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EP16 ていうか、マスターコーミ。

 巨大ロボット関連グッズの販売に追われながらも、次の覇王装備についての調査も続ける。


『月に反応があります。あ、超合金の追加が届きました』

「火星の衛星にも反応したよ。あ、超合金の追加全部売れた」

「地球にも反応があるそうです。あ、ストラップ入荷しました」

「なーんかあちこち移動してる反応もあるみたいね…………はい、ストラップ売り切れ」


 入荷しては売り切れ、入荷しては売り切れの連続。嬉しい悲鳴ではあるけど、だんだんと本物の悲鳴になりつつあった。


「サーチ、関連グッズの注文がうなぎ登りだよ!」

「サーチ、問い合わせもうなぎ登りです!」

『サーチ様のイライラ度数もうなぎ登りです』


 ライラちゃん、よくおかわかりで。


「たくっ、このままじゃ本業に差し支えて仕方ないわ!」


 ヤケクソ気味にエンターキーを叩く音が響く。


『申し訳ないです、私のせいで』


「ていうかさ、あんたは宇宙ステーションのメインシステムなんでしょ!? こういう事務処理も仕事のうちなんじゃないの!?」


『申し訳ありません、私は戦闘が専門でして』


 何で宇宙ステーションが戦闘に特化してるんだよ!


「サーチ、キュアガーディアンズに援助を求めたらどうかな?」


 キュアガーディアンズにって……そういや全区画の1/4も空けておいたのに、一向に来る気配がないな。


「……そうね。援助を求めがてら、どうなってるのか聞いてみるか」



『はい、キュアガーディアンズ本部……あ、サーチじゃない。やほ〜』


「久しぶり、紅美」


 ホントに久しぶりの娘との会話。心が潤います。


『何か用?』


「ていうか、今大丈夫? 結構時間かかるかも、なんだけど」


『今なら大丈夫よ。どうせ何かしらの騒動なんでしょ?』


 よくおわかりで。


「あんたもインフェルノ・ノヴァのことは知ってるでしょ?」


『ああ、知ってる知ってる。何かとんでもない宣伝方法で売り出してる最新戦隊モノでしょ?』


「は?」


『如何にも「本物の巨大ロボットが出現した!」っていうフェイクニュース流してるじゃん』


 フェイクニュース!?


「…………そっか、一般人はそういう風に捉えたのね」


『はい?』


 ここで説明するのもめんどくさいし、何より顔見知りが来た方が何かと便利だし。


「……紅美、あんたがこっちに赴任しなさい。それがベストだわ」


『はいい?』


「じゃあそうなるように手配するから。じゃね」


『え、あ、ちょっと!?』


 紅美とのテレフォンを切ると、そのままの勢いでソレイユとデュラハーンへの根回しに勤しんだ。



 で、翌日。


「……信じらんない……」


 旅行カバンを手にした紅美が、宇宙ステーションの搭乗口に立った。


「いらっしゃ〜い」


「ちょっと! これってサーチの差し金でしょ!?」


「はい〜? 何のことかしら〜?」


「すっ惚けないで! たった一日で異動なんて、普通の組織じゃあり得ない。相当上からの圧力でもない限りね!」


 実際はソレイユからデュラハーンに何回も脅迫(ようせい)があったからなんだけど。


「ま、いいじゃない。そのおかげで久々に会えたんだし」


「そ、それは……まあ……」


「だったら無問題! ほら、こっちこっち」


「わ、ちょっと!?」


 手を引かれた紅美は、慌てて荷物を持ち上げた。



「へえ……これが新しいキュアガーディアンズ支所になるのかぁ」


 まだ何もない真新しいオフィスを見て嬉しそうな紅美。


「ていうか紅美、あんたが支所長になるの?」


「そうだよ」


「部下は?」


「無し。そんな大規模な支所じゃないから、私とステーションのメインシステムで十分処理できるよ」


「…………できるかな」


「へ? 何で?」


「だって……ほら」


「ま、また売り切れました!」

「もう入荷が間に合わないよ!」

『人員増を推奨します。私も回路が焼き切れそうです』


 真新しいオフィスの反対側で、空中端末を部屋中に広げてパニクる三人を指差した。


「私達四人でも毎日あんな状態よ」


「……成程ね。それよりサーチ、このステーションのマスターは誰?」


「マスター? 一応私になってるけど?」


「あ、ならちょうどいいや。そのマスター権限、私に譲ってくれない?」


 権限を? 全然構わないけど……。



「改めましてフレア、これからよろしく」


『新マスター・コーミ、こちらこそ宜しくお願いします』


「うんうん。まずはシステムの優先度を教えて」


『はい。今の最優先事項は敵襲に備えての第一次警戒態勢維持、となっています』


「成程、だからか……マスター権限を行使。第一次警戒態勢を解除し、通常業務を最優先事項に切り替えて」


『了解致しました。戦闘警戒レベルを最低で維持。速やかに通常業務を開始します』


「オーケー。なら巨大ロボット関連グッズの販売に関してはフレアに一任するわ」


『了解致しました。単価については儲けを何割に設定しますか?』


「それも任せる。足が出ない程度で回して」


『了解致しました。では市場を注視しながら、適正な価格で運営します』


「よろしく〜」



 たったこれだけのやり取りで、マシンガン並みだったテレフォンと問い合わせはピタリと止んだ。



「はい、これでもう大丈夫でしょ」


「ちょ、ちょっと、業務に優先度なんてあったの?」


「ええ。こういうシステムは良くも悪くも忠実だから、一旦指示されたことは絶対に押し通すわ。このステーション、最近海賊か何かに襲われたんでしょ?」


「ええ」


 海賊じゃなくてブラッド・マーズ・ファミリーだけど。


「その時に戦闘警戒レベルが最大になっちゃって、それが維持されてたんだね」


 そんな単純なことだったのかよ!


「わ、私達の今までの苦労は一体……」


「ステーション運営の基礎中の基礎なんだけど、サーチは知らなかったの?」


 知るかっ!



 何はともあれ、紅美がステーションに来てくれたことで、私達はようやく覇王装備の追跡に集中できるようになった。


「さーて、一番近くにある覇王装備はどこかな?」


『ぐるぐるぐーる! こっちこっち!』


 へ? 妙に具体的ね。


『こっちこっち! 案内案内!』


 ミニマーシャンに導かれるまま歩を進めると。


「あら、サーチ。今度はどうしたの?」


 ようやくオフィスらしくなったオフィスで空中端末を操作していた紅美。


『ぐるぐるぐーる! ここ! ここ!』


 ミニマーシャンはひたすら紅美を指差す。ま、まさか……。


「紅美、何か貴金属を身につけてない?」


「貴金属ぅ? 少し前に月で買ったネックレスくらいだけど?」


 盾の形をしたペンダントだ。趣味悪。


『ぐるぐるぐるぐるぐーる! それ! それ!』


「「はいい!?」」


 んなアホな。

灯台、元暗し。

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