EP6 ていうか、姉妹の会合。
リファリスからは興味深い情報は得られたものの、根本的な解決にはならなかった。覇王装備に関しても知らないそうだ。
ただ、覇王装備でスキルを盗めることに関しては。
『それは……とんでもないね。≪化かし騙し≫と≪立体幻影≫を組み合わせたりすれば、防ぐ手段はないだろうね』
……とのことだった。それは体験した私から見ても同意見だ。
「でもこれでハッキリしたわ。ブラッディーロアの狙いは、間違いなく覇王装備。それも血の四姉妹内でも使う目的が明らかに異なっている」
「〝飛剣〟と〝刃先〟は間違いなくマーシャンの妨害が目的ですよね」
「そうなるとファーファは単純にスキル獲得が目的かな」
私達が話し合ってる途中、後ろに控えていたライラちゃんが進み出て発言する。
『すみません、血の四姉妹についてお聞きしたいのですが』
「はいはい、ライラちゃんどうぞ」
『世事に疎い私でも血の四姉妹の事は存じておりますが、前々から疑問に思っていた事があるのです』
「……何かな?」
こういう意見は貴重だ。深く物事を知っているより、何も知らない素人の意見のほうが的を得ていることは結構ある。
『何故男性がいらっしゃるのに血の四姉妹なんでしょうか?』
知らんわ!
「……〝飛剣〟と〝絶望〟は女性だけど、〝刃先〟は男だったよね……」
「そう言われてみれば不思議ですよね」
どうでもいいわ!
『それともう一つ』
もういいわよ!
『最後のお一人は……誰なのですか?』
「血の四姉妹の最後の一人?」
『はい』
「えっと……誰だったかな」
悩むナタ。ていうか、知らないのかよ。
「〝繁茂〟」
「え?」
「血の四姉妹最後の一人は〝繁茂〟よ」
「あ、そうだそうだ、〝繁茂〟だ」
「〝繁茂〟って……あの〝繁茂〟さんですか!?」
「そうよ、あの〝繁茂〟さん……っていうか、エイミア知ってたよね?」
「はい?」
「……あのねえ。こっちの世界に来たばっかりのころ、母艦でデュラハーンから聞いたでしょ?」
「…………そうでしたっけ?」
はああぁぁ……やっぱエイミアはエイミアだわ。
「一応ソレイユにも確認してみたけど、何で〝繁茂〟が血の四姉妹になってるのかは知らないって」
「そ、そうですか……」
そうだ、忘れてたけど〝繁茂〟がどう動くかも見てなくちゃならないのよね。
「はあ……どんどんめんどくさいことになっていく……」
院長先生……お願いだから敵対しないでよ。
……カタン
「……誰かしらぁ、レディの部屋に侵入するお馬鹿さんは」
「…………ヒルダ、会議の時間だぞ」
「何だ、エッジか。今日は御前会議だったっけ?」
もう水曜日だったかしら。
「いい加減にサイクルに慣れろ。この世界になってから相当時間が経っているぞ」
「はいはい。あんたの小言と一緒で、いつまで経っても慣れられないモノもあるのよ」
あーあ、まーた肩が凝る事をしなくちゃならないのかぁ。
「なら行くわよ……後をお願いね」
『はい、承りました』
私付きのアンドロイドに仕事を任せ、エッジと共に部屋を出る。
「他の子達は来るのかしらね?」
「ファーファは来るだろう。今回の御前会議の進行役だからな」
「ファーファかぁ……正直面倒よね、あの娘」
「仕方ないだろう。新入りとは言え、我らと同じ血の四姉妹なのだからな」
「ったく、総長は何であの娘を〝絶望〟の後釜に据えたのやら」
あれは自分の事にしか興味が無い。ブラッディーロアの事も、自分が駆け昇る為の踏み台くらいにしか思っていないだろう。
「いい加減に愚痴は止めろ。もう会場だぞ」
「はいはい」
私達が会場前の赤絨毯に立つと、ズラッと並んだメイドが深々と頭を下げて迎えてくれる。一番扉に近い二人がドアノブに手を掛け。
ギィィ
「〝飛剣〟のヒルダ様、〝刃先〟のエッジ様、御入来で御座います」
侍従の声を聞きながら私とエッジは別々の席に座る。リング状のテーブルに四方向に置かれた椅子に、私達のシンボルが彫られている。私は空を舞う剣の意匠が描かれた椅子に腰をおろした。
「〝絶望〟のディアボロス様、御入来で御座います」
あらあら、噂をすれば、ってヤツかしら。早速小娘が来たわ。
「ごきげんよう、〝飛剣〟に〝刃先〟」
「久し振りね。あちこちで御活躍のようね」
「お陰様で。で、血の四姉妹筆頭の〝飛剣〟様は何をしていらっしゃったので?」
「口を慎め、〝絶望〟。〝飛剣〟は総長から全権委任されている事は知っていよう」
「ええ、よく知ってますわ」
「お前が仕出かした事の尻拭いを誰がやっていると思っている。生意気な口はスマートに仕事をこなせるようになってから叩け」
「っ……し、失礼致しましたわ」
顔を真っ赤にして着席する〝絶望〟。ふん、青二才が。
「〝繁茂〟様、御入来で御座います」
あらあら、これは珍しい。
「貴方こそ久し振りね、〝繁茂〟」
『大変ご無沙汰しておりました。地球の案件が漸く片付きました故』
ああ、総長直々の。
「随分とごゆっくりでしたのね、〝繁茂〟。あまりに遅いと総長に愛想を尽かされますわよ」
ダアンッ!
「ひぅ!?」
放った飛剣が〝絶望〟の座る椅子に刺さる。
「控えよ、下っ端。総長直々に仕事を賜る〝繁茂〟とお前を同列に並べるな」
「……っ……いくら筆頭とはいえ、刃を向けられたからには……只では済ませませんよ!」
小娘が銃を抜く。周りに幻影の霧が立ち込め、小娘の姿がぼやける。
「ちょうどいいわ。この場でお前の首を断ち、新たな〝絶望〟を選任するとしようか」
私も幾つもの飛剣を放つ。
が。
――止めぬか。
突然響いた声に手が止まる。小娘も同様に。
「そ、総長……」
丸テーブルの中央にある玉座。そこに一体のアンドロイドが座っていた。いつの間にか。
――同じ姉妹同士、争うのは禁じていたはずだが?
「も、申し訳ありません……」
身体を震わせながら頭を下げる〝絶望〟。あの震えはどうみても恐怖からくるモノだろう。
――お前もだ、ヒルダ。筆頭らしくもない。
「返す言葉もありません」
――我に免じて争いの矛を納めよ。良いな。
「御意」
この御方がブラッディーロアの総長にして、私が頭を垂れる事を決めた唯一の存在。
「ブ、ブラッディーロア総長、サーシャ様、御入来で御座います」
サーシャが総長?




