EP11 ていうか、エイミアの運転。
「はあ〜あ……」
紅美の遅刻は阻止したものの、航行免許証の取り消しは痛い。まあほとんどニーナさんによる自動運転だから、なくても大丈夫っちゃー大丈夫なんだけど。
「サーチ、お出かけだったんですか?」
格納庫から出たところで、エイミアとばったり会った。バッチリメイクしてるから、これからお出かけらしい。
「うん、ちょっと用事で出てたけど、今帰ってきたとこ。エイミアは?」
「私はお買い物です。色々と買いたいモノがあったので」
「どこまで?」
「火星だと遠いので、コロニーで済ませます」
「ん、わかった。気をつけてね」
私が立ち去ろうとすると。
がしぃ
「!? な、何?」
突然腕を掴まれて制止させられる。
「サ、サーチ、そ、その、私と一緒に」
「はあ?」
「わ、わた、私と一緒に……お買い物しませんか!?」
「エ、エイミアと? べ、別にいいけど?」
どうせヒマだし。気晴らしもしたいし。
「ほ、本当にいいんですか!?」
「いいわよ」
「や、やったあ! うふふふ」
私とお買い物行くのがそんなに楽しみなのかな。
「……ていうか、エイミアって航行免許証持ってたわよね?」
「? はい、持ってますけど?」
そうか、なら大丈夫ね。ま、エイミアには絶対運転は任せられないけど。
「サーチが運転してくれるんですよね?」
ギクゥ!
「あ、あんまり運転してないのも問題だから、今日はエイミアが運転ね」
「わ、私がですか!? 本当にいいんですか!?」
「え、ええ、た、たまにはね」
「わ、わかりましたー! やった、久々の運転だ♪ うふふふ♪」
嬉しそうにスキップしながら船に向かうエイミア。ここまでの展開で想像できた人もいたと思うけど、ご期待通りにエイミアは運転がヘタクソだ。正直な話、とっくに免停か取り消し食らってると思ってたくらいに。
「エイミア、アクセルが加速でブレーキが減速だからね。わかってる?」
「大丈夫大丈夫」
「……以前は逆だと思ってたでしょうに」
「そ、それは……! の、乗り越えた過去です!」
いやいや、免許持ってるヤツが間違えるようなことじゃないからね。普通は。
「……よーし、まずはハンドルを握って」
「エイミア、まずはエンジン始動」
「わ、わかってます! ニーナさん、エンジン始動!」
普通の車みたいにキーは必要ない。私達の声だけで大丈夫だ。
が。
「………………あれ? 起動しない?」
「もしもし〜? ニーナさーん?」
…………あ、思い出した。
「え〜と、エイミアのお尻には三ヶ所ホクロがある」
「なっ!? と、突然何を言い出すんですか!」
『はい、キーワードを確認しました。本当に宜しいので?』
「し、仕方ないじゃない」
勝手に運転しないよう、エイミアが運転席に座った場合はキーワードが必要になるようにセッティングしてたんだった。
「キ、キーワードって?」
何でもございません。
「……まあいいですけど。それじゃ発進します!」
エイミアがアクセルを吹かす……ってちょっと待て!
「エイミア! まだ格納庫の扉が開いてない!」
「え……きゃ、きゃああああああ!」
ごがぁあん!
『…………格納庫の扉が全壊。この船も軽微ですがダメージを受けました』
「ご、ごめんなさあい!」
……免許取り消しの私が運転した方がマシよね。できないけど。
「はい、そろそろアクセル踏んで」
「は、はい!」
ゴオオオッ! がぐんっ
「ふぎゃ! ぜ、全開に踏み込まなくてもいいから!」
「ふぇ!? ご、ごめんなさいい!」
あれから一時間。全く先に進まない。ていうか、あんたよく免許取れたわね。
『サーチ、自動運転に切り替えますね』
よろしくお願いいたす。
「ご、ごめんなさい……私、本当に苦手で」
「……ま、別にいいわよ。他に運転できるヤツもいるわけだし。ていうか、よく免許取れたわね」
「はい……最終的に≪蓄電池≫で直接操作しましたから」
…………ん?
「どういうこと?」
「車も船も、ハンドルやアクセルからの伝達は電気信号ですよね」
ま、まさかあんた!
「電撃で直接車を動かしたの!?」
「はい。おかげでハンドルやアクセルを使わずに合格しました」
あっきれた。普通に運転するよりよっぽど難しいじゃない……。
「……ちなみにだけどさ、もしそんな運転されたら……」
『間違いなく私はアウトです。ついでに船もアウトです』
うん、絶対にやらせるわけにはいかないわね。
しかし。
「ぎ、銀行強盗だぁぁぁぁぁ!!」
コロニーについて一時間と経たず、私は自分で決めたことを守れなくなる事態に陥った。
「サーチ、取り押さえましょう!」
「え、ちょっとエイミア!?」
私が止める前に、エイミアは銀行へまっしぐら。
ガチャアアアン!
「きゃああああああ!」
「銀行強盗が逃げたぞー!!」
私達の横を白い箱型の車が通りすぎていく。車番を控えて写真をパチリ。
「よし、証拠はバッチリだから、あとは警備隊に」
「サーチ、あれに乗りましょう!」
エイミアが指差したのは、白い軽自動車。
「どうやら犯人達が乗り捨てていったようです!」
「待って待って。あとは警備隊に任せ」
「鍵は付いたままです! 行きましょう!」
へっ!?
「非常事態です、ごめんなさい!」
バリバリバリ!
キュキュキュ! ブオオオン!
「ちょっと! 鍵は付いてるって自分で言ったじゃない!」
「鍵をどっちに回すか知りません!」
よくそんな体たらくで免許取れたな!
「行きます!」
ブオオオン!
「ちょっと、わわっ!」
思わず軽自動車の上に飛び乗っちゃった。
「加速します!」
バリバリバリ!
ブオオオオオオン!
って、子供が道路に!
「エイミア、避けてぇ!」
「問題ありません! はあああ!」
バリバリズドン!
ばぁぁぁぁぁん!
「はあああ!? ど、どうやってジャンプしたのよ!?」
「車はジャンプができるんです。知りませんでした?」
んなわけあるかぁぁぁぁぁ!!
「ていうか、前、前! 犯人の車に追いついたわ!」
「ギリギリまで詰めます! 後はお願いします!」
お願いしますって……ちぃぃ、やるしかないか!
「エイミア、もう少し前!」
すぐにガンブレードを装着し、空想刃を展開する。
「もう少し、もう少し……よし、今だ!」
私は箱型の車に向かってダイブし、ガンブレードを構える。
「初披露の必殺技! 秘剣≪竹蜻蛉・×≫!!」
がぎぎぎぃん!
空中に白い×の字が煌めき。
ギシギシギシ……バカァン!
箱型の車は見事に四等分されて、止まった。
「ご協力ありがとうございました!」
銀行強盗逮捕に協力したことで、車二台オシャカにしたことは勘弁してもらえた。
「ていうか、エイミアが軽自動車を電撃でパーにしなければ……」
「そ、それを言うならサーチだって車を四等分しなければ!」
賞金が貰えてたわね、トホホ。
似た者同士、気が合う。




