EP5 ていうか、雷々と左亞血。
『ぐるぐるぐーる! あっち! あっち!』
ミニマーシャンの反応は最近なかったんだけど、第二十一コロニーに用事で向かう途中、突然声が響いたのだった。
「み、見つかったの? ていうか、まだあったの?」
最近反応がなかったから、今まで集めた覇王装備をマーシャンに引き渡せば終わりかと思ってた。その肝心なマーシャンとは連絡がとれないんだけど。
『ぐるぐるぐーる! あとちょっと! あとちょっと!』
まだあるってことか。
「ま、行くだけ行ってみるか……どの辺り?」
『ぐるぐるぐーる! あっち! あっち!』
「ニーナさん、任せたわ」
『わかりました』
ニーナさんは宇宙船の進路を少しだけ変えた。
「ニーナさん、まだ?」
『どうにも……正確な位置が掴みにくいので』
『ぐるぐるぐーる! あちこち動く! 動く!』
……てことは船か。
「サーチ、こちらから呼び掛けてみたらどうでしょう?」
「何て?」
「え……そ、その、覇王装備が欲しいから、大人しく停船してって」
エイミア……それって海賊が来たようにしか思われないから。
「それじゃ早速。あー、この辺りを航行中の船さん、大人しく停船して下さい。じゃないと軽ーく攻撃しちゃいますよぶがふぇい!?」
「止めなさいっての! そんなんで止まるわけないでしょ!」
が。
『か、堪忍してくだせえ!』
『まだ死にたくねえ!』
『な、何でも差し上げますから、い、命だけは!』
『近くを航行中の船が数隻停船した模様です』
「ウッソだぁぁ! ていうか、その船の中にあるの?」
『ぐるぐるぐーる! ある! ある!』
うっわ、完全に海賊行為になっちゃうな。
「……ねえ、サーチ。このまま船に乗り込んだりすれば……立派な海賊行為だよね」
「そうね」
「当然……ヤバいよね」
「ヤバいどころか、完全にウォンテッドよね」
「ニニニニーナさん! 今すぐ方向転換! 逃げよう!」
「わ、私も賛成」
『私もナタちゃんの意見を推奨致します』
これに関しては私も賛成。さすがに海賊行為はしたくないし。
「ニーナさん、一旦引き上げよう」
『構いませんが……相手の船には間違いなく私達がした事が記録されていますが?』
すでに海賊行為認定じゃん!
「エ・イ・ミ・ア〜!! あんたがあんなこと言うから〜!」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
私がエイミアの頬っぺたを伸ばして制裁していると、ナタがため息まじりに。
「……こうなったらホントに襲撃して、船の運航記録を消すしかないね」
『おらおらおらぁ! 全員大人しくしやがれぇぇぇ!』
「ひ、ひぃぃ! お助けぇぇ!」
特服を着たライラちゃんを先頭に、罪のない貨物船に乗り込む。とりあえず逃げられないように一ヶ所に全部の船を集めて、エンジンをほどよく破壊しておく。
『あたしらこの辺りをシメてる不亞巣斗王堕亞っていうんだ、夜露死苦ぅ!』
「ひぃぃ!」
不亞巣斗王堕亞って、まんまじゃん!
『おらおら、全員その場でジャンプしな』
「ひ、ひええ!」
ライラちゃん……じゃなくて雷々ちゃんがカツアゲしてる間に、私達で船の運航記録を消す。
「こ、これで全部です!」
『よっし』
ぼかぼかぼかっ!
「「「ぐああっ!?」」」
私が後方から忍び寄り、全員気絶させる。
「よし、あとは……ぶふーぅ」
久々に≪毒生成≫の出番。体内で作った毒霧を船員達に吹き掛ける。
『左亞血、それは何だ?』
「ムリヤリ漢字に変換しないで。この毒は脳に直接作用して記憶を消す毒。かなり薄めたから、一週間くらいの記憶しか消えないけど」
『一週間も消えれば上等上等喧嘩上等!』
何で喧嘩上等が付いてくる?
「ま、まあいいわ。この調子で他の船も潰していくわよ」
『おっしゃあ! 全国制覇ぁ!』
だから、何でそうなる。
『おらおら、全員ジャンプしろや!』
「「「ひ、ひぃぃ!」」」
「……サーチ、ライラ……じゃなくて雷々ちゃんがカツアゲしてるんだから、ボク達って海賊と同じじゃない?」
言うな。わかってるから。
「サ、サーチ、このコンピュータ、ガードが厳しいです」
ん? どれどれ。
カチャ カチャカチャ
「あら、ホントね。相当堅いプロテクトだわ…………雷々ちゃん、ちょっと」
『何すか?』
「このコンピュータ、何とかならない?」
『へ、左亞血、こんなのは気合いで何とかならあ!』
カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ カチャ
『うぉっし、突破ぁ! 上等上等喧嘩上等!』
見た目はヤンキーなのにコンピュータを使いこなすのって違和感ありあり。
「……って、んん? これって……」
私はコンピュータ内のあるフォルダが目に入り、マウスを動かす。
「こ、これは……」
ドサッ
「いてっ!」
「二十八人目……これでこの船に乗ってたヤツは全部よ」
「はーい、確認しました」
紅美が空中端末で顔を照合し、全員の身元を確認する。
「うん、間違いない。全員海賊団眠れる羊の一味だわ」
例の船のコンピュータにあったフォルダは、海賊団の盗品リストだったのだ。
「しかし妙ね。他の貨物船の人達、何故か個人の金品は奪われてるのに、もっと高額になる積み荷は奪われてなかったんだけど?」
「あ、あははは……」
他の二隻は普通の貨物船でした。記憶消しておいてよかった……。
「お前らだろ、オレの財布奪ったの!」
「オレの財布も!」
「オレのもだ!」
「し、知らねえよ! オレ達はお前らの船はまだ襲ってねえ!」
「まだって……どっちにしても襲うつもりだったんだろうが!」
「し、しまったあ!」
バカだ。勝手に自白した。
「はい、自白を確認。記録もしましたので、眠れる羊の皆さんは全員拘束します」
キュアガーディアンズ支所の職員に引っ張られていく。このまま牢屋へゴー。
「くそ! ちっくしょおお!」
「覚えてやがれぇぇ!!」
心配しなくても、生きて刑務所から出られることはないわよ。
「……さて、サーチ。さっきの海賊達の証言によると、ライラちゃんからカツアゲされたって言ってたけど……」
『? どうか致しましたか?』
「……いえ。絶対にあり得ないわ。あの海賊達もまともな嘘を言った方がいいわ……」
普段通りにお淑やかなライラちゃんを見て、ため息をつく。紅美、あんたは知らない方がいい。このライラちゃん、実は雷々ちゃんという伝説の暴走族だったということを。
『左亞血、紅茶は如何でしょうか?』
「え?」
『あら、間違えましたわ。おほほほほ』
後日、海賊のお宝の中から、覇王装備らしき髪飾りを見つけた。
左亞血じゃなく、サーチ。




