小話 マーシャンの決意
十五話の中間くらいにあった腹黒ギルマスとマーシャンとの極秘会談。
「お久しぶりです、陛下」
「……妾はいまはただの冒険者マーシャン。敬語なぞ使わずともよい」
「いえ。小人族を始め『亜人』とかつて呼ばれた種族の祖であるハイエルフの女王たる御身に敬意を払うのは当然の事と考えます」
「まあ良い。好きにするが良い」
「はっ」
「そなたに聞く。人魚族に起きたる災い、我らハイエルフと同じくするか?」
「……はい、残念ながら」
「……そうかえ」
そういうと女王は目を閉じる。
「……妾が危惧しておった未来は現実になり得るか……」
「………………」
女王は考えていた。
自分が護ってきたハイエルフ族が一人、また一人と死んでいった日々を。
何も出来ずに看取ることしかできなかった悔しさを。
そして。
永い永い人生の中でほんの少しだけの時間。
勇者らしくない勇者と元従者の孫。
そして自らを「転生者」だと打ち明けてくれた奇妙な重装戦士。
久々に本当の自分を出せた彼女らとの日々を。
頭の中を駆け巡った。
「……小人族の長よ」
「はっ」
「各一族の長の召集を。妾は同じ悲劇は二度と起こすつもりは無い」
「……では」
「妾とて無駄に齢を重ねてはおらぬ。今なら間に合うやもしれぬ」
「……何か考えがおありで?」
「時は貴重じゃ。妾に伺いをたてる余裕があるならば、一刻でも早く事を成せ」
「御意。失礼します」
………………。
「……妾の……休暇は……終わりかの……」
……。
ぽた……ぽたぽた……
「妾は……妾は……」
ぽたぽたぽた
「妾は……ワシは……別れとうない……ワシは……まだ……旅をしたいのじゃ…………じゃが……ワシしか……妾しか……人魚を救えぬ……」
「……許してたもれ……」
「……許して……」