EP12 ていうか、覇王装備発見。
「そ、そりゃこんな巨大な宇宙ステーションの動力源にしちゃえば、どれだけ強力な装備品でも壊れちゃうわよ……」
ていうか、何てことをしてくれたのよ……。
「ど、どうするの? 陛下がこのことを知ったら、ひっくり返っちゃうよ?」
うーん……ラスボス前で手に入る最強装備が、全部壊れてて使えない……って感じよね。
「あ、待って。砕けた腕輪のカケラは保存してあるそうだから、それだけでも持って帰りましょうよ」
「へ、カケラ? うーん…………確かに何もないよりはマシだよね。どこにあるの?」
ナタはかろうじて立っているボロボロの棚を探し始める。そんなとこにはない。
「えーっとね、研究資料室。上の階の右隅ね」
「この部屋じゃないのか…………って、ん?」
ナタは何かの本を開いた。
「…………あ、あれ? あれあれあれ? な、何これ?」
「今度はどうしたのよ」
「変な本があったから読んでみようと思ったら、何て書いてあるかわかんないの」
何て書いてあるかわかんないだあ?
「どういう本なのよ……何て本?」
「題名だけはわかった。ネクラノミコン」
ガタタッ!
思わず椅子からずり落ちる。
「サーチ、どうしたの?」
「な、何でもないわ……」
何て微妙なネーミングの本なのよ…………ん? ネクラノミコン?
「た、確か、それの写本がゴールドサンにあって…………あ、あああっ!」
「ど、どうしたのサーチ!?」
マコト写本解読に奔走したときのノウハウは頭に残ってる。それと合えば……!
「サ、サーチ?」
ネクラノミコンはここに全部で七冊ある。これの一番最初の文字を……。
「おーい、サーチぃ?」
こ・の・き・ろ・く・を・はっ・け・ん……この記録を発見……よし、ビンゴだ! 私は魔法の袋からメモ帳を取り出すと、解読した文字を書き連ねていった。
それから一時間ほど。
「……よし、終わった」
ページの最初の文字を巻数の若い順に並べていくと、もう一冊のネクラノミコンができあがる。それこそがマコト写本にも記されていなかった「真説ネクラノミコン」だ。
「ふむふむ、これによると……ああ、なるほど」
「ふわぁ……サーチ、終わった?」
ていうか、ナタ寝てたな!
「ちょうどいいわ、ナタ手伝ってよ」
「手伝うって……まあいいけど、何を?」
キーボードを叩き、宇宙ステーションの太陽光パネルを検索する。
「……よし、あるわね。動かすには……まずは最下層まで行って、メインシステムのデータに直接アクセスしてきてくれない?」
「最下層の? わ、わかった」
真説ネクラノミコンの内容がホントなら、この宇宙ステーションは……生きてる。
『終わったよ』
「じゃあ次は一番上へ行って」
『い、一番上!? 最下層から一番上へ移動しなくちゃならないの!?』
「さっきまで寝てたでしょうが! つべこべ言わずに走れ!」
『うぅ〜、は、はーい』
……待つこと五分。
『は、はあはあ……つ、着いたよ、サーチ』
「はい、なら一番端の部屋に向かって」
『い、一番端……は、はーい』
「走れぃ!」
『は、はいい!?』
……五分後。
『は、は、はあ、はあ、つ、つ、着いた、よ……』
「なら部屋に入って、どれでもいいからコンピュータを動かして」
『動かしてって……もう起動してるよ?』
ていうことは、やっぱりビンゴだ。
「ならその起動してるコンピュータに文字を打ち込んでほしいの。いい?」
『文字をだね……オーケー、いいよ』
「じゃあ英小で、com?voxwt……」
十五分ほどかけて文字を打ち込んでもらう。
「最後に全角文字で『あはは〜ん』って打って終わり」
『全角文字で「あはは〜ん」? 意味わかんないよ』
全くだよ。
「よし、それじゃ最下層へゴー!」
『…………へ?』
「だから、最下層までゴー」
『は、はああああああ!?』
「ほらほら、早くしないと夕ご飯になっちゃうわよ。ゴーゴーゴー! 早くいけえええっ!」
『お、覚えてなさいよおおお!!』
捨てゼリフはいいから、さっさと足を動かせ。
『……ひはぁぁぁ、ひはぁぁぁ、ひはぁぁぁ……』
「着いたみたいね。なら最下層のコンピュータで、赤く点滅してるボタンがあるでしょ」
『ひはぁぁぁ…………あ、あるよ……』
「押して」
『は、はひぃぃ……』
…………ズズズズ…………
『……ん? 今の震動は?』
「あ、気にしなくていい。次は最下層の左隅の部屋」
『えええええええええええっ!?』
ナタの抗議の叫びは無視します。
「ほら、早く行って」
『ちょ、ちょっと待ってよ』
「待てないわ。早くしないと解除コードがリセットされて、また最初っからになるわよ」
『さ、最初から!? わ、わかった。行く、行くよ』
「なら全速力でダッシュ! 休んじゃダメよ、突っ走れええ!」
『そ、そんなぁぁぁぁぁ!?』
「次、一番上の左の部屋!」
『え、えええ!?』
「次、最下層の右隅の部屋か、左隅まで全部!」
『そ、そんなぁぁ』
「次、右隅戻ってまた左隅!」
『ちょ、ちょっと休ませてよ!?』
「次、真ん中の部屋の隣!」
『ひ、ひい、ひい』
『……って、ここってサーチがいる部屋の隣じゃんか!』
「つべこべ言うな! 次は最下層の四隅全部!」
『ぎゃああああっ!』
「……よし、これでこの起動ボタンを押せば……!」
……ドゥゥゥゥゥゥン……
フィィィィィッ!
『国際宇宙ステーション初号機「いんふぇるの」起動致します……マスター、初めまして。当機の管制を統括しています、メイン制御システムの「ふれあ」でございます。よろしくお願い致します』
「こちらこそ。私はサーチよ」
『マスター・サーチ、登録致しました。これより当機はマスター・サーチの指示に従います。ご命令をどうぞ』
「宇宙ステーションの周りを飛んでいる船が一隻いるでしょ? あれは私達の船だから、このステーションまで誘導して」
「承りました」
よし、これで完了っと。まさか覇王装備自体が形がないモノだとはねぇ……。
覇王が身に付けた鎧、形にとらわれず。覇王の念が通った物、それが覇王の力を宿す。
ネクラノミコンにはこう書かれていた。言葉通りだとしたら、覇王装備とは覇王の念……つまり気が通ったモノ。
だとすると、覇王の気を燃料として取り込みまくった宇宙ステーションは……覇王の気を宿していることになる。
「動かなくなったのは、純粋なエネルギー切れだったのよ」
だから残ってた予備エネルギーを使って太陽光パネルを伸ばし、ちゃんと発電すれば……ほら、動く。太陽光がない場合は エイミアに充電してもらえば十分でしょう。
「かひゅー……かひゅー……」
あ、その前にナタに充電しないとね。
その後たっっぷりと血を吸われて、今度は私が倒れる番になった。
宇宙ステーションそのモノが覇王装備に。




