EP7 ていうか、マツダイラキヨザエモン?
「い、いたたた……」
「大丈夫?」
「う、うーん……だいじょばない……」
あの筋肉社長、本気で殴ってきやがって……。
『サーチ様、兎に角近くの公園で休憩致しましょう』
「そ、そうね、いたたた」
ライラちゃんに肩を貸してもらいながら、どうにか歩く。
『サーチ様、歩くのが辛いのですか?』
「ちょ、ちょっとね」
『では失礼致します』
え? って、きゃ!?
『私がお運び致します』
「ちょちょちょちょっと待って! お姫様抱っこは止めて!」
『大丈夫です。私には何の問題もありません』
ライラちゃんには問題なくても、私には大問題なんだよ! こんな人通りの多い往来を、お姫様抱っこで練り歩くって、どんだけ羞恥プレイなんだよ!?
「クスクス、ライラちゃん、せめておんぶにしてあげてよ」
『おんぶでございますね? では失礼致します』
ぐるんっ!
「うひゃい!? って、いつの間にかおんぶされてるし!?」
ライラちゃんの早技で持ち変えられた私は、抵抗する間もなくおんぶされ、そのまま公園まで晒されることになった。普通におんぶも恥ずかしいんですけどね!
「ふ〜、癒されるぅ……」
公園の木陰に寝かされた私は、おもいっきり身体を伸ばす。
「母さ……サーチ、何処が痛いの?」
「あちこち」
上着の下はチューブトップだからわかるだろうけど、肌が見える場所はアザだらけだ。
「うわ、痛そう」
「でしょ!? でしょ!? ていうか、か弱い女性の身体を拳骨で殴るってどうなのよ!?」
「普通のか弱い女性なら、短剣でザクザク斬ったり男性の股間を蹴り上げたりしないと思うけど」
必死だったんだから仕方ないじゃん。ていうかあの筋肉社長、よく生きてたな。
「とりあえずポーションだっけ、使う?」
「……いや、止めとくわ。こっちの世界にはないモノだから、節約しておかないと」
まだ在庫はあるけど、いざってときのために残しておかないと。
『とは言え、このままという訳にはいきませんわよ』
うーん…………あ、そうだ。
「この世界の治療薬を使えばいいんだわ」
「あ、そっか。その手があったんだっけ」
紅美が元々いた世界に類似してるから、薬局みたいなモノもあるだろう。
「ついでだから、どんなモノが置いてあるかもみたいし。薬局で薬を探してみましょ」
少しだけ回復した私は、どうにか立ち上がって歩き始める。当然だけど、ライラちゃんの好意は全力で拒否った。
実は移動中にスゴく気になる看板を見つけていたのだ。それを目指してまっしぐら。
「……あった。この世界にもあったんだ」
向こうの世界にもあった大手薬局のマツダイラキヨザエモン。私も前世ではよく行っていた。
え? 略したら何て呼ぶのかって? 言えないわよ。
うぃーん
薬局の自動ドアが私に反応して開く。
「いらっしゃいませ〜」
おお、懐かしい。全然変わってない。
「うーん、何かいろいろ買いたくなるわね」
「サーチ、薬でしょ、薬」
あーはいはい。わかってるわよ。
「打撲だから貼り薬かな」
「擦り傷もあるから絆創膏も要るね」
そんなこと言いながら探すけど……ない。止血用の包帯やガーゼなんかはあるけど、シップや絆創膏がない。
「……? おかしいなぁ……あ、すいません」
ちょうど通りかかった店員さんを呼び止めて聞く。
「シップに絆創膏ですか? そういった専門的な商品は置いていませんね」
「「……はい?」」
シップや? 絆創膏が? 専門的な商品?
「それよりもこちらはどうでしょうか。飲むだけでどんな傷にも効果がありますよ」
「あ、いや、栄養ドリンクは……」
「へ? 栄養ドリンクではありませんよ? こちらは傷の治療薬です」
「……へ?」
「あの? 今はシップや絆創膏よりも、こちらの方が一般的ですよ?」
はいい?
試しに一本買い、飲んでみる。
「お? おおおおおお!?」
『傷が塞がっていきますね』
「ア、アザも綺麗に消えちゃった……」
こ、これって……ポーションじゃないの? ビンの説明書きを読んでみると、ポーションの一般的な材料が細かに書かれている。
「……なるほど……前の世界の知識が、こういう形で残ったのね……」
この薬は「第一種薬師調合薬品」と表記されている。たぶんエカテルが得意だった薬の調合技術はそのまま残り、現代の医学と結びついているのだろう。
「……確かにポーションが市販されてるんなら、シップや絆創膏がなくても問題ないわよね」
よくよく見れば、風邪薬や胃腸薬なんかもポーションだ。前の世界のポーションは「広く浅く」って感じだったけど、こっちの世界では各病気の専用ポーションがあるらしい。
「……ていうか、マツダイラキヨザエモンにポーションが置いてあるって、何か不思議だわ……」
ちなみにだけど、現代の薬局と同じでいろんなモノが置いてある。だからなのか、剣や盾まで陳列されてる。これには笑うしかなかった。
「さーて、ケガも治ったし。あとはどうしようかな」
『……あの、サーチ様』
「ん? どうしたの、深刻そうな顔して」
『……薬局、いんふぇるのにあると良くありませんか?』
「「…………あ」」
そうだ。必要だわ。
思いついたら吉日、すぐにマツダイラキヨザエモンにテレフォンし、アポイントメントをとった。早速タクシーを捕まえて本社に向かう。
「出店してくれるかな?」
「うーん……キュアガーディアンズには薬局は必須だからね。何とかお願いしたいわ」
今まで一度も行かなかった私達のほうが不自然なくらいだ。
「お客さん、着きましたよ」
料金を払ってタクシーから降りた私達の前には、超巨大な本社ビルが佇む。
「う、うわあ……」
「流石……一流企業……」
『大きな本社ビルですね』
ポカンと口を開けて見上げていると。
「お客さん、お客さん。マツダイラキヨザエモンの本社はあっちだよ」
タクシーの運転手さんに言われて、反対側を見ると。
「「「……は?」」」
道の向こう側に、小さなマツダイラキヨザエモンがあり。その二階に『(株)マツダイラキヨザエモン 本社』と書かれた、こじんまりとした看板が設置されていた。
「マ、マジっすか?」
「いやあ〜、創業者である先々代からの言い付けで、このビルから本社を移転してはダメだって決まっててね」
そう言ってお茶を出してくれたオジサン、実はマツダイラキヨザエモン現社長さん。
「あ、あの、宇宙ステーションへの出店は……」
「勿論OKですよ。こちらからお願いしたいくらいです」
よ、よかったあ!
「では詳しい契約に関しては営業所に行って取り決めますか。ここには何にもありませんから」
「え、営業所?」
「ええ、あれ」
あれって……さっきの超巨大ビル!?
「あ、あれが本社じゃないですか、普通!?」
「まあ……先々代の遺言だからね」
……本社っていったい。
略して言ってはいけません。




