとズルはしたけど、こうして必要なモノは全て集まった。
「……ああ……長かった……長かったのじゃ。ついに妾の願いが現実のモノとなるのじゃ……よよよよよ」
マーシャンは涙が止まらないらしく、ずっっっと泣きっ放し。ていうか、よよよっていつの時代の泣き声だよ。
私とマーシャンは神命の宝玉復活のため、いんふぇるのを離れている。マーシャン曰く『万が一の可能性もあるでの』とのことだったので、一応離れたのだ。
「ていうかさ、万が一って……爆発でもするの?」
「うむ……まあ余程大丈夫じゃ」
安心できねぇよ!
ぴんぽんぱんぽーん♪
……?
「何、今の……」
「……呼び出し……かの?」
……さーちゃん?
へ?
「今の声は……院長先生?」
「ヒ、ヒルダか」
聞こえてるよね? 聞こえてる前提で話すよ?
「な、何なのよ……」
「さ、さあ……」
イヤな……予感がする……。
「ニーナさん、最大級の結界張ってくれない?」
『はい?』
「早く!」
『わ、わかりました』
……さーちゃんが悪いんだからね。サーシャ・マーシャなんかに味方するから。世界を危険に晒すから。だから、こんな手段をとるしかないんだからね。
「……! ニーナさん、まだ!?」
『……≪勇者の盾≫、展開!!』
キィィィン!
さーちゃんが……悪いんだからね……。でも、できれば……心が壊れないでほしい。
……ォォォォォオオオオオ!!
『……! 何かの強大な波動が! 二人とも、伏せてください!』
ちぃぃっ!
『うわ、何を!?』
私はマーシャンを押し倒し、自分自身も伏せる。
ゴゥオオオオオオオオオオオオンンン!!
……この瞬間……。
私は大切なモノを失った。
「……う……」
……わ、私……生きてる……?
「……ニーナさん、大丈夫?」
『はい。サーチは無事ですか?』
「ええ。一体何が起きたのかしら」
「……ま、まさか……今の波動は……」
ん? マーシャン?
「どうしたの?」
「今の波動……≪万有法則≫を使った時のモノと似ておる……」
はあ?
「……世界が改変された時と同じ波動……」
ま、まさか……アカデミコがこの世界に作り変えたときの!?
何かが起きている。それを感じた私は、急いでいんふぇるのに戻ることにした。まずはみんなと合流だ。
「とりあえず神命の宝玉は後回しじゃ。ヒルダの奴、何をやらかしたのやら」
「そうね……まずは現状を把握しないと」
いんふぇるのに近づいているんだけど、イヤな予感が胸を離れない。何でだろう。
ヴィーッ! ヴィーッ!
『サーチ、砲撃です! 衝撃に備えてください!』
え……!?
ゴゴゴオゥン!!
「うわわ!? ニ、ニーナさん、被害は!?」
『結界が間に合いました。皆無です』
「誰よ、いきなりぶっ放してきたのは!?」
『そ、それが……』
「? ど、どうしたの?」
『…………サーチ、気を確かに持ってくださいね』
「? な、何よ?」
『…………今の砲撃は……船の底抜きからです』
……………………………………は?
「ニ、ニーナさん? 何をバカなことを言ってるの?」
『……通信が入っています。船の底抜き……ヴィーからですね』
ヴィーが?
「いいわ、繋いで」
『……はい』
まさか……まさか……よね?
『……サーチ……』
「ヴィー。あんた、何か言うことある?」
『……サーチが悪いんですからね。世界を危険に晒すのだと知っていたら……全力で止めました』
は?
『何故私に相談してくれなかったのですか……何故』
ヴィ、ヴィー?
『連合軍はサーチと陛下を指名手配しました。私達もキュアガーディアンズである以上、指名手配犯と同じパーティではいられません』
そ、そんな……。
『サーチ……あなたとは……お別れです』
「じょ、冗談……よね?」
『……楽しかったです……サーチ…………だけど……さようなら』
「ヴィー!」
ヴンッ
…………。
「……サーチ……おそらく……」
「わかってる。これが院長先生が仕掛けてきたことなのね」
溢れそうな涙を必死に堪える。院長先生はおそらく偽物の≪万有法則≫を使って、私とマーシャンを……孤立させたんだわ。
全宇宙から。
「…………院長……先生……!」
ガッ!
怒りに任せて椅子を蹴り飛ばす。
「サ、サーチ……」
荒く吐き出していた息を整えて、涙を拭う。
「……間違いなく、パーティのみんなも敵に回ってる……一旦どこかの小惑星にでも身を寄せて、体勢を立て直すわ。ニーナさん、ワープ機関は使えそう?」
『あ、はい。一度くらいなら』
「わかった。どっちにしてもヴィー達と戦うわけにはいかない。ここは退散」
ズズゥン!
「こ、今度は何!?」
『!? あれは……キュアガーディアンズの船!? 船の底抜きを攻撃している!!』
は!?
何て言ってる間に、キュアガーディアンズの船から強制通信が。
『サーチ、早く離脱してください! あの無人艦じゃ長くは持ちません!』
そ、その声は!?
『すぐにワープを! 行き先は第二コロニーです!』
そう言って強制通信が切れる。
「わ、わかったわ! ニーナさん!」
『既にカウントダウンに入っています! 三、二、一…………ワープ開始!』
「……逃げ切ったみたいね」
誰にも使われていない廃コロニーの内部に隠れた私達は、ヴィー達から何とか逃れたようだ。
「……済まぬ……妾のせいで、サーチやニーナまで……」
「それを言っても始まらないわ。それより、あの声は……」
『サーチ、何者かが船に近づいてきます。一人です』
……やっぱり。
「マーシャンは中にいて。私が話をする」
船外に出ると、よく見知った顔があった。
「……久しぶりね」
「……サーチィ……サーチィ……」
「あんたも……敵なの?」
「サーチ……皆が……皆が……」
ん?
「突然……サーチを敵扱いしだして……私と……コーミちゃんが『そんなはずない』って言ったら……私とコーミちゃんも敵扱いされて……」
へ?
「ライラちゃんや……ぐす……ナタにまで攻撃されて……えぐ……」
あ、あんた……。
「怖かった……怖かったよぅ……サーチィ……」
「あんた……私を敵だと思わないの?」
「そんな事できるはずありません! 言ったじゃないですか! 私は、絶対に、サーチに味方するって!」
あんたは……あんたは!
「びええええっ!」
「エイミア……!」
あんたは……私の味方でいてくれたのね!
「サ、サーチ?」
「うぁ……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「……サーチ……」
私はエイミアにすがり付いて泣き続けた。いつまでも、いつまでも。
「ありがとう、エイミア。あんたがいてくれて、私は……!」
エイミアは味方でした。




