EP21 ていうか、マーシャンは語る。
「ふんふふんふふーん♪」
ようやく下痢が治った夜。私は久々に解禁できたお酒でテンションがハイになり、部屋の姿見にビキニアーマー姿の自分を写してポーズをとっていた。
「やっぱり〜♪ 私には〜♪ ビキニアーマーが〜♪ よく似合う〜♪」
欲を言えばもう少し胸を大きくしたいけど、Dを維持できてるのは上出来だ。
「括れは文句なしだし。努力の結晶よね、うん」
「そうじゃな。妾から見ても、中々に魅力的じゃぞ」
「そうでしょそうでしょ……って、んん?」
誰もいないはずの私の部屋に、私以外の気配?
「ていうか、侵入者あああああ!!」
ばきゃあ!
「ほぎゃ!?」
振り向きざまのローリングソバットが侵入者の頭に決まる。
「うりゃ!」
「おごあっ!?」
続けざまに放ったドロップキックが侵入者の顔にまともに入り、壁まで吹っ飛ぶ。
「まだまだあ!」
「ぎぃやあああああああああ!」
倒れた侵入者の足を取り、足四の字固めで締め上げる。
「誰か知らないけど、私の部屋に忍び込むとはいい度胸ね! 身体中の関節外してやるわ!」
ギリギリギリギリ……! めきめきめき!
「の、のおおおおおおおおお!? ぎぶ! ぎぶじゃあああああああ!」
「始まって一分弱でギブアップなんて恥なだけよ! まだまだ耐えて盛り上げなさいっての!」
「な、何の事じゃぎゃああああああああああ!!」
ごきぃ
「はぅあ!?」
変な音がして動かなくなってる間に、うつ伏せにして首と足を極める。
「くらえ! 超野のSTFよ!!」
蝶の字が違うけど気にしないで!
「あがががががががが!」
床をバンバン叩いてるけど、ギブアップは許しません。
「今度は首を外してやる!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
めきめきめきめきめきめき……くきっ
「お゛あ゛!? …………ぐふっ!」
「よし、逝ったわね…………ん?」
よくよく見てみれば……マーシャンじゃないの。
「わ、妾を殺す気か!?」
「やかましいわ! 殺されたくないんなら、普通にドアをノックして入ってきなさいっての!」
自分で自分を治療したマーシャンの文句を一蹴する。
「全く……もう少しで死ぬところじゃったぞ」
「そのまま死んだ方が世のため人のためよ」
「酷い!」
「だったらプライバシーに配慮しなさいっての。何回おんなじことすんのよ!」
「わはは、済まぬのじゃ」
「わはは、じゃねえ!」
どごっ!
「ぽげしゃあ!?」
座っていたベッドから吹っ飛び、マーシャンは再び動かなくなった。
「……ちーん」
「生きとるわい!」
「……チッ」
「何じゃ今の舌打ちは!?」
「ていうかマーシャン、一体何の用なのよ」
「話を逸らすでないわ!」
「あそ。んじゃ侵入者撃退の続きを」
「じょじょじょ冗談なのじゃ、大事な用件があるのじゃ、うむ」
なら最初から普通に入ってきて話しなさいっての。
「で? 何の用なの?」
「うむ。其方が捕まえた下着ドロボーの件じゃ」
ウィリーの?
「何やら異常なスキルを使っておった、という報告を受けての。妾が直々に調査に来たのじゃ」
「マーシャンがわざわざってことは……神命の宝玉に関わること?」
「そうじゃ。残る宝玉、覇王の宝玉の欠片の可能性を感じての」
「…………あ、覇王の指輪が!?」
「そうじゃ。何処にある?」
「指輪なら……〝刃先〟が持っていったわよ」
「……む? 〝刃先〟じゃと?」
「ええ。抵抗してもムダだと思ったから、指輪は持っていかせたわ」
「ふむ……それが賢明じゃろうな。あの者が相手では、サーチでは到底敵うまい」
「……言ってくれるじゃないの」
「何を言うておる。それがわかった上で、戦う事を避けた其方を誉めておるのじゃよ。大概の者は勇気と無謀を履き違え、命を散らすからの」
誉められた気がしないんですけど。
「それよりもさ、何で院長先生や〝刃先〟が敵に回ってるわけ? 元々はマーシャンの仲間なんでしょ?」
「それはそうじゃろ。元々仲間であったが故に、妾の暴走を止めようとしておるのじゃから」
「…………は?」
「冷静に考えてみよ。自分達の仲間が己の私利私欲の為に世界の根元とも言える力に手を出し、世界の改変まで引き起こしてしまったのじゃぞ」
……うーん……確かにそう言われれば、止めにも入るか。
「つまり……マーシャンに協力してる私達が変だってこと?」
「世間一般の常識からは外れておるの」
……なのかな。
「って、なら院長先生からも敵認定されたり!?」
「それは無い。〝飛剣〟は其方に甘いからの」
「……そういう問題?」
「〝飛剣〟に言わせれば『マーシャよりさーちゃんが百倍大事よ』という事じゃったな」
……喜ぶべきなのやら。
「でもマーシャンのしようとすることは、妨害する気満々なのよね?」
「そうじゃ。つまり、妾に味方するという事は〝飛剣〟と敵対する事になるのじゃぞ?」
「…………そうなっちゃうのよね〜」
「何じゃ、一度は暗黒大陸でそうなったじゃろうが」
「……まーね。だけど……うーん…………ま、いいわ。これは私自身の問題だから、私自身が折り合いをつけなくちゃならないことだし」
「……そうか。サーチや、一つだけ言っておこう」
「何よ」
「其方がもしも〝飛剣〟に味方する事を選んでも、妾は其方を恨む事は無い」
「っ!?」
「じゃからサーチ自身が決めた道に、堂々と進むが良いぞ」
「…………っ」
どごっ!
「ぐぼあ!? 何をするんじゃ!?」
うるさい! マーシャンのくせに、変なこと言うな!
「……もう良いかの?」
「うるさい! あっち向いてろ!」
「わかったわかった。早くせいよ」
たく……変なこと言うから、目にゴミが入ったじゃないの……。
「目が大きいと大変じゃの。入らなくてもいいゴミが沢山入るんじゃな」
…………。
「妾もそんな大きな瞳の時代があった。しかし、それは遠い過去じゃ」
…………。
「今になって思うのは、この大きい瞳は決して失うてはならなんだ、という事じゃな」
……マーシャン。
「サーチ、その気持ちを大切にするんじゃぞ……ではな」
ギイ……バタン
……。
『…………ふ……ふははははははは! サーチが泣いた! サーチが泣いておるぞ! ふははははははは!』
……ぶちぃ
バーン!
ドアを蹴破って、ガンブレードをガンモードに切り替える。
ガチャン ズギュゥゥゥン! ズギュゥゥゥン!
「のわあああああっ!」
絶対にぶっ殺す!!
マーシャンはやっぱりマーシャン。




