EP8 ていうか、ステーション。
『ぐるぐるぐーる! あれ! あれ! あれ!』
「あれって……人工衛星?」
ミニマーシャンが指し示していた場所には、再び何か残骸が漂っていた。ただ形状的に宇宙船ではない。
「人工衛星にしては大きくないかな?」
「……宇宙ステーションではありませんか?」
『エイミア様の仰る通り、宇宙ステーションだと思われます。百二十年前まで使われていた旧式のタイプと類似点を確認致しました』
宇宙ステーションかぁ。この世界にもやっぱあったんだね。ライラちゃんの言葉をニーナさんが補足してくれる。
『駅と言うよりは港というべきでしょう。まだ恒星船と着陸船が別々に必要だった時代に、恒星船を停泊させておく為に必要だったのです』
あ、そうなんだ。この船ってダイレクトに惑星に着陸できるから、あまり意識してなかったわ。よくわからないけど、昔は恒星船ってのと着陸船は別々のモノだったらしい。
「やっぱり廃ステーションなの?」
『はい。百二十年前に廃棄された国際宇宙ステーション〝インフェルノ〟と類似する点が多数認められますので、間違いないかと』
地獄かよ! 違う名前にしろよ!
『サーチ、強ち地獄でも間違っていませんよ』
「……ニーナさん、私の心の声を読むのは止めてくんない?」
『いえ、顔に書いてありますよ』
ウッソだあ、エリザじゃあるまいし。
……ん? 何でエリザだって? カメレオン獣人のエリザは身体の保護色の変化が苦手で、自分が強く思ったことを身体に表してしまう悪癖があったのよ。それこそ「顔に書いてある」をリアルにやってしまうような。
『インフェルノは宇宙ステーションとしての役割を終えてから数十年間、凶悪犯の終身刑務所として使用されていたのです』
リアルな地獄じゃん!
『結局使用限界を迎えた事で完全に廃棄処分にされ、この宙域を漂っていたみたいですね』
「うわあ……リアルに何か出そうだよね」
ナタ、そういうことは言わない。
「い、嫌ですよう! ゴーストとかゾンビとか出てきたら!」
「ていうかエイミア、ゴーストなんて最低レベルのモンスターじゃない」
『エイミア様、私は元ゾンビで御座います』
「あ、そ、そうですね……失礼しました」
今ならよくわかるけど、現代地球のオバケってファンタジーの世界じゃ大したことないのよね。霊体は剣で斬れるし、呪いは魔術で解けるし。髪の毛振り乱して「あ゛ーっ」って迫ってきたところで、聖属性で一撃なのだ。
「……ニーナさん、今回は周りに何もいない?」
『ええ。対幻影用にレーダーも強化してありますから万全です』
よし。
「私とナタで宇宙ステーションの中を探るわ。エイミアとライラちゃんは船で待機、周りを警戒してて」
「オッケー」
「わかりました!」
『畏まりました』
うーん……ヴィー達なら「「「了解」」」ってまとまるんだけど……やっぱ違うんだなぁ。
「さあさあ、侵入者は全員私が痺れ倒してやるんだから!」
『エイミア様、痺れ倒すと言うのは変です』
……ま、エイミアにそれを求めるのはムダか。
「じゃあ行ってきまーす」
インフェルノとドッキングし、内部に潜入する。船は私達が入ったのを確認してから再び離れ、周りの宙域の警戒にあたる。
『当時の内部データがありましたので、サーチの端末に転送しておきます』
「ありがとニーナさん」
空中端末の画面の一部を視界上に表示しておく。これでナビ代わりになる。
「えっと……ここは資材搬入口ね。ならこっちに行けば……」
ステーションとしての機能は死んでいるので、空気も重力もない。ボディバリアなら空気は何とかなるけど重力はどうにもならないので、無重力の中を進むことになる。
「……あった、階段。これを登れば……」
荒れ果てた事務所みたいなモノがある。刑務所時代には看守の休憩室になっていたようだ。
ガタッガタガタッ
「んっ、んっ……開かないよ」
「おしおキック!」
どげんっ!
ばたああああああん!
「ほい、開いた」
「…………まあいいけどさ」
ドアを蹴破って入ったとたん。
……ドゥゥゥゥゥン……
「ん? 何の音?」
「機械が起動した音に思えたけど……」
機械が起動? 廃ステーションなのに?
……ゥゥゥゥゥゥゥゥン……
「…………サーチ、やっぱりそうだよ。機械の電源が立ち上がってる」
「モニターの明かりが点いてるわね。まさかこのステーション、生きてるの?」
どんどん広がっていく明かり。やがて。
ウィィィィィィン
荒れた休憩室の端末は完全に起動した。やっぱりこのステーション、まだ使える。
「……どうするの?」
「ま、起動したなら話は簡単。制御システムにアクセスして、内部の詳しいデータをいただきましょ」
そう言って端末に近づくと。
バチバチ……
ん?
「サーチ、退避して!」
ナタの叫びに反応し、後ろへ飛ぶ。すると。
バヂヂヂッ!
「うわっ!?」
「明らかに致死性の電撃だよ! サーチ、ただの警備システムじゃない!」
普通の警備なら弱い電撃で侵入者を気絶させる。でも今のは、直撃していたら炭になっていただろう。
「この……! 廃ステーションのくせに!」
ガンブレードをマシンガンモードに切り替え。
ダダダダダダダダダダダダダダッ!!
端末を全て蜂の巣にしてやる。
ヴ、ヴヴヴ……バチバチ……
火花を散らせて端末は沈黙した。
「これはマズいね、サーチ。一旦船に引き上げよう」
「そうね。ちゃんと準備してから、もう一度アタックを……ん?」
そう言ったとき、私はステーションの外部に何か飛翔体がいることに気がついた。
「小型の……ロボット?」
「あれはステーションの外部を補修する工作ロボットだね」
工作ロボット……って、おい。
「単なる工作ロボットがスラスターや銃器を着けてるもんなの?」
「うん、普通はないね。たぶん自分達で改造したんじゃないかな」
そっかー、改造って……銃をこっちに向けやがった!?
「サーチ伏せて!」
銃を構えたナタの言葉に従うと、私がいた空間を巨大なエネルギー波が通りすぎる。
ズズゥゥゥン!
ロボットが爆発した音が響く。私もガンブレードを小型バズーカモードにし、狙いを定める。
ドゥン!
ズガアアアアン!
もう一体の工作ロボットを直撃し、爆散させる。
「な、何なの、こいつら!」
「わかんないよ! どっちにしても敵なのは間違いない!」
休憩室の周りは工作ロボットに取り囲まれてる。仕方ない!
ざぐんっ!
空想刃で床に穴を空ける。下に逃げるしかない!
「ナタ、戦略的撤退!」
「要は逃げるんだね!」
私とナタが同時に穴に飛び込む。その瞬間。
どぐわあああああん!
休憩室は粉々になった。
今度は対ステーション。




