閑話 ビキニアーマー紀行 6 芸と礼儀と豊胸と
前回のあらすじ。
最高のビキニアーマーの素材となりうるSクラスモンスターがなかなか見つからない。
そして最終的に定めた獲物は嘆きの竜という最強の竜の尻尾から獲れるウロコに決めた。
早速嘆きの竜がいるといわれる“嘆きの山”へ、マーシャの魔法を得て登る。
で、頂上で和風巨乳ガールに遭遇し……自らを2代目嘆きの竜だと名乗った。←今ここ
さてさて、彼女は本当に嘆きの竜なのでしょうか……。
シャカシャカシャカシャカ
…………。
もそもそっ
「エイミア……動かない」
「も、も〜ダメです! あ、足が……!」
まあ小1時間耐えたんだからリルよりはマシか。
リルは座る前から「足伸ばしていいか?」 と聞いていた。
それからずーっと自分が楽な体勢で座っている。ある意味リルが一番自然体なのかもしれない。
「足が痺れたのなら楽な体勢になってね」
「あ、ありがとうございます〜」
定番だけど……エイミアの足をつついてみる。
つんっ
「はみゃあああああああ!!!」
エイミアは膝で50mほど進んでパタリと倒れた。器用なことするわね……。
「悪い方ですね」
嘆きの竜が笑いながら私に話してきた。
「足が痺れた時の定番ですから」
「ふふ……確かにそうですね」
同意されちゃった。
妙に人間くさいこと言うわね〜。
「それはそうですよ。私は元人間なのですから」
心読まないで!
……て何気にスゴいこと言ってなかった?
「ですから元人間だと」
……はあ!?
「元人間てあり得るの……てあり得るか」
「そういうことです。私は夫から力を受け継いだので元人間という括りになります」
そう言って「粗茶ですが……」と茶碗を差し出す。
「あ、どうも」
え〜と、確か2回くらい茶碗を回すんだっけ?
ごくっ
……苦い。
「作法は気にしなくていいですよ」
さいですか。
なぜ私達が茶道に巻き込まれているかというと。
一番最初に遭遇したときに。
「貴女達は私に敵意があるわけではないですね」
「は、はい。実はお願いが……」
「立ったままでお話しするのも無粋ですね……こちらにお座り下さい」
……といつの間にか敷かれていた赤い敷布の上に座らせられ。
いつの間にか配られていた茶菓子を堪能し。
いつの間にかお茶を立て始めた……という感じ。
こっちの世界に茶道があるのにも驚いたけど……嘆きの竜のお手前が見事なのにも驚いた。
○家とか裏表とかがあるのかは知らないが。
「サーチ! サーチってば!」
「何よ」
「あのくるくる回すヤツ何回やるの?」
私も知らないよ。
「適当」
「え!? ……困る〜」
エイミアに困られてもねえ……。
「そんなに難しく考える必要はないですよ」
あ、嘆きの竜からフォローが。
「そうですね……あなたでしたら指一本で100回ほど回していただければ」
「えっ!?」
ちょっとちょっと!
エイミア本気にしますから!
「わ、わかりました……えいっ! ほ! よ! は!」
掛け声は威勢いいわね。
茶碗の中身はあちこちに飛びまくってるけど。
「そこで『いつもより余計に回しております!』 と叫ぶのが作法です」
ウソぶっ込むな!
「は、はいぃ! いいいつもより余計に……わ! わ! ……回しておりまーす!」
簡単に信じるな!
「……はい! 100回回しましたー!」
「最後は『おめでとうございま〜す!』 と言ってください。締めの作法です」
だからウソを……!
「はい! おめでとうございます〜!!」
信じるな!
「……勇者さん楽しいですね」
……すっかり手の内で転がされるエイミア。
「あの〜……私は……」
立場無さげにリルが呟く。
「あら。私としたことがオモチャの相手を忘れるなんて……申し訳ありません」
この人、私と同じニオイがするー!
「まあいいけどよ……」
ここで嘆きの竜がリルにもお茶を渡した。
「あ、ども」
そう言ってリルは片手で茶碗を持って飲み干す。
豪快だね……。
「はいダウト〜」
ずびしぃ!
「いでぇ!!」
嘆きの竜から厳しい一撃がはいる。
しかしダウトって……。
「例え自由奔放が許されるとしても片手で飲み干すのは無礼が過ぎますよ」
「お、おう」
「はいダウト〜」
ぼかっ!
「あニャ!」
「一応私のほうが年齢的にも実力的にも目上なのですから……返事は『はい』ですよ?」
「な、なんで私ばっか……」
「はいダウト〜」
ごりっ
「んニャーー!!!」
何かスゴい音が……。
それにしても……ホントにオモチャ扱いね……。
「はいダウト〜」
「え……ニャニャニャーー!!」
……しばらく続きそうね。
それから半日。
「嫌ニャ〜……ダウトはもう嫌ニャ〜」
「えっと……次は傘で茶碗の中身を溢さずに回せ!? ……うぅ〜……」
すっかり調教されたリルとしっかり芸を仕込まれたエイミア。
この2人を手玉にとれるって……やっぱ強さの桁が違う……。
「ふう……結構暑いせいか汗をかいてしまいましたね……」
胸元をパタパタしながら嘆きの竜は呟く。竜でも暑いものは暑いらしい。
「サーチでしたね。よろしければ一緒にお風呂はいかが?」
行きます行きますすぐに行きます。
「あ、リルとエイミアさん」
「はい!」
「よ! は! ほ! ……はい、何ですか?」
「それぞれ鍛練なさっていて下さい」
「「はい!」」
鍛練って……。
「すごく柔らかいお湯ですね……サラサラして気持ち良い」
「あら。話が合いそうですね」
私は嘆きの竜と近くにある温泉に入っている。
「嘆きの竜……さん」
「はい。何ですか?」
「なぜエイミアを鍛えているのですか?」
「あら。わかりましたか?」
わかります。
嘆きの竜に芸を仕込まれる度にムダな動きが少なくなってるもの。
「先代に比べると随分と大振りだと思いましたもので……勝手なことを致しました」
「いーえー。私達がどんだけ矯正しても直らなかったのがたった半日で……ありがたい限りです」
「あなたは必要ないかと思いましたので……少しだけサービスをしておきましたよ」
?
「サービス……ですか?」
そう言うと、立派な自分の胸を強調する。
……ふん! 私だって寄せて上げればそれなりに……。
……あれ?
「お茶の効能がでましたね。少しだけですが成長したはずですよ?」
あなた様はたった今から私の心の師匠に認定されました。
「あら、ありがとうございます。え〜……グレネード・モンタさん?……と同じ立ち位置ですね」
心読むな。
……あ! 目的忘れてた!
「あの、すいません! 少しお願いが……」
「あらあら。私も忘れてました……ここから10分ほど下りた斜面に無数の鱗が落ちているはずです。私は自分の尻尾から抜けた鱗はその辺りにまとめて捨てていますから好きなだけ持っていってください」
便利屋よー!
「……聞こえてますよ」
……ごめんなさい。
「それじゃあ……お世話になりました」
「また芸を教えてくださいね!」
「嘆きの竜さん!ありがとうございました!」
……リルの口調が変だ。
「いえいえ。いつでも遊びにいらしてね」
……。
「あの」
「はい。何か?」
「……なぜ私達にはここまで親切にしてくれたんですか?」
もっと怖いイメージだったし。
「私は基本的に礼儀を重んじる方々にはちゃんと相応の礼儀で返しますから」
……つまり……非礼には殲滅で返すってことか。
「……行ってしまいましたね……」
「無理を言ってすまなんだのう」
「あらあら。“嘆きの山”に勝手に上がりこむなんて……女王らしくありませんよ?」
「そう言うな……どうであった? 今回の勇者は?」
「大変に面白く……そして心惹かれる方でしたね」
「連れも面白かろ?」
「はい。獸人の娘は可愛くて可愛くて……つい教育してしまいました」
「……そなたも変わらぬのう」
「陛下は随分と丸くなられました」
「かもしれぬな……そうそう、もう1人はどうであった?」
「サーチという娘ですか? 面白くもあり……懐かしくもあり……」
「おお、そうじゃったな……そなたも」
「ええ……私は転生ではありませんが」
「確か……先代に拾われたのであったな?」
「ええ……私がまだ人間だった頃……まだ花崎華鈴だった頃に……」
明日から新章。
マーシャンが抜けて…新しいメンバー登場?