EP13 ていうか、へっぽこ。
『何と! そのような書物が存在しておったのか!』
マーシャンにテレフォンしてみたところ、凄まじい食いつきだった。
『読みたいのう読みたいのう読みたいのう読みたいのう』
「ならここまで来なさいよ。私達はしばらく滞在するつもりだから」
「そうじゃな。ならばお邪魔させてもらおうかの」
っ!? 背後に何やら気配が!
「ちぇいっ!」
ずどぉ! めきめきめき!
「ぐぶぉえ!?」
後方へと回転蹴りを放つと、見事にマーシャンの脇腹にジャストミート…………って、えええ!?
「マ、マーシャン!? 何でこんなとこにいるのよ!」
「お、おおおお……い、急いで≪転移≫してきたら……あ、あばら骨が砕けたわい……」
半泣きになりながらも、自分に回復魔術をかける。
「ス、スゴい。もう治ったの?」
「古今東西、様々な回復魔術をマスターした妾じゃから、できる事じゃの。今のは新大陸北部が起源の≪治癒≫じゃ」
ほええ。なら。
びゅっ ばきょ めきゃぼきゃぐしゃあ!
「おぼお!? …………な、内臓が…………≪治療≫」
パアア……
「また治った」
「ふふふ、今のがハイエルフ直伝の」
どがっ! ごきべきみし!
「ぐはあ! ……ぐ、ぐふ……≪休養≫」
パアア……
「……ふう。これが南の常夏の楽園に伝わる」
ばがっ! ぶちぶちぶちっ!
「おぶふぅふぉ!? ……こひゅー、こひゅー」
あ、やべ。虫の息になりだしたか。焦ってポーションを取り出す。
が。
パアア……
「ふっふっふ、妾ふっかーつ!」
「あ、あれ? 死にかけてなかった?」
「これは妾のとっておき、急速回復魔術≪完全治癒≫じゃ」
靴かよ!
「ていうか、ヴィーの≪完全回復≫に似てるわね」
「あっちのは聖術じゃろ? 完全な別物じゃよ」
「なら……マーシャンには≪完全回復≫は使えないのね」
「そうじゃな。こればかりはどうにも出来んの」
「あー、そっかそっか。回復魔術をマスターと豪語なさる割には、聖術となるとからっきしなのね」
カチンッ
……ていう音が聞こえてきそうなくらい、マーシャンの表情が歪んだ。
「………………何じゃと?」
「えーと、だから、マーシャンは、回復魔術を、マスターした割には、へっぽこだなーって」
「へ、へっぽこ!? へっぽこじゃと!?」
マーシャンが真っ赤になって怒り出す。
「サーチ! へっぽこを取り消せぃ! それは許せぬ! 我慢ならぬ! 今すぐに取り消すのじゃあ!」
何でへっぽこにそこまで反応するのかな。でも、これなら……。
「へっぽこはへっぽこじゃん。悔しかったら≪回復≫の一つも覚えてみなさいよ、このへっぽこ女王!」
「な……へ、へっぽこ女王じゃとおおおおおお!? もはや許せぬ! 良かろうう! 覚えてみせようぞ! 使いこなしてみせようぞ!」
「なら頑張って覚えてね。使えない間はマーシャンのことは『へっぽこ』って呼ぶから」
「うがああああああ! マスターしてやる! マスターしてやるわあああああ!!」
そう言ってマーシャンは訓練場の方向へ走っていった。
「……ふー、やれやれ。これで朝ご飯が作れるわ」
そういってキッチンへと向かうと。
「あ、サーチ、お腹が空きました」
「サーチ、ご飯ご飯ご飯」
『お早う御座います、サーチ様。私が作ろうと思ったのですが、お二方ともサーチ様の手料理をご所望でして……』
あーめんどくさい。マーシャンとの回復魔術のやり取りが、思わず長引いちゃったからなー。
朝ご飯を食べて、食器を洗い終えたころ。
「すぅわああああああああああつぃぃぃぃぃぃ! すぅわああああああああああつぃぃぃぃぃぃ!」
妙な叫び声が聞こえてきた。これは……マーシャンよね……。
「はいはーい」
「居たあああああああ! すぅわああああああああああつぃぃぃぃぃぃ!」
うるさいな。何なのよ。
「どぅえきとぅあぞおおおおおおおおお!!」
「わかったわかった。で、何ができたのよ」
「何がって……≪回復≫に決まっておろうぐぅわあああああああ!」
しゃべりがウザい。
「見ておれよおおおお…………我が内に流れし魔力よ、その柔軟な対応力で異なる系譜を発動せよ。≪回復≫!」
………………ぽわん
……へ?
「どうじゃ! できたじゃろ!」
「…………今の『ぽわん』が?」
「そうじゃ! あれだけでも凄い事なのじゃぞ!」
……いくらスゴいと言われても……。
「……あの程度じゃ、へっぽこ返上はムリよね」
「な……!?」
「ほらほら、悔しかったら≪完全回復≫をマスターしてみせなさいよ、へっぽこ女王さん?」
「うぬぬ……おのれえええええええ!! 見ておれよおおおおおおおおっ!!」
そう言って再び訓練場へ走っていった。よし、お昼ご飯のときはジャマされないわね。
お昼ご飯が終わり、食器洗いはライラちゃんが引き受けてくれた。
「さて、そろそろ来るかな……」
待ち構えていると。
「す、すぅわああああああああああつぃぃぃぃぃぃ…………」
来た来た。ていうか、朝より迫力がないような?
「す、す、す、すぅわああああああああああつぃぃぃぃぃぃ…………み、見つけた……」
ていうかマーシャン、めっちゃガリガリなんですけど!?
「い、一体どうしたってのよ!?」
「ま、魔力を吸い尽くされ……」
へ?
「す、済まぬ。い、一度は成功したのじゃ。じゃ、じゃが、魔力が尽きて……ゴホゴホ」
し、死にかけじゃん!
「た、頼む、本当に、本当に一度は成功したのじゃ。じゃから……あれは……あの言葉だけは……」
そんなにへっぽこがイヤなの……?
「……はあ、わかったわ。もう言わないわよ」
「そ、そうか! よ、良かった…………我が人生に、一片の悔い無し!」
おいおい。ていうか、片手突き立てたまま白くなってるし!? ちょっとおお!!
『……危ないところでした』
大急ぎでヴィーを呼び出し、遠隔聖術でマーシャンを治療してもらった。
「助かったわ……ていうか、一体何だったの?」
『簡単に言えば、極度の魔力切れですね』
「魔力……切れ? 単なる?」
『馬鹿にできませんよ。魔力が無くなった代わりに生命力を使ったようですから』
「はいいっ!?」
『それにしても……陛下がそこまでしなければならなかったとは、余程の相手だったのですね……』
「じ、実は……」
『……煽るサーチにも罪はありますが、そこまで過剰反応する陛下も陛下ですね』
「あ、そうだ。魔術しか使えないマーシャンが聖術使うのって、やっぱキツいの?」
『キツいですね。例えるなら、息を止めたままフルマラソンを走るくらい』
死ぬわっ!




