EP19 ていうか、急展開?
ニーナさんの協力を経て、ミニマーシャンの能力の解析を続けた結果。
『ぐるぐるぐーる! 外だ! 外だ!』
「……まさか風見鶏仕様だったとは……」
ミニマーシャンの外装は、異常なほどに強固に作られていることがわかった。理由として考えられるのは。
『……宇宙船の外付けの部品ではないでしょうか?』
ということで、設置場所を船の一番先頭に変えてみたのだ。すると。
『ぐるぐるぐーる! 地球のユーラシア大陸の南、巨大な山岳地帯に反応あり!』
『ぐるぐるぐーる! 月の裏側、巨大な氷内に反応あり!』
『ぐるぐるぐーる! このステーション内に複数反応あり!』
繊細な情報が出てくる出てくる。何でマーシャンは最初から外付けだって言ってくれなかったんだよ。
「……ここまで感度が違うなんて……」
『私も全く気付きませんでした』
「ていうかニーナさん、あんなのが自分の船の一番先に付いてるのって、何にも気にならない?」
『……気にならないと言えば嘘になりますが、それ以上に恩恵が大きいですね』
「恩恵?」
『はい。あの機械は探知能力そのモノを上昇させる効果があるらしく、今まで探知できなかった広域にも網が張れます』
え、マジで。それめっちゃいいじゃん。
「……ホントに何でマーシャンは先にそれを言ってくれなかったのやら……」
『それはサーシャ・マーシャですから……としか言い様がありません』
ま、どっちにしても探しやすくなったのは事実。おかげで地球・月での探索は一日で終われるくらいだった。
「いやはや、まさかK2の頂上に覇王装備のブレスレットが落ちてるとは」
「月の地下にあんな巨大な氷の固まりがあるとは」
詳しい場所はニーナさんを経由してミニマーシャンが教えてくれるので、全く苦労はなかった。
「……ただ寒かったけどね。メチャクチャキツい行程だったけどね」
地球で二番目に高い山だし、登るの一番難しいってされてる山だし。
「まだいいじゃん。こっちは空気がないんだから」
ま、月だしね。
そんな感じで順調に集めてるんだけど、ミニマーシャンからは気になる情報が上がっていた。
「え? ブラッディー・ロア本部には一つしかない?」
『ぐるぐるぐーる! そのとーりー!』
「……どういう事ですか? ブラッディー・ロアの目的って神命の宝玉ではないんですか?」
覇王の宝玉は神命の宝玉の生成には必須。その覇王の宝玉を生成するには、全ての覇王装備が必要なのだ。
「……ブラッディー・ロアの目的がわからないわね。〝絶望〟や〝刃先〟が動いている以上、全く興味がないってわけじゃなさそうだし」
『でも積極的ではありませんね』
ライラちゃんも首を捻る。
「……サーチ、もしかしてだけど」
「ん? エイミア?」
「ブラッディー・ロアは私達が全ての覇王装備を集めるのを待っている、とか?」
「……ブラッディー・ロアほどの組織なら、ボク達以上に収集できそうだけど、何でそんな回りくどいことを?」
「……もしかしてブラッディー・ロアには、覇王装備を探知できる技術がない、とかいう事はないでしょうか?」
「……それはあり得るかも。あの機械って陛下のお手製なんだよね?」
「あ、ミニマーシャンのこと? あれはマーシャンとアンドロイド達の合作じゃなかったかな」
「それだよ。ボク達が覇王装備をコンプリートしてから、急襲して奪うつもりなんだよ!」
『それならば技術の遅れをカバーできますし、手間も省けます。一石二鳥と考えます』
ていうか。
「たぶんだけど、ブラッディー・ロアも一枚岩じゃないわよ」
「え?」
「院長先生と〝刃先〟の目的は『マーシャンの企みの阻止』っていうことは想像できる。だから問題になってくるのは〝絶望〟の動きね」
「ファーファの?」
「おそらくだけど、〝絶望〟の目的は覇王装備の副次的な効果なんだと思う」
「副次的な効果……スキルの簒奪?」
「そう。〝絶望〟が院長先生や〝刃先〟より実力が劣るのは間違いない。それを補うためにスキル集めをしているんだとしたら……」
『間違いなく〝飛剣〟と〝刃先〟とは敵対関係である、と推察致します』
ライラちゃんの言う通り。
「……あれ? ちょっと待ってください。前回の下着ドロボーの時、覇王装備を回収しにきたのは〝刃先〟だったんですよね?」
「そうよ」
「だとしたら〝絶望〟と〝刃先〟は敵対関係ではなく、協力関係なのではないですか?」
「ブラッディー・ロアとしては私達に覇王装備を集めてほしいけど、全てを集められるわけにはいかない。だったらどうすればいいと思う?」
「へ? そ、それは……」
「あ、わかった。一つ覇王装備を確保しておけばいいんだ」
「その通り。一つでも押さえていれば、マーシャンは目的を達せられない。同時に〝絶望〟の思惑にも叶う。まさに一石二鳥ね」
「ちょ、ちょっと待ってください! だとしたらヒルダさんや〝刃先〟は、〝絶望〟が力を蓄える事を承知で放置しているんですか!?」
「でしょうね。ていうか、院長先生に勝とうと思ってても、スキルに頼ってる段階でムリだけどね」
「…………あ……う……」
「気が済みました?」
「……な……何で……」
「何でですって? 貴女が今日私を襲ってくる事は予測済み。それに合わせて何本か飛剣を投げておいただけですけど?」
「……そ、そんな……ス、スキルを使う事も……で、できない……なんて……」
「まあ……スキルを沢山身に付ければ私に勝てると思っている時点で、貴女は私に負けていたんですよ」
「く……ば……化け物め……」
「誉め言葉、だと思っておきます。さて、指輪は私が頂きます」
「く……!」
「今度は貴女がスキルを失う番ですね……では、さようなら」
ゴオオオ……
「……サーチ、何をしてるでしょうか……」
「……ヴィーさん、そんなにサーチと会話をしたいのなら、テレフォンの一つもしてあげれば宜しいのではなくて?」
「サーチも忙しそうですから。それに、少しはエイミアにもサーチ時間を堪能してほしいですし」
ビーッ ビーッ
ん? 通信?
「はい、こちらキュアガーディアンズパーティ船の底抜きです」
『……この先に救命艇が漂っています。救助願います』
「え!? もしもし! もしもし!?」
「ヴィーさん、どうなさいましたの?」
「きゅ、救命艇が、救助を求めていると」
「何ですって!? ならば今すぐ向かいますわ!」
……今の声は……まさか〝飛剣〟?
こうして。
ヴィー達とファーファが再会し。
私達の運命は再び荒れ始める。
明日から新章です。




