EXTRA サーチ・ザ・ブートキャンプ
「覇王装備ってさ、一体いくつあるのかしら」
夕ご飯を食べながらポツリと洩らした一言に、みんなが反応する。
「……ボクには想像もつかないね……おかわり」
「そうですね、装飾品まで含まれるとなると……おかわり」
『私もで御座います』
「……ライラちゃんもおかわりなのね?」
「左様で御座います」
……気まぐれで作った炊き込みご飯が、こんなにバカウケするとは……。
「サーチの作るご飯って中毒性があるよね」
中毒性って……麻薬じゃないんだから。
「私はちゃんと考えて食べてるから大丈夫だけど、これってかなり高カロリーだよね」
ピシィッ
紅美の何気ない一言が、食卓を凍りつかせる。
「……紅美、このタイミングでその一言はダウトよ」
「だって、母さ……サーチは大丈夫なの?」
「私は常に考えて食べてるわよ。少しの体重変化が、いざっていうときに多大な影響を及ぼすことはよくあるからね」
「さっすが、プロのキュアガーディアンズよね〜……皆は?」
「…………」
「…………」
『…………』
あ、あらら? エイミアやナタだけじゃなく、ライラちゃんまで凍りついてる。
「ボ、ボクはやっぱり止めとく」
「わ、私も今日は……」
『わ、私も』
……エイミアやナタはともかく、何でライラちゃんまで?
「あれ? どうしたの? 皆プロのキュアガーディアンズなんだから、しっかりと体調管理してるよね?」
「あ、あはははは! ちょっと走ってきますね」
「な、何でかな〜。急にワークアウトしたくなってきたな〜」
『……アンドロイドにも筋トレは必要ですね』
だからライラちゃんは何で!?
でも炭水化物が多めなのは事実だったので、食後の運動を少しハードにした。
「はあ、はあ……あー、いい汗かいた」
このあとは熱ーいお風呂に浸かってから、冷たーいビールを一気に……いいねぇ♪
「はっふっは……あ、母さ……サーチ」
ステーションで運動をできる場所は限られる。だから走ってたりすれば、バッタリと出会うなんてよくあることで。
「やほー、紅美。頑張ってるわね」
「はあ、はあ。ま、まあね。私は食べるのが好きな方だから、油断してるとすぐに体重に反映されちゃうし」
「それがわかってて努力できてるんだから、それだけで大したもんよ」
「母さ……サーチも太りやすいの?」
「さあ? 普段から訓練は欠かさないから、太りやすいのかどうかはわかんないわね」
「…………太る余地がないのか」
「まーね。食べた量でどれだけ身体が動かせるのか、ちゃんとわかって食べてるし」
「めっちゃストイックだね」
「ていうか、それが習慣になってるから」
たぶんだけど、私は太りにくい方だと思う。きちんと代謝ができてるはずだから。
「……ていうか、例の三人組は見ないわね」
「そういえば……走るって言ってた割に、見ませんね」
大丈夫なのかな……と少し危惧していたけど、それは一週間後に現実になった。
「……サーチぃ……」
「……サーチぃ……」
『……サーチ様ぁ……』
……あんたら……まさか。
「お願いがあるんだけど……」
「……何?」
「その……痩せられるメニューを」
「カロリー低いご飯で」
『あ、脂の少ない食事でお願い致します』
「………………一週間絶食すれば、イヤでも痩せるわよ」
「そ、そんなぁ!」
「殺生な!」
『どうか御慈悲を!』
「あのねー、紅美から警告されてたでしょ。何であのときに対策をしなかったのよ?」
「だ、だって、サーチのご飯は美味しいし」
「い、いくらでも食べられるっていうか」
『美味しすぎますわ』
誉めてくれるのはありがたいんだけど。
「それって自分の意志が弱いことの責任転嫁じゃね?」
「うっ!」
「うぐっ!」
『ふぐっ!』
「……さーて、責任転嫁された側としては、何にも協力してやる必要はないわね」
「「『そ、そんなぁ!』」」
「さーて、明日はパエリアにでもしよーかなー♪」
「サーチぃ!」
「お願いだから!」
『御慈悲を!』
…………はあ、仕方ないなぁ。
一時間後、全員運動場に集まる。
「お、ちゃんと来たわね」
「「『……はい』」」
エイミアとナタは一般的なトレーニングウェアだけど、ライラちゃんはなぜか『らいら』と書かれた体操服である。下は無論ブルマ。
「さて、まずはコースを決めましょうか」
「「『コ、コース?』」」
「そ。第一のコース。めっちゃ時短であっという間にシェイプアップ。ただし命の保証はありません。文字通りの命懸け超ハードコース」
全員首を横に振る。ま、そりゃそうよね。
「第二のコース。命懸け超ハードコースよりはソフトだけど、時短で痩せられることに変わりはない。ただし精神的に壊れても知らないよ、のメンタル勝負ややハードコース」
全員激しく首を横に振る。ま、そうなるわな。
「第三のコース。肉体的精神的負担は軽微だけど痩せられる。その代わり懐が寒くなりますよ〜、の超借金王確定ややハードコース」
真っ青になって首を横に振る。うん、私もオススメしないわ。
「なら第四のコース。肉体的精神的金銭的負担無し。魔術で余分な脂肪を燃やしちゃいましょう、の魔術でややハードコース」
「それがいいです!」
「ボクも!」
『…………』
「あら、第四のコースでいいの?」
「「はい!」」
『……私は遠慮致します』
「あ、ライラちゃんは止めとくのね…………ある意味正解かも」
「「は?」」
「それじゃマーシャン、お願いね〜」
「「え゛」」
するとニヤニヤしながらマーシャンが現れる。
「ほっほう。妾の秘術を受けたいというのは、エイミアとナタの二人かえ」
手をワキワキしながら近寄るマーシャン。エイミアとナタの顔色がだんだん悪くなる。
「え、あ、いや、その」
「ボ、ボク用事を思い出したよ!」
ブゥン
「「ひえっ!?」」
二人はマーシャンが作り出した魔力の檻に閉じ込められる。
「さーて。楽しみじゃ楽しみじゃ。あ、施術中に多少のセクハラがあるやもしれんが、それは仕方ないからの」
「「いやああああああああああっ!!」」
……うん、肉体的精神的金銭的負担のうち、金銭的以外の負担はハンパないな。
「あ、料金もいただくからの」
金銭的負担もあったわ。
「……さて、ライラちゃん。最後のコース、サーチ・ザ・ブートキャンプでいいかしら?」
『はい。それでお願い致します』
結果、一ヶ月もしないうちに全員元の体重に戻ったそうだ。
「あーうー」
「ああ……お空がピンク色だ……」
……エイミアとナタが少しの間変だったけど。
『おかしいですわ! あれだけ頑張ったのに、体重に変化がありません!』
ライラちゃん、あんたアンドロイドだよ。
サーチ・ザ・ブートキャンプ、参加者募集。但し、普通の人間では命の危険あり。




