EP2 ていうか、ファーファ白状。
「私は選ばれた存在だ」
はい?
「だから私は人の上に立って、導かなければならない運命にある」
でたよ、誇大妄想。
「……と思っていた。その為にはどんな手段も用いていいと思っていた」
「どんな手段でも……か。その結果がこれなの?」
「そうだよ。目の上のたんこぶだった〝飛剣〟を倒す為に、覇王装備を使って色々なスキルを身に付ける事を思い付いた。地球一の剣使いと言われた男から≪浮遊剣≫を、特殊なサイキックを使う女からは≪念術倍化≫を、色々なスキルを集めた」
「あんた……どれだけの人間を」
「殺してはいない。ただ奪っただけ」
「どうだか。ちなみにだけど、覇王の指輪の回収をしてたのは誰?」
「え? それは〝刃先〟に頼んでたけど?」
「だったら誰も生きていないわ。前回のビル・ウィリー・ウィリアムズも指輪を奪取されたあとに始末されかかったし」
「え……?」
「え……って、あんたはスキルを奪った相手が、幸せに暮らしてるとでも思ってたの?」
「い、生きてさえいれば、何とでもなると……」
「唯一の生存者であるビル・ウィリー・ウィリアムズも、スキルを失ってからは周りの言葉に反応しなくなったそうよ」
「え……?」
「さっきまであんた自身がそうだったように、完全に呆けているって。ほぼ廃人よ」
「…………」
ていうかさ、あんたが興味を持つほどに卓越したスキルだったんでしょ。そんなスキルを使って生きてきた連中が突然頼みの綱を奪われたら……廃人になってもおかしくないわよ。
「ファーファ、あんたは人の痛みを身に染みて体験する事になったのよ。ま、自業自得よね」
「うるさい! あんただってスキルを奪われれば、私と同じようになるわよ!」
「へ? 私、奪われて困るスキルなんて皆無だけど?」
「……は?」
「私はそんな便利なスキルは持ってないって言ってるのよ」
「な……! そ、そんなはずはない! そこまでのアサシンの腕、スキル無しでは無理だ!」
「……私がよく使うスキルは≪気配遮断≫と≪早足≫くらいかな。あとは身につけた技術だけよ」
「…………」
「覇王の指輪って私の≪短剣≫や≪蹴術≫を奪ったとしても、レベルまでは奪えないんじゃない?」
私の≪短剣≫や≪気配遮断≫はレベルカンストだけど、仮に奪ったとしても両方とも初期の状態になるんじゃないだろうか。
「…………」
「図星みたいね。だから初期から普通に強力なスキルばかりを集めた。違う?」
悪くなっていく顔色が肯定を示していた。
「だから私はスキルを奪われたってどうってことない。スキルは奪えても経験を奪えない以上は、ね」
これがファーファが院長先生に絶対に勝てない理由。ただ強力なスキルを集めたって、使いこなせなければ宝の持ち腐れなのだ。
「ま、院長先生にコテンパンにされたあんたが、一番よくわかってるだろうけど」
「あ、あんなの卑怯だぞ! 戦う前に四方八方から飛剣が飛んでくるなんて!」
「あら、あれも院長先生の経験が為せる技よ。院長先生はあらかじめ飛剣を投げておいて、あの場所にあんたが立つように仕向けただけ」
「なっ!?」
「たぶんあんたが倒れてから、院長先生は無数に飛来する飛剣を回収して回ってたはずよ。第一の飛剣がミスった際のために第二、第三の飛剣を投げてたはずだから」
「あ、あの〝飛剣〟が……後から自分の投げた飛剣を回収してるの?」
「当たり前よ。飛剣だってタダじゃないんだから」
特に院長先生は飛距離や用途にあわせて何種類も飛剣を使い分けるから、全て一点モノのオーダーメイドのはずだし。
「……そうか、あの〝飛剣〟が戦闘後に自ら回収…………ふふふ……あはははははははははは!!」
ファーファは笑った。ずっと笑い続けた。そして笑いがおさまってから、一言ポツリと。
「……私は……〝飛剣〟の上っ面しか見ていなかったんだな……」
と呟いた。その際に頬を伝った雫が笑いすぎの涙だったのか、それとも悔恨の涙だったのかは……わからない。
それからファーファは素直に私からの質問に答えた。
「……それじゃあ総長ってのが一番偉いのね?」
「ええ。サーシャ様よ」
サーシャって、またサーシャか。この世界にはサーシャが多いな。
「どんなヤツ?」
「アンドロイドよ。それ以外は不明」
「強いの?」
「わからない」
「トップとしての統率力は?」
「知らない」
「……性格は?」
「理解できない」
「マーシャーン、かもーん」
「待って待って待って! 本当にわからないのよ!」
「……あのさあ。あんたも一応は血の四姉妹の一角でしょ? それで自分の上に立つ者の正体がわからない、ってそれはないんじゃない?」
「本当にわからないのよ! 私は新参者だから、〝飛剣〟や〝繁茂〟ほどサーシャ様と付き合いはないわ」
「ふーん……新参者って、あんたの前任は?」
「死んだ。私が殺したのよ」
「……あっきれた。そこまでして出世したいわけ?」
「わかってくれ、なんて言うつもりはないわ。私はただ……アサシンっていう泥沼から這い出したかっただけ」
アサシンなんていう泥沼……か。それにいることが当たり前になってる私には、快適なんだけどな。
「狸獣人以外には絶対にわからないわ。絶対に……」
結局それ以上はしゃべることはなかった。
フィーン
「ふう……」
「サーチ、どうでしたか?」
「ブラッディー・ロアの内部情報については色々聞けたわ……はい、これがメモ」
メモを受け取ったヴィーは早速空中端末を開き、キーボードを叩き始める。
「ナタは?」
「まだ隣の部屋で臨戦態勢ですわよ」
ナイアに言われて隣の部屋へ行く。
「ナタ、いるー?」
「サーチ、終わったの?」
ナタはバズーカを構えていた。
「ええ、大体は吐いてくれたわ」
「そっか。抵抗する様子も?」
「ない。ていうか、覇気まで失せちゃって抜け殻みたい」
「…………そっか」
ナタはバズーカを元に戻す。
「……ファーファはどうするの?」
「指名手配されてるからね、連合軍に引き渡すわ」
「……そのことをファーファは?」
「もう観念してるっぽい。まあ今までの罪状が罪状だから、生きて外に出られることはないでしょ」
「…………そう」
「あ、そうだ。ファーファが言ってたわよ」
「何を?」
「私がしたことは間違ってない。それはカイト……ナタならわかるはずだ、ってね」
「…………何を勝手な……そんなの、わかるわけないじゃん……」
それ以後、ナタがファーファのことを話すことはなかった。ただ次の日の朝に、目が腫れ上がっていたのは事実だ。
明後日にファーファを連合軍に引き渡した。
ファーファは後に登場予定。




