EP1 ていうか、怪我人いじめ?
その知らせは突然舞い込んできた。
「へ? ファーファを拾った?」
『はい。地球への航路の途中で、救命艇を拾いまして』
それはヴィーからの緊急テレフォンだった。
「き、気をつけて! そいつ、新たな力を身につけてるから!」
『それはサーチから聞いていましたので、ナイアが随時警戒中です』
あ、そっか。ナイアなら幻影を無効にできるからね。
『ただサーチ、どうにも様子がおかしいのです』
「様子が?」
『はい……怪我の治療は済んだのですが覇気が無く、ただただ「スキルが……スキルが……」と言って泣いていまして』
それを聞いた私は、すぐにヴィー達と合流することを決めた。
掟やぶりのワープでヴィー達のいる宙域に二日で到着した私達は、早速船に乗り込む。
「ヴィー」
「サーチ、早かったですね」
「どうしても気になることがあってさ。ファーファは?」
「相変わらず無気力です。最近ではご飯すら食べなくなりました」
となると、やっぱりか。
「ちょっと話してみていい?」
「案内します」
ヴィーに付いていく。何故かヴィーがスキップ気味に歩いているように思えるのは気のせいだろうか。
コンコン
「……はい」
「ナイア、私」
「サーチですの? 随分と早いですわね」
ガチャ
中からドアを開いてくれる。少しニヤけたナイアが目に入り、その向こう側に。
「………………」
すっかり生気が失せたファーファの姿があった。これは……思ってた通りだ。
「……〝絶望〟のファーファ。あんたもこれでわかったでしょ。ビル・ウィリー・ウィリアムズの気持ちが」
私の声を聞いたファーファは、ノロノロと顔を上げる。目の下にはくっきりとクマができていた。
「…………何よ、私を笑いに来たの?」
「あっははははははははははっ!」
ご期待通りに指差しておもいっきり笑ってやる。
「「なっ!?」」
「あははははは! あー面白い。あっはっはっは!」
「うぐ……わ、笑えばいいわ。全てのスキルを失い、ブラッディー・ロアからも見捨てられた私を笑うがいいわ!」
「だから遠慮なく笑ってます。あーっはっはっはっはっはっは!!」
「ぐすっ……笑えばいいのよ、笑えば…………わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
よし、泣き出した。
「さーてと。ナイア、あとは頼んだわよくびゃふ!?」
突然ナイアに首を掴まれる。
「ナナナナナイア苦しい苦しい!」
「あ・な・た・と・い・う・ひ・と・はああああ!」
「ちょ、マジで、息が、苦ひ」
「敵とはいえ怪我人を追い込むような事をして! 情というモノがございませんの、貴女は!?」
「…………」
「聞いてますの!? サーチ、サーチ!? ……あら、動きませんわね」
「サーチ!? き、気絶してます!」
「あらら。少し力が入ってしまいましたわね」
「あららじゃありません! サーチ! サーチ!?」
「……ナイア……」
「大変申し訳ありませんでしたわ」
平謝りするナイア。頭のデッカいたんこぶは、ヴィーからのお仕置きだろう。
「……もういいわよ」
「但し! サーチの捕虜の扱い方には異論がありますわ!」
捕虜? ああ、ファーファのことか。
「大丈夫よ。泣いてたから、少しはまともに応対できるようになったんじゃない?」
「ええ、ええ! まともに応対する様になりましたわ! 但しまともな応対を通り越して、完全に横柄になりましたわね!」
あらら、ちょっと回復させすぎたか。
「ならもう一回心を折ってやるか」
「なっ!? それでは何の解決にも……サーチ!?」
再びファーファの部屋に入る。
「お邪魔するわよ」
「あらあら、お仲間に気絶させられたお間抜けさんが何の用?」
ぶちぃっ
どごめきゃごきぃどずぅんぱかぁぁん!
「うっぎゃああああ!」
「……まだナメたこと言える元気ある?」
「う、うぐぐ……ろ、露出狂!」
ぶちぶちぃっ
「マーシャン召喚」
「む? な、何じゃ何じゃ?」
「マーシャン。どうぞ召し上がれ」
「召し上がれって……こ、この娘の事か!?」
「ええ。煮るなり焼くなり食べるなり【いやん】するなり、お好きにどーぞ」
「う、うむ!」
「ちょ、ちょっと! この女、目付きが怖いんだけど!?」
ではピンク色の目眩く時間をお楽しみください。
「い、頂きますなのじゃああああ!」
「え、いや、いやああああああああ!!」
……南無。
一時間後。
「ふうい、スッキリしたのじゃ」
艶々した顔でマーシャンが帰っていったあとには。
「…………ぐすっ」
衣服が乱れたファーファの瞳から、一筋の涙が……。
「さーて、まだ元気はある?」
「……笑えばいいわ。惨めな私を笑えばいいんだわ!」
「あはははははははは……って、これ最初からリピートになるけど、いいのかしら?」
「リピートって……ま、また手込めにするつもり!?」
「私はしないけど、マーシャンなら何回でも」
「申し訳ありませんでした! 勘弁してください!」
見事なジャンピング土下座。最初から素直にしゃべればいいのよ。
「ていうか、少し待ってなさい」
私はキッチンに向かうと、手早くお粥を作る。それを持ってファーファの元に戻り。
「ほら、食べなさい。熱いうちに」
「……え?」
「病み上がりに近いんでしょ。だったら消化しやすいモノにしないと」
「じゃなくて……私に?」
「ていうか、他に誰が食うのよ。さっさと食べなさい」
「…………」
「……漏斗を口に突っ込まれて熱々のお粥を流し込まれるか、マーシャンにフーフーしてもらってアーンするか」
「自分で食べます自分で食べます」
よろしい。
「…………あのさ」
「何?」
「私ってさ、あんた達の敵なのにさ、何でこんな施しをしてくれるのさ?」
「あんたがたどこさ♪」
「は?」
何でもありません。
「別に施しなんかしてないわよ。現にヒドい目にあってるでしょ?」
「た、確かに」
「それに隣の部屋にはフル装備でナタが配置してるし」
「ナタ?」
「元カイト」
「げっ」
「というわけで1㎜も優しくするつもりはないから、サクサク吐いてもらうわよ」
「な、何を!?」
「ブラッディー・ロアのこと、あんたが捨てられた理由、そして」
カタッ
「あんたに突き刺さったままになっていた、この飛剣に書き込まれたメッセージの意味」
飛剣には「これの事をお願いね、さーちゃん」と書かれていた。筆跡も一致するから間違いない、これは院長先生の文字だ。
「……っ」
「何であんたは院長先生……〝飛剣〟にボッコボコのボロボロの牛乳拭いた雑巾並みにされたの?」
「そ、そこまで言わなくても……」
あ、落ち込んだ。
ファーファ、やられ放題。




