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EP3 ていうか、ゴムパッチン。

『サーチ、レーダーに反応が』


 ニーナさんの一報を受けて、私は部屋から飛び出した。艦橋へと突っ走る。


 フィーン


 扉が開いた先には、深々と頭を下げるライラちゃんが。


「他の二人は?」


『まだ寝ておられます』


「……ニーナさん、水をぶっ掛けてやって」


『お湯にしましょうか? 氷水にしましょうか?』


「交互に」


『わかりました』


 ま、じきに来るでしょ。


「ライラちゃん、レーダーに映ったってのは?」


『ニーナ様の観測記録によりますと、人工天体と推測されます』


「人工衛星か何か?」


『もう少し質量があります。小型の宇宙船ではないかと』


 宇宙船でこの宙域って……完全に航路から離れてるわよね。


「生命反応は?」


『ありません』


 なら難破船か。


「……行ってみるしかないわね」


『そうですわね……あら、何か水の音が』


 ぱちゃん ぱちゃんっ ぱちゃんっ!

 フィーン


「サーチ! あんたの指示でしょ!」


 びしょ濡れになったナタが怒鳴り込んできた。


「発案はニーナさん、指示は私」


「ニーナさんとグル!?」


「ていうかさ、緊急の呼び出しに応じないあんたが悪い」


「う、うぐぐ……」


「ほら、さっさと着替えてきなさい。あと濡らした廊下はちゃんと拭いときなさいよ」


「ぬぐう〜……覚えてろよー!」


 今どきのザコキャラでも言わないようなセリフを残して、ナタは走り去っていった。


「拭いときなさいっつってんのに……それよりエイミアは?」


『まだ寝ています』


 ……は?


「ニーナさん、お湯と氷水は?」


『掛けましたが電気分解されました』


 あのバカ、寝ながらなんて物騒なバリア張ってんのよ!?


「じゃあ物理攻撃で。タライでも落としてやって」


『それも電気分解されました』


 ずいぶん万能な電気分解だな!


「……仕方ない。ちょっと行ってくるわ」


 艦橋を出てエイミアの部屋へ。



「エイミア、起きなさい! エイミア!! こら、起きろっての!」


「すやー」


 五分叫ぶけど応答なし。物騒なバリアのおかげで叩き起こすこともできない。


「……はあ。ニーナさん、ゴム製のチューブある?」


『絶縁体ですね、ありますよ』


 十秒ほどで上からゴムチューブが降ってきた。長さは3mほどある。


「これなら申し分なし! 起きろエイミア!」


 ムチの要領でエイミアのお尻に振り下ろす。


 ピシュン

 バシィン!

「ひゃん!」


「起きなさいよ……って、あれ?」


 エイミアは叩かれた瞬間は声をあげたものの、結局また寝てしまう。


「ウ、ウソでしょ……おらおらー!」

 バシィン! バシバシバシバシィン!

「ひゃん! ひゃん! ひゃはあん!」


 ……何か声に艶が出てきてるような……。


『サーチ、このまま続けるとエイミアに危険な何かが芽生えますよ』


 それはマズいわね。ちゃんとコメディにあった展開にしないと。


「ニーナさん、ペロペロキャンディーあります?」


『ありますよ』


 再び降ってくる。ていうか、どこから降ってきてるの?


「まあいいか……とりあえずゴムチューブの先にペロペロキャンディーを括りつけて……」


 それを振り回しながら待機し、エイミアに一言。


「エイミアー、アメが欲しければ一時的にバリア解除して」


 …………解除されたかな?


「エイミア、あーん」


 口を開いた。たぶん解除されてるだろうから。


 ぶうん

 かぽっ


 ペロペロキャンディーは見事に口に入り、エイミアは口を閉じる。今だ!


「えいやあっ」


 ゴムチューブを持って走り、限界ギリギリまで引っ張る。そして。

 離す。


 ぴちぃぃぃぃぃぃん!

「いったあああああああああああいっ!!」


 よし、間違いなく起きた。



「びええええっ!」


 口周りを真っ赤に腫らしたエイミアが、泣きながら艦橋にやってきた。相当痛かったみたいだ。


「今度から寝ぼけてバリア張らないように」


「びえっ! びえびえびええ、びえっ!」


 何か言ってるみたいだけど……ようわからん。


「びえっびえっびえっ! びええええっ!」


『エイミアは「今度から気を付けます。だからゴムパッチンは止めて」と言っています』


 わかるのニーナさん!?


「……なら今度からバリアはなしね」


『びえびえびええ、びえっ!』


 ニーナさん、翻訳しなくていいから、普通にしゃべってください!


「びえっ!」


『了解だそうです』


 何語なんだよそれ!?


『それとサーチ、ナタの拭き掃除ももうすぐ終わるようですよ』


 …………おお、すっかり忘れてたよ。



「くすん、くすん……口がまだ痛いですぅ」

「はあ、はあ……つ、つっかれたぁ……」


 自業自得でしょうが。


『サーチ様、こちらから呼び掛けてみますか?』


「あの難破船に? 誰かいるのかしら?」


『念の為ですわ。遭難の可能性も0ではありません』


 ……そうね。


「ならお願い」


『畏まりました』


 そう言うとライラちゃんはマイクに向かって語りかける。


『こちらはキュアガーディアンズパーティ始まりの団(ファーストオーダー)です。誰か居るのでしたら返答をお願い致します』


 ライラちゃんが繰り返す隣で、画面に映る難破船を拡大してみる。


「……人影は……なさそうね」


 艦橋は強化ガラスが割れてヒドい状態だ。とても生存者がいるとは思えないけど……。


『聞こえますか? こちらはキュアガーディアンズパーティ始まりの団(ファーストオーダー)です』


「ライラちゃん、そろそろ」


 止めようか、と声をかけようとしたとき、それは起きた。


 ズガアアアアン!


「わっ!?」「きゃ!」「な!?」『何事ですの!?』


 ヴィーッ ヴィーッ


『左舷に被弾! 被害は軽微です!』


 被弾って……!?


『左側に艦隊出現! まだワープアウトしてきます!』


 艦隊ですって!?


「これはどうにもなんない。とりあえず逃げるわよ!」


『か、艦隊から強制通信! このチャンネルは…………宇宙連合軍です!』


 はああっ!?

 何てビックリしている間にも、画面は全て厳ついオッサンの顔に切り替わる。


『こちらは宇宙連合軍・星間警備派遣部隊。この通信を受けている船は航行を停止し、我々の指揮下に入れ。繰り返す、こちらは宇宙連合軍・星間警備派遣部隊……』


 宇宙連合軍ってのは……要は国連の多国籍軍みたいなヤツ。


「……何でこんな場所に連合軍がいるのよ……」


『どうしますか?』


「どうするも何も……戦って勝てるわけないし、逃げられるような距離じゃないし…………ニーナさん、船を止めて。ライラちゃん、連合軍に指揮下に入る旨伝えて」


『……わかりました』

『畏まりました』


 ……さてさて、厄介なことになったわね……。

捕獲されます。

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