EP10 ていうか、送り迎え。
「うっぎゃああああああああああっ!!」
突然いんふぇるの内に響き渡った悲鳴に私は飛び起きる。今の声は……紅美!?
「何なの!? 何が起きたの!?」
「遅刻遅刻遅刻遅刻遅刻遅刻ちぃぃぃこぉぉぉくぅぅぅーー!!」
遅刻? スゴい勢いで廊下を走り抜けていった紅美を見送り、時間を確認する。
「……六時にもなってないじゃない。支所の業務ってそんなに朝早いわけ?」
人騒がせな……とグチってから部屋に戻る。すると。
…………ずざざざざっ!!
ドンドンドン!
『母さん! 起きてる!?』
な、何なのよ今度は。音的にスライディングしてきたみたいだけど?
「はいはい、起きてるわよ。ていうか、大声で母さん言わないで」
『あ、ごめんなさい……じゃなくて! お願い、助けて! 助けてください! 助けてぇぇぇ!』
ちょっとちょっと、タダごとじゃないわね。
フィーン
「い、一体どうしたのよ!」
「母さ……サーチ! 宇宙船操縦できるよね!?」
「え? あ、うん。そりゃキュアガーディアンズだし」
「だったらお願い! 送って! 母艦まで!」
……はい?
ゴオオオ……
「……つまり寝坊して、時間に間に合う定期船に乗り遅れたわけね?」
「うん。今日は半年に一回の全体会議がある日なのよ」
「……そんな大事な日に寝過ごすなんて……ホンニャンだったら半殺しだったわよ」
「…………だから慌ててるんじゃない」
「ん? ちょっと待って。まさかホンニャンもキュアガーディアンズに?」
「ホンニャン母さんはキュアガーディアンズじゃないわ。ただ母艦内で中華料理屋してるだけ」
まさかホンニャンが母艦にいたとは。
「……ていうか、それだけのことがわかっていながら、盛大に寝過ごしたあんたも大概よね」
「ぐっ! そ、それは言わないで」
普段より早めに航行しながら、焦りを隠さない紅美を宥める。
「焦らない焦らない。会議は何時から?」
「えっと、九時半から」
今は七時……十分間に合うわね。
「この船にはワープ機関がついてるから、もうちょい先のワープ可能空間に出ればあとはひとっ飛びよ」
「そっか〜………………って、ちょっと待って。ワープ機関?」
「そう、ワープ機関。この間のブラッド・マーズ・ファミリーの襲撃の際、ニーナさんが一隻捕獲してワープ機関を奪ったのよ」
「………………私、何も聞いてませんから」
知らない振りしてもらえれば助かります。
『あの、大変申し訳ありませんが』
「ニーナさん?」
『ワープ機関はまだ故障中なのですが』
「……は?」
『ですから、以前使用した際に故障してから、まだ直っていません』
「……………………ってことは?」
『ワープは不可能です。はっきり言ってしまえば、今のままでは九時半までに母艦に着くのは不可能です』
「………………………………だって、紅美。てへっ」
「てへっじゃないわよおおおおおおおおおおっ!!」
紅美の悲鳴が、今度は宇宙船内に響き渡った。
ゴオオオオオオ!!
「このスピードでも無理!?」
『……十時は過ぎます』
結局どうしたか。泣き叫ぶ紅美を放っておけない。ならば間に合わせるしかない、意地でも!
「なら仕方ない! ニーナさん、高速モードを解除、光速モードにして! 操縦も自動から手動に切り替え!」
『宜しいのですか!?』
「背に腹はかえられないわ! 何かあったら私が責任を取る!」
『わ、わかりました。光速モード、オン!』
ヒュキュイイイ!!
「わぶっ!?」
言語道断な加速によって重力制御装置が一時的に限界を超え、私と紅美が座席に押しつけられる。
「ななななな何これ!?」
「ちょっとの間ガマンしなさい! しばらくしたら重力が元に戻るから!」
「ぐええええええ!?」
苦しいのはわかるけど、ホンニャンに半殺しにされるよりはマシだと思いなさい!
(補足。サーチが行っている光速モードは、例えるなら高速道路をF1カーでフルスロットルしてる状態と考えてください)
ィィィィィン!!
「きぃあああああああああああ!」
「紅美! はしたない声出さないの!」
『サーチ、流石に無理も無いと思いますが! 私も怖いのですが!』
あはは、ニーナさんの慌てる声なんて滅多に聞けないわよ!
『サ、サーチ! 前方に船が!』
「避けられない! ニーナさん、物理結界最強で!」
『は、はい!』
がぎぃぃぃん!
結界術が専門のニーナさんだから対応できたのだろう。ギリギリで張られた結界によって、正面衝突という悪夢は回避された。
『あ、相手の船は航行不可能となりました!』
「乗組員は?」
『ど、どうやら脱出したようです』
「なら無問題!」
私はさらに加速し、神がかり的なドライビングで小惑星や船を避けていく。
『せ、星間警備隊から警告が!』
「無視!」
『というより、前方を封鎖しています!』
「なら主砲準備!」
『正気ですかあああ!?』
ニーナさんの悲鳴を無視し、勝手に主砲を起動。よし、発射!!
ずどおおおおん!
…………ズズズゥゥン…………
『け、警備隊の船を撃沈!?』
「乗組員は?」
『だ、脱出したようですが』
「なら無問題!」
船の残骸を結界ではね除けながら進む。
『ぜ、前方に巨大質量! 母艦です!』
「全力全開ブレーキ!!」
しゅごしゅごしゅごしゅごギギギギィィィィィ!!
スラスターをあちこち噴射しながら、回転するような状態でブレーキ。あと2mでぶつかる……くらいの状態で船を止めることに成功する。
「時間は……九時ジャスト! 紅美、着いたわよ!」
「ぶくぶくぶく……」
「気絶してるし! こら、起きなさあああい!!」
どうにかこうにか叩き起こし、母艦内に送り届ける。
「母さ……サーチ、ありがとう!」
「いいからいいから、早く行きなさい」
手を振って紅美を見送る。ああ、これで親の責務は果たせたわ……。
「キュアガーディアンズ査察部の者ですが、ご同行願えますか?」
「宇宙連合軍査察部の者ですが、ご同行願えますか?」
「星間警備隊交通課の者ですが、ご同行願えますか?」
…………あはは……逃げられないわね。
それから半日くらい搾られまくり。
「航行免許証取り消し」
「罰金二千五百万エニー」
「一ヶ月間交通ボランティア」
の処分が下り。
「……トホホ……」
母艦内の主要道路のミラーを全部磨くハメになった……。
「い、いいもん! 紅美のためだもん!」
「…………サーチ、何でボクまで?」
やかましい。ナタ、あんたも道連れだ。
ナタは完全にとばっちり。




