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第十六話 ていうか、マーシャンの涙と勇者らしくなってきたエイミア。

「……え……?」


 エイミアがかすれた声をあげて。


「い、嫌ですよマーシャン! な、何を言い出すんですか!? 離脱なんて……絶対ダメですよ!」


 エイミアは涙を浮かべながら叫んだ。


「すまぬ……」


 ……マーシャンはポツリと呟いて部屋を出ていった。


「待って! 待ってください!」


 追いかけようとするエイミアを、全身で割り込んで止める。


「サーチ邪魔しないで! マーシャンが! マーシャンが!」


「今は時間を空けたほうがいいわ。このままじゃ水掛け論になるだけだから」


「そんな……! マーシャンがどこかに行っちゃいま……」


「落ち着けエイミア。いま一番時間がいるのはマーシャンじゃなくてエイミア(おまえ)だ……」


 リルに言われて……エイミアはへたり込み。


「ひっく……ひく……わあああああああ!!」


 ……大声で泣き始めた。



 エイミアが落ち着くまでの時間でリルと話し合った。


「……やっぱり人魚族のことよね……」


「ああ……ハイエルフのマーシャンからすれば、他人事じゃねえからな……」


 マーシャンはハイエルフの滅亡を防げなかったのを、女王(じぶん)の責任だと考えてる節があるしね……。


「それよりも問題なのは」

「そうだな……」


 エイミアに……マーシャンの全てを話すかどうか。


「どちらにしても、マーシャンの出自は話すしかないわね」

「ああ……」


 エイミアがハイエルフについてどこまで知ってるか、ね……。



 二時間ほど経って、リルが風呂にいってすぐ。盛大なお腹の音が響いてきたかと思うと……。


「……お腹すきました」


 目と頬を赤く染めたエイミアが出てきた。そんなエイミアを見て苦笑した私は。


「……外でご飯食べながら話をしよっか」


 ……リルには申し訳ないけど……書き置きだけはしてこ。



 近くの酒場で夕ご飯を食べつつエイミアと話をした。


「おいしい……みたいね」

「はぐはぐはぐ」


 若干ヤケ食いがはいってる気もするけど……「太るわよ」なんて余計なことは言わないわよ。たぶんエイミアの場合は胸に栄養いくだけだし。


「まずはマーシャンのことだけど」


 モグモグしていた口を止めて私を見るエイミア。


「ハイエルフのことで知ってること話しなさい」


「わふぁひぐぁしっふぇ」

「悪かった悪かったわよ! 飲み込んでから話しなさい!」


 私は飲み物の入った瓶を渡した。エイミアはコップに飲み物を注いで……。


「げ! 待った待った! それお酒だった!」


 エイミアはコップを持った手を止める……が結局そのまま飲み干した。


「あ……あ〜あ……飲んじゃった……」


「ぷはー……何かマズかったですか?」


 マズいわよ……。

 絶対エイミアって酒癖悪そうだもん。脱ぎ魔だったり甘えん坊になったり……想像するだけで胃が痛くなる! まあそれ以前に。


「あんた未成年でしょ!?」


 そう言われたエイミアはコテンと頭を傾けた。


「この町はお酒の年齢制限ありませんよ?」


 ……へ?


「だいたいリルだってパカパカ飲んでたじゃないですか」


 ……そう言えば毎食飲んでたわね。


「……今まで気付いてなかったサーチの方が不思議です」


 うるさい。ぐびぐびっ


「それで? どこまで知ってるの?」


「え? ……ああ、ハイエルフのことでしたよね。数が少ない事くらいでしたら」


 その程度か!


「はあ〜……仕方ない。一から教えてあげるからしっかり聞きなさい」

「はあい」

「まずは……あ、ちょっと! お酒三本とつまみを適当に見繕って持ってきて!」


 私も飲みたい気分だったし……年齢制限ないならいいか。



「そうなんですか……マーシャンが女王()ったんですか……」


 ……少しエイミアの目が据わってきてるわね。


「エイミアはそろそろお酒ストップね」


「あ、そうですね。そろそろ限界ですし」


 ……ていうか妙に飲み慣れてるわね。


「貴族階級だと小さい頃から飲まされたりしますから」


 それでか。


「それよりも! サーチどんだけ飲んでるんですか!? もう樽三つ(・・・)は空にしてますよ!!」


 あ、そうなの?


「じゃあエイミアもそれぐらい(・・・・・)は飲まなきゃね」


「えっ!?」



 ……それから二時間。


「うぃ〜っ! の、飲みました〜!」


 ……冗談で言ったんだけどね。まさかホントに飲み切るとは……。


「……あんたも十分飲んべえ」


「いえいえサーチには負けます」


 そう言うとエイミアは背後に転がる無数の樽を見やった。


「私は飲んべえではサーチに負けましゅ(・・)。でもマーシャンへの愛では負けません!」


 樽に登って演説始めましたよ、この人……。


「というわけで! 私は! マーシャンに! 寝起きドッキリしてきます!」


 ちょっと待て。寝起きドッキリなんてネタ、どこで仕入れた。



「んっふっふ……マーシャン♪」


 ……ホントに来ちゃったよ。エイミア……完全に酔っぱらったわね……。


「いっきまっすよー♪ あっそーれ!」


 どっかああん!


「あ、あんた何やってんのよ!?」


「え? 釘棍棒で≪撲殺≫スキル使ってドアを破壊してま()


 リミッター切れてるーーーー!!!


「……な、なんじゃ!! 何が起きたんじゃ!!」


「あ、マーシャン起きた♪」


 起きないわけないだろ。


「エイミアか? 何の用じゃ……わぷっ!?」


「マーシャンつっかまえた♪」


 エイミアはマーシャンを抱きしめて頬擦りを始めた。


「エ、エイミア……今日は大胆じゃのう」


「はい! 大胆なんですぅー」


(サーチ! お主エイミアにどれだけ酒を飲ませたのじゃ!?)

(んー……樽で何本だっけ……)

(樽っ!?)


「もー……マーシャンは私のなのー! サーチと話しちゃダメー!」


 マーシャンめっちゃ戸惑ってるわりにめっちゃ鼻の下伸びてるわね……。


「マーシャンは私のー……だから……」


「んむ?」


 少しだけマーシャンから離れるエイミア。


「……人魚さん達助けたら必ず戻ってきて」


 ……!


「………………」


「約束よ、マーシャン。というより」


 再びマーシャンを抱きしめ。


「マーシャンは私のだから決定事項ね〜!」


 ……マーシャンの目から涙が伝う。


「マーシャンは……仲間で……大切な大切な友達なんだから……」


「う、うむ……わかっておる……必ず戻ろうぞ……妾はいつでもエイミアと共にある……うわああああ!」


 大声で泣くマーシャンをエイミアはいつまでも撫でていた。

 ……いつまでも。



「……無事に乗り越えたようだね、エイミアは」

「……あんた何時からいたのよ」

「さあね? ……彼女が……何でしょ?」


 こいつ知ってやがる。


「……あの子には言わないでよ」

「わかってるよ。その事は陛下にも念を押されてるからね」


 陛下?


「……もしかしてあなたは……」


「あの方は僕達『亜人』にとっても偉大な方なのさ……」


 亜人……ね。また古い言い方を……。


「ギルドマスター。お願いがあるんだけど……」


「陛下……じゃなくマーシャンのパーティ登録をそのままにしておいてほしいんでしょ?」


 やっぱわかるか。


「マーシャンは『ギルドの要請で人魚族の援助をしている』ということにしておく。こうすれば怪しまれないよ」


「……ありがとうって言っておくわ。今回は素直に」


 腹黒ギルマスは肩を竦めて去っていった。……あの容姿で肩を竦められても致命的に似合わないわよ、とは言わずにおく。



 そして、三日後。


「リル、エイミア。準備はいいわね?」

「食料、薬草、その他諸々おーけーだ」

「私も蓄電満タンで準備万端です!」


 よし。


「じゃあ、しゅっ……」



「ちょっと待つのじゃ〜!」



 あれは……マーシャン!?


「はあはあ……間に合ったの……」


「マーシャン……」


「……マーシャン……」


「何を辛気臭い顔をしておる? ワシはまだお主らのパーティを辞めたつもりはない!」


「そうですよね、今回は『ギルドの要請』で仕方なく……ですからね!」


「そういうことじゃ……そうそう、お主らにこれを渡しておく」


 そう言ってマーシャンは三つの水晶をくれた。


「……これは?」


「これこそハイエルフの秘伝の魔道具『念話水晶』じゃ! これがあればどれだけ離れていても、いつでも会話ができるのじゃ!」


「「す、すごい!」」


 ……要は魔法版スマホね。


「……サーチだけ反応が薄いのう……」


 もっとスゴいのが前世にありました……なんて言えない。


「何でもないわよ……それじゃあマーシャン」


 サヨナラは言わないよ。


「……またね」


「うむ……達者での」



 こうして。

 ハイエルフの女王であり。

 私達の大切な仲間マーシャンは。

 ……一時的にパーティから離れた。



 そして、私達はアタシーに向かう。

 その道中で。

 新たな出会いがあるとは知らずに。

閑話はさんで新章です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 個人的には エイミアが一番好きですね! なのでサーチはエイミアとくっつくといいなーと思って読んでいたのですが… でもとても面白かったです!これからも更新頑張ってください!
2019/12/04 03:08 退会済み
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