EP19 ていうか、カンパーイ♪
ウィリーはそのまま警察に引き渡したけど、目は完全に死んでいる感じだった。自分が頼りにしてきた切り札を失えば、それはそうなんだろうけど。
「ま、元気出しなさいよ。で、今度こそ真っ当になるのよ」
「…………」
……ダメか。心、ここにあらずだ。
「サーチ……」
「仕方ないわ。これも今までの罪の報いなんでしょうよ」
「……行こうよ、みんな。ボク達にもやらなくちゃいけないことがいっぱいあるんだから」
『そうで御座いますね。ではウィリー様、ごきげんよう』
ライラちゃんの丁寧な挨拶にも、反応を示すことはなかった。
その後ウィリーは刑務所内でマジメに働いて更正し、一般市民として暮らしていったそうだ。
「ま、後味は悪かったけど、事件解決を祝してカンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
『では料理は順番に運んできますね』
船に戻った私達は、ささやかながら飲み会を開いた。店で飲もうと思ってたんだけど『私に御馳走させて下さいませ』と言ってライラちゃんが退かなかったのだ。
「せっかくライラちゃんにも羽根を伸ばしてもらおうと思ってたのに」
「仕方ないですよ。ライラちゃんにとっては、主のお世話をする事が何より大事なんですから」
ホントのご主人様はリファリスなんだけどなぁ。
「いいじゃん、やってもらえば。エイミアの言い様じゃないけど、ライラちゃんからメイドの仕事を奪うのは、ウィリーから下着ドロボーを奪うのと一緒だよ」
説得力あるわ。
「ま、食べるモノ食べたらライラちゃんにも飲んでもらえばいいか。あ、お酒一樽追加ね」
「え゛」
「あ、私もください」
「え゛え゛」
「へえ。エイミアも飲めるようになってきたわね」
「私だってお酒は随分鍛えられましたから。サーチ、今回は勝ちますよ」
「………………何の勝負で?」
「飲み比べです!」
うっわあ……エイミア、自分がどれだけ無謀な勝負を挑んでいるのか、わかってるのかしら。
「……いいわ。受けて立ちましょう」
「おーおー、これは面白いことになったね。でもサーチってザルなんでしょ? 勝負になるの?」
「いえ。今回は私が勝ちます!」
「……ま、いいけどね」
やがて背後に酒樽が現れた。ニーナさんが出してくれたようだ。
「じゃあそれぞれにジョッキを持って」
ナタが並々と注ぐ。
「じゃあ……スタート!」
私とエイミアは同時にジョッキを口に運ぶ。
ごくごくごくごくごくごく
「ぷはあ……お代わり」
「私もです」
お、エイミア、随分と早くなったわね。
「……はい、二杯目。スタート!」
ごくごくごくごくごくごく
「ぷはあ」
「うぷ……の、飲みました」
「エ、エイミア大丈夫?」
「げぷ……だ、大丈夫です」
あら、もう余裕がないのかしら。
「じゃあ三杯目……スタート!」
ごくごくごくごくごくごく
「ぷはあ」
「う、うぷ……の、飲みました…………ふぐっ」
エイミアが口を押さえて走っていく。だから言わんこっちゃない。
やがて。
「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぷ」
「…………」
「…………」
「あースッキリしました! さあ、まだまだいきますよ!」
「…………」
「…………」
「な、何ですか!?」
「……エイミアさあ……」
「……女の子なんだから……」
「うっ……そ、それはそれです! それよりサーチ、まだ勝負はついてませんよ!」
…………ま、いいけどね。あんたに彼氏がいたら、百年の恋だろうが、今のゲップ一発で冷めたでしょうね……。
ごくごくごくごくごくごく
「ぷはあ」
「うぷ……の、飲みました」
そろそろか。
「エイミア、行ってらっしゃい」
「ご、ごめんなさい……」
再びゲップをしにいくエイミア。その合間にライラちゃんの手料理をいただく。
「……うん、美味しい。酒の肴には最高の味つけね」
『有難う御座います』
酒樽もお皿も順調に積み上がっていく。
『そろそろ邪魔ですわね。一度酒樽を片付けて参ります』
「うん、お願いね」
げぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぷ!!
「……すいません、お待たせしました」
「そろそろ止めた方がいいんじゃない? 足取りが危ないわよ」
「ま、まだまだ、まだまだ行けまふ」
…………はあ、仕方ない。
「ニーナさん、麦芽酒……じゃなくてビールを止めてウイスキーにして」
『……ストレートですか?』
「それも樽ごとでいいわ」
『……わかりました。サーチ、加減してあげてくださいね』
……ごめん、ムリ。
「エイミア、こっちのお酒ならゲップの心配はいらないわ。これで改めて勝負してみない?」
「え、本当れすか? なら大歓迎れーす」
「……サーチ、ヤバくない?」
「え? 私はまだ全然大丈夫よ?」
「じゃなくて、エイミア」
「うん。だから止めを刺す」
「……はああ。知ーらない」
再び並々とジョッキに注がれる。ただし、今回はウイスキーですから。しかも、ストレートの。
「それじゃあ……もう何杯目か忘れた……スタート!」
ごくごくごくごくごくごく
「ふぅい」
「の、飲みまひひゃ〜〜…………はうっ」
バッターーン
「……はい、エイミア陥落」
「陥落って……普通に急性アルコール中毒で死ぬレベルだよ!?」
「大丈夫よ、エイミアは自動で身体を治療できるから」
「べ、便利なスキルだけど……逆にこういう扱いをされるんなら、嫌だなあ……」
「ていうか、私なんか命の危険もないわよ?」
「逆に聞きたいんだけど、これだけの量の液体はどこに消えたのかな!?」
床に大量に転がる酒樽を指差してナタが叫ぶ。三十くらいはあるだろうか。
「………………消化したのよ、きっと」
「トイレに一回も行ってないよね!?」
…………そういえば。
「うーん…………蒸発したのよ、きっと」
「蒸発するかああああああああっ!!」
うーん……ホントにどうなってんだろ。気にしたことがなかったわ。
「……うーん……頭痛いですぅ……」
『お早う御座います、エイミア様』
「あ、おはよう、ライラちゃん。私、どうしてたのかな?」
『サーチ様との飲み比べの際に、そのまま眠られたのですよ』
「あ、そっか。私、サーチに負けたんだね」
『……勝てるとお思いでしたか?』
「うーん……やっぱり無謀だったかな」
『しかし……サーチ様をあそこまで追い詰めたのですから、エイミア様はご立派ですよ』
「え? サーチを追い詰めた?」
『ええ。サーチ様は今、トイレに籠りっぱなしですわ』
「はい?」
『酷い下痢だそうです』
「…………」
『サーチ様にも限界はあったのですね』
エイミア、一矢報いる?




